オークの集落
「返せー、あたいの初めてを返せー! 旦那様との記憶に残る思い出“ピー“プレイになるはずだった、あたいの初めてを返せー!」
イズナの通信魔法からレーヴァの乙女の叫びが聞こえる。叫びと共に大気が震え、大地が揺れる。炎を纏った爆発が木々をなぎ倒し、地には大きなクレーターが作られていく。
陽動作戦というより殲滅作戦という感じである。レーヴァが腕を一振りするたびにオーク達は消し炭をなり、その余波が森を焼いていく。オーバーキルを通り越して天変地異。ぺんぺん草の一本も残らない真の環境破壊であった。
この時の爆発や振動は離れたコーアンの町にまで届いていたという。
「・・・レーヴァ殿、おいたわしや」
レーヴァがオークの“ピー”で“ピー”した挙句に環境破壊に勤しんでいる頃、忍び装束身に纏ったマリーは集落の中に侵入を果たしていた。レーヴァが集落の入り口付近で派手に暴れているので、多くのオーク達はそちらの応援に向かったらしく簡単に侵入をすることが出来た。
「レーヴァ殿の身を切った陽動のおかげで、簡単に侵入をすることが出来たが、どうやら件のハイ・オーク達のほとんどは集落に残っているようだな」
マリーが感じたハイ・オークの気配のほとんどが集落の中に残っており、レーヴァのもとに向かったのはわずか数体であった。マリーは自分の気配を消しながら、集落に残っているハイ・オークを端から討伐をしていくことにした。
「コマンドポスト(イズナ)へ、ハンター2(マリー)これよりハイ・オークの討伐を開始します」
「コマンドポスト了解」
集落を駆け抜けながら短い通信を終える。マリーは気配がある方に神速で近づき、建物の陰に隠れて様子を窺う。そこには倉庫のような建物の前に立つハイ・オークと思われる大剣を持った個体が確認できた。
体格的は他のオーク達より少し大きい位だが、持っている魔力は比べ物にならないほどに強い。稚拙ではあるが驚いたことに身体強化の魔法を使っているようだ。ハイ・オークはしきりにレーヴァがいる方を気にしていて、爆発が起きるたびに注意をそちらに向けている。
「殺」
マリーは持っている小太刀を手にして音も無くハイ・オークの後ろに近づくと、油断しているハイ・オークの脳髄に霊気で強化した小太刀を突き立てた。強化された小太刀の切れ味は凄まじく、抵抗なく硬い頭蓋骨で守られているハイ・オークの脳髄を一瞬で貫いた。 瞬間、大剣を持ったハイ・オークはグリンと白目を向いて膝から崩れ落ちた。強い力を持っていたはずのハイ・オークは、自分が死んだことにすら気が付かないまま、一瞬で倒されたのであった。
「次」
マリーは小太刀についた血と油を持っていた拭い紙で拭うと、次の獲物を求めて影に姿を消した。
「チェイサー1(サクヤ)、チェイサー2(リーシェ)、チェイサー3(アス)、これより集落に侵入します」
レーヴァが派手に暴れて、その隙をついてマリーがハイ・オークを暗殺する。作戦が始まってから約十分で、オークの集落の戦力の3割ほどを屠っていた。レーヴァは現在集落の入り口まで前進しており、集落への侵入を阻もうとするオークの必死の抵抗を一人で受け持ち、マリーはレーヴァの進行に気を取られているハイ・オーク達の背後から、一撃必殺の刃で確実にそして静かに倒していた。
サクヤ達チェイサーはマリーが作ったハイ・オークがいない区域から捜索を開始した。オーク達の集落には丸太や枝で作られた建物が多く、数か所ほど大きな倉庫のような物が存在した。
サクヤ達はオーク達の倉庫と思われる建物から捜索を始めた。倉庫の前には後頭部から血を流すハイ・オークの屍が倒れており、恐らくはこの建物を警備していた者であることが想像できた。周囲を警戒しながら倉庫のような建物の中に入り込むと、そこはいくつかの部屋に区切られていた。どうやら武器や食料、薪などの燃料を保管する倉庫のようだ。武器や棚、水瓶なども調べてみるが失踪者に繋がる様な情報は特には出てこなかった。
「ここには、何もないようね。次に行きましょう」
「チェイサー1、少し待ってください。これを・・・」
リーシェは食糧庫を調べていたのだが、真っ青な顔をして部屋の隅に置かれているゴミ箱のような物を指さした。
サクヤとアスはリーシェが指刺したゴミ箱のような物を覗くと、中には人間の髪の毛と思われるものとむしり取られたような肉片が付いた爪や砕かれた骨が入っていた。
「・・・これって、人間のだよね。てことはここにある切り分けられた肉ってそういうこと?」
アスが肉を指さしながらそう言うと、サクヤは顔を青くしながら相槌をうつ。
「ええ、確証もないし信じたくもないですが、これがあるということは、恐らくそういうことでしょう」
置かれている肉は小分けにされており、これだけでは何の肉かを判別することは難しいが、状況から鑑みれば元は人間であった可能性は高いと思われる。サクヤ達は他に何かないかと、倉庫を再度詳しく入念に調べることにした。
サクヤ達が倉庫を調べてしている頃、オークの集落でも異変が起こっていた。数体のハイ・オーク達が集まり話し合いをしている。その仲にいる一体は他のハイ・オークに比べて筋肉量が明らかに多く、体が引き締まっておりオーク族というよりかは人種のような骨格をしており、言うなれば鬼のようだった。
「ブヒヒン、ブヒブヒブブヒブヒブヒ(あの女は普通じゃねえ、みんな殺されちまった)」
「ブルブエブヒヒ、ブヒブヒブヒヒン、ボビーッブマヒマヒバヒンバヒン(あの女だけじゃねえ、他にも何か居る。ボビーの奴は集落の中で殺されていた)」
「うるせーな、雑魚が集まってグダグダ言いやがって」
「ブヒヒ、アビビ(ですが、兄貴)」
生き残っているハイ・オーク達が集まり、兄貴と呼ばれる集落のボスに必死にこれからどうすれば良いのかと問いかけていた。兄貴ボスオークは仲間の位置を感知することができ常に仲間を監視していてために、次々と仲間のオークが死んでいくのが分かった。
自分よりは弱いが人間の冒険者達をも圧倒した自分の仲間が瞬殺されている。相手は超一流の力の持ち主であり、しかもそんな強者が複数名存在していることにも気がついていた。
「ここの集落はもう駄目だな、・・・仕方ない潮時だな」
ボスはレーヴァがいる方を見ながらひとり独り言ちる。このままでは自分も殺されてしまうだろう。兄貴ボスオークには考えた。
(俺には奥の手がある。この集落の生き残りを全員使えがば、何とかなるかもしれない)
静かにそんなことを考えている兄貴オークの様子をハイ・オーク達不安そうに見つめていた。
「アビビ?(兄貴?)」
「よし、お前ら死ね。俺に食われて力になれ」
「アビビ、ブヴィヴィ?(兄貴、今なんて?)」
兄貴ボスオークは一番側にいたハイ・オークに手を伸ばして引き寄せ、首に齧りついた。流れる血を啜る合間から、青い光るものが兄貴ボスオークの口に入り咀嚼され噛み砕かれているのが見て取れた。
「アビビ、アベシ?(兄貴、なんで?)」
首を食われたハイ・オークは血反吐を吐きながらそう言うと、二度と動くことのない肉塊となる。ボスは悪びれることなく屍となった仲間を投げ捨て言った。
「お前らの魂は俺が全部食ってやる。全部食って俺は強くなる。知っているだろう、俺のスキル“悪食”は食えば食うほど強くなる。お前達は俺のお陰でただのオークから進化していい夢を見たんだ。その恩返しをしてもらおうか。何、心配はするな。ここに居るお前達の女も子供も、全部食って直ぐに俺の腹の中で会わせてやるからよ」
兄貴ボスオークはまだよく事態が呑み込めずに混乱しているハイ・オーク達に手を伸ばし、喰らっていく。
「バヒン、バヒン、ブルルンボフ(止めて、止めて、食べないで)」
「ンゴ、ンゴ(嫌だ、嫌だ)」
「いいから死ねよ」
ボスは躊躇することなく、一体また一体と仲間の魂を喰らっていく。その場で動く者がなくなると、ボスは集落の女子供の魂を牙にかけ始めた。
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