種族の違い

「お前らも、俺の糧となれ」


 〇兄貴キングオークは仲間であるはずのオークを次々と殺していく。抵抗も出来ないまま次々とオーク達が殺されていく。そこには女の子共も関係はない。目についたすべての者を殺して、魂を喰っていた。


「子共だけは、子供だけはどうか、どうかお助け下さい」 


 逃げ遅れたのだろう、オークの亡骸に囲まれながら親子と思われるオーク達が身を寄り添い怯えながら立っていた。母親と思われるオークが自分の子供を守るように抱きしめながら、超〇貴キングオークへ子供の命だけは助けて欲しいと懇願をしている。


「子供の、娘の命だけは、ゴフッ」


 超兄〇キングオークは母の願いの言葉に、何の興味も何の感情も慈悲の心などを持つこともなく、母オークの首を手刀で切り落とした。


「お母さん、お母さん」


 母の血を頭からかぶり血まみれになりながら、子供のオークは力なく倒れた母の亡骸に必死に抱きついている。〇兄貴キングオークは母の亡骸にしがみ付いて泣き叫んでいる子オークを鬱陶しそうに足で蹴とばすと、その亡骸から天に登ろうとしている魂を捕まえて血肉ごと咀嚼して喰らっていく。


「止めて、止めてよ。お願いだからお母さんを食べないでよ」


 母が食べられる所を見ていた子オークは、蹴られて怪我をした痛みすらも忘れて必死に超〇貴キングオークが持ち上げている母の亡骸にしがみ付き力一杯に引っ張り、超〇貴キングオークの手から救い出そうとしていた。


「ウザ」


 超兄〇キングオークは母の亡骸にしがみ付く子オークを煩わしそうな目で見ると、魂を食べ終えた母の亡骸ごと子オークを遠くへ投げ飛ばしてしまった。子オークは母の亡骸こと地面に叩きつけられたが、その痛みすらも忘れて、「お母さん、お母さん」と泣きながら母の亡骸の胸に抱きついて離れようとしない。

 〇兄貴キングオークは母に抱きついて逃げようとしない子オークの傍にやって来ると、迷いの無い殺意がこもった蹴りを子オークに向けて繰り出した。



 しかし、ドンという大きな音と共に超〇貴キングオークが繰り出した蹴りは子オークに当たる直前で、飛びこんで直也に受止められた。

 

「何?」


 全力ではないものの、突然現れ自分の蹴りを簡単に受け止めた人間の男を超兄〇キングオークは警戒し、飛びのいて距離を取った。


「お前はどうしてこんなことが出来る」


 直也は腹から絞り出すように怒りに満ちた声を出しながら、子オークの前に庇う様に身を乗り出した。


「貴様は何者だ? 何故俺の邪魔をした」


「子供が殺されるのが見過ごせなかっただけだ!」


「貴様は冒険者か、一体何を言っている? 貴様は今ここを襲っている奴の仲間だろう。 ならば俺が殺さなくとも貴様達が俺達を皆殺しにするのだろう? 現に貴様らは多くの俺の仲間を既に殺しているじゃないか」

 

 〇兄貴キングオークは直也を憎悪に満ちた目で睨みつけて言った。しかし直也は一切の動揺すら見せずに冷静に超〇兄貴キングオークを見据えて話した。


「僕はお前達に殺された人達の家族から依頼を受けて討伐に来た」


「ふん、知らんな、俺達は生きる残るために人間を殺しただけだ。何も悪いことはしていない。貴様達だってオークを沢山殺しているだろう。所詮は弱肉強食、お前達だって家畜を殺して喰っているではないか」


「確かに人間は生きるために他の生き物を食べる。それはお前達と変わらない。けれど人間は糧となった命に感謝を忘れない」


「何綺麗ごとを言っている? お前達人間は生きるためだったら何だってする。俺達以上に残酷な奴らだ。同族だろうが何だろうが奪い殺して、骨までしゃぶり尽くすではないか。人間こそ、クソの詰まったクソ以下の生き物だ」


「確かに残酷で悪意の満ちた悪人はいるさ。だけど、人間の皆が皆、全員が悪人なわけじゃない。善人だって」


「仲間を殺したお前が言うな! 悪人だろうと善人だろうと、そんなことは知らんしどうでもいい。オークと人間は違う価値観を持った別種族だ。決して分かり合う事など出来ない。俺はお前達の仲間の人間を喰った。お前達は俺の仲間を殺した。だから俺達は殺し合う。それで十分だろう」

 

 仲間の肉を、魂を喰っている姿を確認した時から感じていたことだったが、予想通りに目の前にいる異質な力を持ったオークが行方不明になった人間を殺してした犯人だった。


「お前、攫った人間を全員食べたのか?」


「ああ、全員俺が喰ったさ。俺には特別な力があり他者の魂を喰うと強くなれるんだ。強くなるために全員俺が喰ってやったさ。残骸は部下に食わせてやった」


「そうか」


「こいつらを喰ったのもそうだ。お前の仲間は強い。俺より強い力を持った奴がいる。だから俺は喰った。仲間を喰って強くなり、少しでも俺が生き残る可能性と上げようとしたまでだ。そうだ、貴様達がさせたのだ。貴様達がきたから俺は同族を喰った。生き残るために女子供達まで俺は喰ったのだ。俺は何も悪くない!」


 超〇貴キングオークは叫びながら魔力を開放して直也に向かい飛び込んで来た。魔力で強化した体で右左の拳を目に止まらぬ速さで無数に打ち込み、その一撃一撃が大岩をも破壊する威力を持っていた。

 

 子オークが自分の後ろにいる直也は逃げることが出来ないので、繰り出された拳の全てを受け止めた。直也に拳を受け止められた超兄〇キングオークは驚きつつも嬉しそうな顔で直也に言った。


「本気ではないといえ、俺の拳を苦も無く受け止めるとは、貴様も中々やるな。ふはは、そうだ、貴様も俺が喰ってやる。そうすれば、俺は外で暴れていた化け物よりも強くなれるかもしれない。生き残れるかもしれない。貴様達を皆殺しにして、もっと強くなれるかもしれない」


 嬉しそうに殺すと話す超兄〇キングオークに直也は静かに顔を向けると、自身の霊気を開放してした。

 突如解放された直也の力を感じた超兄〇キングオークは、自分を越える力を本能で感じて、怯え恐怖してしまった。

 

「俺が人間ごときに恐れを感じただと? そんなはずはないこんな小さな人間に、俺が恐怖を感じる訳がない。俺よりこんな人間が強い訳がない!」


 ウオー、と大声を出しながら混乱し興奮して恐慌する〇兄貴キングオークは、自身の持つ全魔力を振り絞ると全身を強化して地面を蹴り込んだ。超〇貴オークは激しく吹き上げる土煙を目くらましとして、背を向けて全身全霊を持って逃走を開始した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る