いざ冒険へ

請求書を三度見してしまうほどの飲食代を支払った直也は、この町に来た本来の目的である街道に出没するハイオークの群れを討伐するため、イズナやサクヤ達を伴いコーアンの町を出た。


 町の街道を囲むように生茂る森の奥に潜み行き交う旅人を襲うと言うハイオークは、通常B級に属する魔物とされており、B級以上の冒険者パーティーであれば問題なく討伐が可能であるのだが、領主が派遣した兵や町の冒険者が何度か討伐を試みたものの全ての作戦で失敗し被害が拡大していた。


 帰還した者の証言をまとめると、ハイオークの中に数頭のA級クラスの力を持ったと思われる個体が存在し、そのハイオーク達はオークの部隊を指揮して戦術的な戦闘行為を行っていたとのことだった。


「ムムムッ、直也さん! あっちに方に怪しい反応が有ります。私と二人で先行偵察に行きましょう。皆さんは私と直也さんがご休憩から、ゴホン、ゴフン、いえ偵察から戻るまでここから動かず待機していて下さい」


 あまり光が入らない薄暗い森の奥を指さしながらリーシェはそう言った。


「お前は何を言っているのだ? あっちにはオークはいないぞ」

「リーシェ、あなた今ご休憩って言ったわよね?」


 リーシェの言葉をマリーが否定し、サクヤが気になるワードにチェックを入れる。しかしその言葉は、直也の腕を引っ張り森へ連れ込もうとするリーシェの耳には届いていない様だった。



「あの子は本当に変わったな。前に持っていた奥ゆかしさと言うか遠慮と言うか、そういうものが無くなって積極性の塊みたくなっている。私も見習わなければ」

「姉さん、あいつはただ本性を出しただけだぞ。あいつは元からエロフだったんだ」


 感心した様子でイズナがリーシェを見ていると、隣にはレーヴァが来ており胡散臭い者を見る様な目をしながら話しかけてきた。昨日から行われているリーシェとレーヴァの舌戦にはどうやらまだ決着がついていない様だった。


「リーシェさんにはとても親近感を感じます。そうです、私もこうしてはいられません!

イズナたま、我々もあっちの方に偵察に参りましょう。特にあの暗がりの辺りを念入りに調査とご休憩を、」


 シュ、ドゴツン!!


「グフッ、アフン」


「だまれ、変態!」


 イズナの音速の壁を軽く超えた目にも止まらぬ鋭い右のフックがフレイヤの顎を打ち抜き、フレイヤ静かに意識を手放した。


 ちなみにではあるが、フレイヤは戦巫女ヴァルキリーである。その実力は人が定めるところのS級クラスを遥かに超えた力を持っている。イズナのような戦術核クラスの所までは届かないが、本気になればこの世界の地方の一都市ならば一撃で吹っ飛ばすことが出来る位の力は持っている。


「だんだんお前を殴るのに抵抗がなくなってきたな。始めはどうやってお前を修正してやろうかと悩んでもみたのだが、今となってはどうやらもう手遅れのようだし」

「こいつも始めは真面目そうな奴だったのにな」


 握りこぶしのままで静かにフレイヤを見下ろすイズナと、残念そうな顔に残念そうな瞳でスレイヤを見下ろすレーヴァ。イズナが、自分の後継者候補であるフレイヤのこと色々と諦めなければならないのかも?と、強く感じた瞬間だった。


「・・・おいて行くか」

「・・・別に良いんじゃないか?」


 イズナとレーヴァはお互いの顔を見合せて、頷き合いと口を開いた。


「いいよな」

「うん、いいさ」


 満場一致の採決(2/2)の結果を得て、幸せそうな笑顔を浮かべたまま倒れているフレイヤは、本当にその場において行かれることが決まった。




 一方リーシェは、サクヤとマリーに左右からガッチリ拘束されながらも、まだに諦める様子はない。


「お二人とも放してください。私には直也さんとヤらなければない、崇高で負けられないな行為があるんです。早くあっちの森で私を調査シテもらわないといけないんです」

「リーシェ少し落ち着きなさい。ここには仕事をしに来ているのですよ」

「何がやらなければならない崇高な行為だ。調査するのならまずはお前の頭を調査しろ。きっと今すぐに入院が必要と言われるぞ」


 二人に両腕を抱えられ必死に抵抗しながらも、リーシェの心はまだあきらめることを知らない。直也は溜息をつきながらその様子を見守っている。


「リーシェは凄く積極的になったね。私は好きだな」

「と言うか、少し乱心してないか?」

「リーシェは素直になる事にしたみたいだよ。主様を自分に振り向かせるって」


 アスと直也の会話を聞こえていていたのかリーシェは二人に抑え込まれながらも身を乗り出して大きな声で叫んだ。


「直也さんは私の宿命の人ですから!」


 運命を越えて、生まれる前から決まっていた宿命の人だと笑顔で語るリーシェ。その目には狂気の光などはない、気が触れている様でもない。


 ただただ、本気でそう信じているようだ。

 非常に想いが重い。

 愛情が重くて症状まで重い。


「主様、愛されているね」

「これも愛なの?」

「うん、むしろ愛以外には何もないくらい純粋な愛情だね。 ・・・方向性には多少の問題はあるけど」

「・・・・・・」



 S級冒険者パーティーアマテラス。 

 その行く手を計算された陰謀や戦闘人員の脱落、メンバー同士の争いなどが次々と襲い掛かる。


 パーティーは疑心暗鬼となり分裂を始め、お互いを監視し合う。



 まだ、コーアンの町を出て三十分ほど。彼らの冒険はさっき始まったばかりである。








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