和解

「こんなところで寝ていたら主様が風邪をひいちゃうかも」


 ソファーに横たわっている直也を見たアスが何の気なしに呟くと、その言葉に大きな反応を見せた者達がいた。


「風邪! それは大変です。アスさんどいて下さい。私が布団の変わりに直也さんの体を温めます。ちょっと恥ずかしいけど直也さんのために、私頑張ります!」


 リーシェはそう言うとアスを押しのけてソファーで眠っている直也の体の上に跨り、抱きつこうとした。リーシェは恥ずかしそうにそう言うが、直也の太ももに跨るという大胆なリーシェの行動には一切の迷いは感じられない。


「そこまでだ、リーシェ! 旦那様を温めるのはあたいの仕事だ。あたいは火竜。火竜のほっこり温か肉布団。旦那様を風邪から守るのは、ファイヤーブレスがもれなくついてくる肉布団のあたいの仕事だ!」


 直也の太ももにまたがって座り、今にも直也の胸に抱きつこうとしていたリーシェは、レーヴァに制止されて少し機嫌が悪そうだ。


「いいえレーヴァさん、私はエルフ、安らぎの森の精霊です。レーヴァさんは終焉なんて呼ばれている争いの権化じゃないですか。直也さんだって私の方がゆっくり出来ます! ねぇ直也さん♡」


「リーシェ恐ろしい子。一晩でこんなに積極的に成長するとは」


リーシェはレーヴァに言い返しながらも直也の胸に指で、のの字を描いている。今までにないリーシェの行動をアスが称賛し、レーヴァは悔しそうに、羨ましそうにしている。


「ふん、旦那様は私の大きなおっぱいが好きなんだ。大好きなおっぱいを枕にしたら旦那様は泣いて喜ぶだろうな。ねえ、旦那様も薄いのよりも大きなおっぱい枕の方が良いよね♡」


レーヴァはリーシェに負けまいと、直也の顔に自分の大きな胸を押し付け始めた。

直也が少し反応をした。 ような気がした。


「ほーら、旦那様の大好きなおっぱいだよ。パフパフだよ♡」


「くう、私がパフパフ出来ないと思って! 直也さんこっちのおっぱいもどうですか? 私のはそんなに大きくはないですけど、ハリと形には自信があります♡」


「止めろリーシェ。あたいのパフパフが一番旦那様を喜ばせることが出来るんだ!」


「そんなの嘘です。見て下さい、直也さんは私の美乳おっぱいをとっても喜んでいます」


 二人のおっぱいに顔中を面制圧された直也は、呼吸が苦しくなったのかフガフガと荒い呼吸を始め、覆いかぶさる物を避けようと必死に手を伸ばした。


「いやん♡ 直也さんが私のおっぱいを揉んで吸っています。直也さん、直也さんだったらナマでも」


「旦那様があたいのおっぱいに顔を擦りつけて! あたいのおっぱいに唾を! あたいのおっぱいを力強く蹂躙して! あたいは今旦那様にマーキングされている! 旦那様の物にされている♡」


「息が苦しいだけだと思うな」


 突っ込みながらも二人の掛け合いを楽しそうにアスが見ていると、とうとう二人は言い争いを始めてしまった。


「リーシェ、直也様から降りろ、マジで話がある」

「私もレーヴァさんに言っておきたいことがあります。それからレーヴァさんこそ直也さんから早く離れて下さい」


 リーシェとレーヴァは直也から離れるとお互いの額を合いながらくつけ合ながら、大声で話を始めた。内容は単純に直也のことをどちらが思っているかという内容だ。


「二人共恥ずかしいから程々にね。主様は私が温めておくよ。 ・・・ああ、この感じは久しぶり、安心するな」


 アスは直也と時の牢獄で過ごした日々を思い出しながら直也の首に手をまわし、胸の上で眠るのであった。





 突然乱入し、大騒ぎを始めた三人を半眼で眺めつつ、イズナは自分の前で土下座する者達がいることを思い出して、深呼吸をして自分を落ち着けせた。


 本当はリーシェとレーヴァの話に異を唱えつつ、直也の胸で眠るアスを引っぺがして自分が代わって眠りたい。そう思っているのだが、ギルドの面々を無視する訳にもいかない。それはサクヤ達も同じようで、リーシェが直也に跨ってからは二人共心ここに在らずと言う状態ではあるが、一応は話し合いには参加している。

 イズナは恥ずかしいことを大声で叫びあっている二人から目を離すと、目の前で土下座を続けるバッカスに声をかけた。


「それで、あなた方は何に対する謝罪をしているのか?」


「昨、夜の、ギル、ド、の」

「はは、昨夜の当ギルド所属の冒険者が皆様にご迷惑をかけた件についてでございます」


「それは私達が誰かと分かっていると?」


 イズナを前にして物を話すことが困難となったバッカスの変わりに、補佐役のロイスがイズナ返答をなった。


「勿論です。あなた様はS級冒険者パーティーのアマテラスのフォックス様、あちらはセフィロトのシラサキ様とメイドのシーテン様であると理解しております」


「そう。でも、私が聞きたいのは直也様のこと。昨日の奴らの事などはどうでも良い」


「タカスギ様のこと、でございますか?」


「どうして直也様をここに居て、しかもあんな姿でソファーに寝かされている」


「タカスギ様は昨夜、当ギルドのギルドマスターのオーザケと酒を酌み交わした際、意識不明にまで泥酔されたタカスギ様を当ギルドで保護させていただきました」


「それで?」


「はい、タカスギ様は先ほどまではお休みのご様子でした。恐らくはこの騒ぎを聞きつけて二階の部屋から出てこられたのだと思います。それでタカスギ様が騒ぎの仲裁に入ったところで、あちらのシーテン様に叩きふせられておりました。私共は一切の危害をタカスギ様には加えておりません」


「なに?」


 イズナは指さされた方を見るとサクヤとマリーが立っている。サクヤは首を振り、マリーは目を逸らして、頬を指で搔いている。イズナはフゥっと深いため息をつきながらピクピクしているこめかみを指で押さえる。考えればわかることだ。そもそもただの人間が直也を傷つけるなど出来ない。取り敢えずはこのギルドの騒動の理由は何なのか、それを確かめよう。


「では、この騒ぎは一体何なの?」


「はい、恐らくではございますが先ほどからのあの方々の言動から察しますと、どうやら当方のギルドマスターが酒に酔ったタカスギ様を拉致監禁、手籠めにしたと勘違いをされているのだと思われます」


「直也様を手籠めに?」


「勘違い? しかし私達が聞き込みをしたところによると、酒に酔った直也様が、逞しい体付きの男と仲良さげに寄り添って酒を飲み、帰りには逞しい体付きの男に背負われて、宿泊施設のほうへ向かったと言う目撃情報や、直也様が嫌らしい手つきの男に背負われ尻を弄られていた、あの男は男同士が専門のチョメチョメだ、いつも男を探しているなどという、放っては置けない証言が何件もあったからこそ、我々は直也の貞操を危ぶみここに駆け付けたのだぞ」


 ロイスの言葉を聞いたマリーは疑わしそうな目で、土下座をするバッカスのことを見ながら話すと、ロイスは大きく頷き、なるほど、わかりますよとマリーの言葉に相槌を打つ。


「はい、確かに当ギルドマスターのバッカス氏には、その気があります。いや、むしろそうなのでしょう。ですが、ですが私は確信しております。バッカス氏は決して意識のない者の尻を襲う様な事はしないと」

「ロイスや、お前とは一度ゆっくりと話をしなければならないようだな」

「私は話すことは何もありません。それよりもギルドマスター。あなたはヤッてはいませんよね? 本当に何もヤッていないですよね?」

「神に誓おう、私はヤッてない。って言うか俺は女性が苦手ではあるが、いったってノーマルな性癖だ」

「なるほど、プロソロリスト、と言うことですね?」

「ロイスや、お前とは一度腰を据えてゆっくりと話をしなければならないようだな」

「何度言われても、私は話すことは何もありません」

 


 イズナは顔を真っ赤にしてロイスに毒を吐くバッカスの目を見て、真実だと感じた。イズナは直也の前ではポンコツだが、これでも千年の時間を生きている。その中で様々な人間を見て来ているので、嘘をついているか、嘘をついていないか位であるならば一目で見分けることが出来る。本人が言う通り彼はプロのソロリストなのであろう。


「信じよう」


 イズナがバッカスに向かってそう言うと、バッカスとロイスの顔から張り詰めていた緊張が少しほぐれたようだった。


「直也様が世話になったな、ありがとうバッカス殿。それと誤解とは言え私の仲間が迷惑をかけたようだ、申し訳ない」


 イズナが素直にバッカス向って頭を下げた。サクヤとマリーもイズナの他人に頭を下げるという行動に驚きながらも、イズナに続いて頭を下げて謝罪する。


「皆さま、大変申し訳ありませんでした。壊れた備品は全て弁償させていただきます」



 その言葉を聞いたバッカス達は、緊張が完全にほぐれてみんな糸が切れた人形のように

その場にへたり込んでしまった。





「馬鹿野郎! あたいの方が上手いに決まっているじゃねえか。お前のお子様テクじゃあたいには敵わないよ! なんて言ったってあたいには千年続けたイメージトレーニングで手に入れた技があるからな。・・・・・・実践したことは無いけど」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんです! そういう経験がないだけで、私だってやれば上手くできます。昔からよく長老が言ってくれました。リーシェはやればできる子だって」


 二人は衆人環視の中大声で話をしている。まだまだ恥ずかしい自身の暴露話は続きそうであった。













 










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