リーシェ、真実を知る

 遡る事数時間前の宿屋エキサイティングにて



「皆さんご協力ありがとうございました。それでは我々はこれで失礼致します」

「お前達、詳しい取り調べは明日に行うことにする。今日のところは牢で大人しくしていろ。皆の者、屯所へ戻るぞ」


 B級冒険者パーティー、マックス・マッスルズは衛兵達に縄をかけられて反抗することもなく素直に連行されていく。

 マックス・マッスルズの面々は普段から素行が悪く、今までも数多くの黒く悪い噂があり、衛兵達も目をつけていたのだが、被害者と思われる人はB級冒険者からの報復を恐れてしない、口を閉じて被害を訴えることが無かった。そのために証言や証拠が乏しい衛兵達はマックス・マッスルズ見逃がさざるお得えない状況が続いていた。


 しかし、とうとうマックス・マッスルズの悪行が裁かれる時が来た。喧嘩を売った相手は遥か格上の実力を持つS級冒険者の集団で、B級冒険者などを恐れる理由もなく犯した罪の清算をさせるためということで被害を衛兵に届け出た。

 どんな目に遭ったのか、粗野で粗暴のマックス・マッスルズの面々は終始うな垂れ、生まれたての小鹿のように全身を震わせながら素直に罪を認めた。これにより衛兵達はマックス・マッスルズを暴行、恐喝、強制わいせつ未遂の罪で拘束することが出来、過去の容疑を取り調べる足掛かりを得ることが出来たのだった。


しかし、衛兵達の予想に反して拘束されたマックス・マッスルズの面々は、聞いてもいない過去の犯した罪を、涙ながらに次ぎ次と自白し始めた。自白した罪の中には衛兵達が把握している事件の他にも、聞くに堪えない酷い内容のものもあり、厳重な監視下の基、冒険者ギルドからの情報提供や共同調査の協力要請を含めて徹底的な調査が行われることになった。


 屯所に向かい離れて行く衛兵達の後姿を見送りながら、サクヤ達は直也の身を心配して今後の相談を始めた。




「直也さん探しに行きますか?」


 心優しい森の妖精エルフのリーシェが直也のことを心配して探しの行くことを提案すると、


「大丈夫ですよ。直也さんを信じましょう」

「そうだね、ご主人様なら大丈夫だよ。直ぐ何時ものように笑って帰って来るよ」


 リーシェを安心させようとサクヤとアスは優しく声をかけたが、リーシェの顔から不安の色は拭うことはできなかった。


「でも、私心配です。あんな直也さんとっても悲しそうな姿初めて見ました」

「そうだな、旦那様があんな姿を見せたのは大戦の時だけだな」

「そうですか。直也さんは前にも・・・って、え、大戦? 直也さんが戦争ですか?」


 相槌を打つようにレーヴァが話した戦争と言う言葉にリーシェは違和感を覚えた。直也と戦争がまずイメージすることが出来ないし、ここ数年各地で小国同士の小競り合いなどがあっても戦争、ましてや大戦と呼ばれる大きな戦いは何百年と起きてはいないはず。人間種の直也の年齢では今までに戦争なんて一度も経験したことがないはずだ。リーシェはそう考えて素直に疑問をレーヴァに尋ねたのだった。


「うん? 旦那様とあたいの戦争って言ったら、大戦の事に決まっているだろう」

「もう何百年も大戦なんて無かったと思うのですけど?」

「お前は旦那様のことをちゃんと知らないのか?」

「直也さんのことを、ですか?」


 レーヴァは確認するようにリーシェの後ろに立っているイズナやサクヤの顔を見る。二人は互いに目を合わせるとまたレーヴァを見て頷いた。


「リーシェ。あなたにはまだ直也さんのことで教えていないことがあるの」

「私が知らないこと・・・」

「勘違いしないで。私達も別に隠していた訳では無いの」


 サクヤは少し申し訳なさそうに、少し躊躇いながらリーシェの眼を見て話を始めた。


「ねえリーシェ、あなたは直也さんのことをどう思う」

「直也さんは、とても、信じられないくらいに強くて、とっても優しくて、すごく格好が良くて、人種の差別なんかもしなくて、弱い者や困っている人を放っておけない、人を自然と惹きつける魅力があります」

「そうね、その通りだと私も思います」


 リーシェがそう一息で告げると、みんなも納得したように頷いた。しかしリーシェの話はまだ終わった訳ではなかった。


「それで、過去の恋人のことを今でも忘れられずに愛していているから、私はこんなにも直也さんのことが好きだから、いつもこっそりアプローチをしているのですけれど、なかなか私の好意を受けて貰うことができません。でも直也さんは、本当は少しエッチで、私が薄着でゆったり目の服を着ているとよくチラチラと覗いてきたりするので、私もワザときわどい服や下着を着て、直也さんの気を引くように努力するようにしています。私も最近では、ちょっとこちらから迫って既成事実を作らなければいけないかなと思っているところです」


「・・・・・・」

「リーシェ、あなたとは一度真剣に話し合う必要がありそうね」

「大人しそうな子が一番ヤバいの典型だな」


 サクヤとマリーはリーシェの話した直也への思いに冷たい汗を流し、


「やるわね! 流石は私の弟子ね」


 元色欲の王のアスは自慢の教え子を褒めたたえて、


「旦那様は私の自慢の大きな胸や大きな尻もよく見ているぞ。痛いほどの視線と硬い気配を感じるからな。余程あたいの事が好きなのだろう、デヘヘ」

「直也様は私の体や耳やシッポを見る目には愛欲が満ちていて、かぶり突くのを必死に我慢しているのが伝わってくるな。デヘヘ」

「私はキングとイズナたまに罵られて打たれるのが一番好きです。お願いですから遠慮なくイジメて欲しいです。デヘヘ」


 レーヴァとイズナ、フレイヤの3人はスイッチがオンに入ってしまったらしく、天を仰いでは、デヘヘと不審な笑みを浮かべている。


「皆さん不謹慎です。それより! 今は直也さんの話の続きをお願いします!」


 3人のせいで乱れ始めた話の流れを強引に元に戻すために、リーシェはみんなにそう強く訴えかけると、その想いにイズナが応えた。その姿には先ほどのオンに入った時の姿はなく、真剣な顔で真摯にリーシェに向かって話しを始めた。


「私と直也様は戦友でもあるのだよ。その時の私のまだ若くて、レーヴァはまだ子供だったが大戦を生き抜いた仲間だ」

「イズナ様が戦友で、その時レーヴァさんは子供、生き抜いた仲間・・・」

「まさか、キングの正体は・・・、だとすれば今までのキングへのイズナたまの態度もキングの異常な強さも理解できます」


 イズナのことなら何でも知っているフレイヤは、イズナの話を聞いて直也の正体に気が付いた。フレイヤは自分が今までにないくらいに高揚していくのを感じた。変態の性癖の方ではない。武人としての、ヴァルキリーとしての方だ。まさか今生で大戦の英雄と相まみえることができようとは、と。



 一方リーシェはというとイズナの言葉を聞いて更に混乱してしまっていた。


(イズナ様もレーヴァさんもエルフの私よりもずっと年上で、もう千歳を過ぎていたはずだけど? そんな二人が若くて幼い時の大戦に直也さんが参加していた? それって千年前の大戦っていうこと? でも、そんな時代に直也さんが? どういうこと? 直也さんは人間で私たちほど長くは生きられないのに?)」


 混乱して頭からシューっと湯気を出し始めたリーシェに向かいイズナが伝えた。


「直也様は神魔大戦の英雄、神の契約者だ」

 

「直也さんが神魔大戦の英雄・・・神の契約者・・・様」


 リーシェの声が、満点の輝く星空に、静かに響いた。


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