酔いどれの対価
日差しの眩しさを感じて直也が深い眠りから目を覚ますと、もう太陽は天高く昇り世界を照らしていた。
「ここは?」
目を擦りながら、ボーっとする頭でキョロキョロと周りを見渡して見ると、直也は自分が知らない部屋のベッドで半裸になって一人寝ていた。
「僕はなんでここに?」
直也は起き上がるとベッドの上で胡坐をかいて座り、昨日のことを思い出そうと目を閉じた。
「昨日は、・・・宿屋を出た後歩いていたらバッカスさんに声をかけられて、それで・・・お酒を飲ので、話をして・・・、駄目だ、これ以上は思い出せない」
直也は取り敢えず今の状況の確認をするために、ふらつく足でベッドから降りると窓から覗く外の景色を見た。どうやら自分がいるのは町の大通りに面した2階にある部屋のようだ。部屋から見える大通りの広場には露店が数多く出店していて行き交う人で溢れて活気を見せている。
直也が再び室内を見渡すと、柱に壁かけ時計がついていることに気が付いた。目を凝らして時計を見るとその針が正午を示していり。時計の示す時間を見た瞬間、直也は目をこすり、二度して、もう一度見てから、ビシッっと固まってしまい動きを止めた。
2分後。溜めに溜めた溢れ出でる自責、後悔、反省、恐怖、弁解、逃避、諦めなどの多くの念の感情をシンプルの一言で整理してまとめて、直也は大声で叫んでいた。
「早く帰らないと大変なことになってしまう!」
何故このような事態になってしまったのかと混乱をする直也でも、今後の展開がはっきりと分かった。自分が招いてしまった、現在進行形で進んでいる状況はかなり深刻で、時間が過ぎる度にさらに深刻な事態を招いてしまう。
日を跨ぎ、朝帰りを通り越して昼帰りとなってしまった今の状況では、一秒でも早くイズナ達の元へ帰らなければ、本当に洒落ではすまない命にも関わる大変な事態になる恐れがある。直也は慌ててベッドの周りに脱ぎ捨てられていたシャツやズボンに靴下を拾い集める。
そして着の身着のままの格好でベッドに寝ていたので大丈夫だと思うけれども、一応自分の体に酒に酔っての一夜の過ち、すなわち情事の後がないかと半裸になって確かめることにした。幸い部屋には備え付きの大きな鏡があったのでそれを利用することにした。
確認方法は、安全第一の目視の指さし呼称とする。
「顔良し。首良し。胸良し。キスマークなどのやばいやつは、なーし! 背中にひっかき傷や後は、なーし! お股の息子は・・・未使用、よーし! 身体チェック、オールグリーン!! やったぞ僕は潔白だ!」
直也は情事の痕跡がないことで、最悪の事態は脱したことで少しだけ心を体が軽く楽になった気がした。
自主検査を終えて服装を整え部屋の外に出ると、すぐに大勢の人の声が遠くから聞こえてきてきた。声は目の前にある階段の下から聞こえて来ているようだ。
直也は意を決し階段を下りて声が聞こえてくる方に向う。建物は結構広く廊下の左右には沢山の部屋がある。資料室、会議室、職員休憩室と様々なプレートがドアにかかっているのを見ながら先に進む。ここは宿屋などではなく何かの会社の事務所であると思われた。
先に進むにつれてだんだんと声が大きくなり、激しく口論をしているような数人の男達の声が廊下の一番奥の扉の向こう側から聞こえてきた。
「・・・現行犯でも逮捕と言うことです」
「ロイス、それは本当なのか。B級冒険者パーティーのマックス・マッスルズが!」
「エキサイティングの酒場で女性にわいせつ目的でしつこく声をかけた後に、止めに入った他の町の冒険者の男を殴打だと? その上脅迫して女性を無理やり連れ出そうとしたて逮捕されただと?」
扉のノブに伸ばしたかけた直也の、耳に聞こえてきたのは、昨日の宿屋での出来事のようで、話の気になる直也は話を聞くことにした。
「最低だな。ギルドの恥さらし共め」
「だがそれほどのことではない。被害が無いのであれば捨ておくと良い!」
「うむ、我らが呼ばれるほどのことではないの!」
「判断は報告を最後まで聞いてからにしてくれ。ロイス報告を続けてくれ」
「はい、止めに入った店のウエイトレスと冒険者パーティーアマテラスの男性に暴力を振るったことで、アマテラスの男性と喧嘩になりかけたらしいのですが、アマテラスの女性メンバーが男性を制止したため、事なきを得たそうです。ですが」
「ですがなんだ?」
「アマテラスのメンバーは誰一人一切彼らに手を出さなかったようなのですが、それを良いことにしつこく付きまとうマックス・マッスルズのメンバー達に対して、男性が威圧と申しますか、威嚇と申しますか、方法は分かりませんが力を示したそうです。男性が示した力というのが凄まじかったらしく、B級冒険者のマックス・マッスルズの彼らでは耐えることが出来ずに恐慌状態になっている所を駆け付けた衛兵に逮捕されたようです」
「それで今マックス・マッスルズの連中は?」
「はい、マックス・マッスルズのメンバーは全員が心が折れてしまったようで、素直に取り調べに応じているようです。また獄中でこれまで自分達が犯してきた罪を自白しているとのことです。報告ではかなりの暴行や恐喝、強制わいせつ、果ては置き去りによる計画的な殺人容疑など、かなり悪質な余罪があるとのことでした」
「なんたることだ。冒険者ギルドの顔に泥を塗り追って!」
「このような事は今までもあったが、こうも表沙汰になってしまってはB級冒険者と言え、厳正に処分するほかあるまい」
「そのアマテラスという冒険者達にも申し訳ないことをしたな」
「今はマックス・マッスルズの奴らのことはどうでも良い。問題はアマテラス方々の方だ。貴様らはアマテラスをちゃんと知っているのか? 何級で誰が所属していてどれ程の力を持ったパーティーなのか、知った上でその程度の認識でいるのか?」
今まで黙って話を聞いていたのか、会話に加わる新しい人物の声が聞こえてきた。
「バッカスギルマス?」
「アマテラス? 確かセフィロトの冒険者じゃったな」
「お前らは本当に冒険者ギルドの関係者か? 話にならんな。ロイス、説明してやれ」
バッカスの呆れたような声とため息が聞こえて、一瞬の沈黙が流れた。
「はい。冒険者パーティーアマテラスは、セフィロトの町を本拠地として僅か数カ月の内にS級に上り詰めた7人の超絶武闘派の冒険者パーティーです。竜の討伐、ダンジョンの踏破、大型魔獣の討伐など様々な実績を挙げています」
「何と!」
「S級じゃと!」
「リーダーのタカスギ・ナオヤの詳しい情報は手に入りませんでしたが、女性メンバーの中に大物が2名所属しております。まずは、セフィロトの領主でシラサキの直系。天才の名前を冠する精霊、召喚魔術士サクヤ・シラサキ様。もう一人は、この世界じゅうで知らない者はいない、神魔戦争を生き残ったレジェンド、イズナ・シルバー・フォックス様です。また、真偽のほどは分かりませんが、人化した火竜レーヴァテインもメンバーの中にいるそうです。この他にも忍者・エルフ・魔法少女などの所属が確認されています」
「嘘じゃ、伝説の武人がメンバーだなんて! 火竜レーヴァテインがなんて!いくら何でもそんなのは嘘じゃ」
「イズナ・シルバー・フォックス様は今までガーディアンズの活動ですらあまり存在を確認されたことがない方だぞ。そんな方がこんなところで冒険者をしている訳が無いだろう!」
「そう言えば少し前にレーヴァテインの襲来の話が実際にあったな」
「事実でございます。サクヤ・シラサキ様、イズナ・シルバー・フォックス様、そしてその中に深紅の髪をしたレーヴァテインと名乗る女が昨夜の事件の被害者の中に確認しされております」
イズナの名を聞いたギルドの幹部達は言葉を失ってしまった。イズナの一騎当万の力はどの国の王よりも恐れられており、イズナに対して剣を向けるということはどういうことなのかを皆正しく理解していた。
「なんと言うことじゃ!」
「大体なんでフォックス様がこのような海しかない様な町へ」
「この町へ来たのは、町で出したハイ・オークの群れの討伐のためと報告が入っております」
「皆の者、今からアマテラスの方々に謝罪に行くぞ!」
「そうじゃ今すぐに行くのじゃ!」
「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!」
ギルドの幹部達は慌てふためき右往左往しながら、その辺を行ったり来たりと無意味に走り回ったり、何かを作業を始めたりと、みんな相当動揺しているようだ。
「落ち着け!勝手な行動は止めな!」
謝罪のための迷惑料、慰謝料の金貨を数えている者や、家族に宛てた遺書を書いていた者、夜逃げの準備をし始めた者が一斉に動きを止めてバッカスを見た。
「なぜだ、なぜ止めるギルマスよ。今はすぐにでもギルドの全資産を持参した上で、額を地面に擦り付けながら謝罪して、手打ちにしてもらうように動かなければならない時なのではないか」
「そうだ。俺達はここ迄かもしれないが、家族だけは助けたい。俺もすぐにでも動くべきだと思うぞ。でも、少しだけ待ってくれ。家族に手紙を、手紙を残したて置きたいんだ」
「わしゃ知らん。わしゃ関係ない。わしゃ今すぐ町を出るぞ!」
講義の声を上げた幹部職員に対して落ち着いた様子でバッカスは言った。
「そうだ。その通りだ。だからまずはそのアマテラスのタカスギ・ナオヤに話をすることにしようぜ。あいつは俺に恩がある。領主様やフォックス様にヒイヒイ言いながら上手く立ち回ってくれると思うぜ、なあリーダーさんよ」
バッカスはニヤニヤと笑いながら施設の奥に続いている扉を見てそう言った。
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