いきなりエキサイティング!

 厨房でカクテルを作り終え、ドキドキしながらお盆に乗せて厨房を出ようとした直也の耳に、宿のウエイトレスの女性と男達が言い争う様な声が聞こえてきた。


「お、まだやってるみたいだぜ」

「姉ちゃん5人だ。入れるよな」


「申し訳ありません。本日酒場の営業は終了

したしました」


「せっかく来てやったのに何だよそりゃ」

「まだあそこで飲んでいる奴らがいるじゃん。てか、女だけじゃね」

「おお、すっげえ美人。獣人の美人もいるぜ。ねえ、お姉さんさん達、俺らと一緒に飲もうぜ」


「お客様方、他の方のご迷惑になるようなことは止めて下さい」


「うるせーな。俺達はお姉さん達と一緒に飲むって決めたんだよ」

「ねえお姉さん達、ここはうるさいからさ、俺達とゆっくり出来る所に行こうよ」

「俺はこの嬢ちゃんがいいな」


 直也は慌てて厨房から出て状況を確認する。サクヤ達が座っているテーブルを取り囲む様に数名の屈強な体をした20代くらい冒険者のような風貌のガラの悪そうな男達が5人立っており、しつこくサクヤ達に声をかけている様だった。

 

 サクヤ達はみんな男達の事を完全に無視している。「止めて下さい、帰って下さい」と間に入ってウエイトレスの女性が男達を止めようとしているが、男達は聞く気はないようだ。

 この場にいるアマテラスの女性達は目を奪われてしまうほどの美しい美貌と魅力を兼ね備える者達である。彼らからするとこんな良い女達と出会いを逃す手はないと考えているのだろう。


「なあ、お姉さん達よ。そんなつれない態度を取られちゃうと俺、興奮しちゃうよ。興奮しちゃうと何するか分からないよ?」

「おいおい、やめろよマックス君。お姉さん達が怖がっているじゃないか」

「ねえお姉さん。あいつ怒らせると何するかわからないよ。言う事聞いといた方が良いって」


 サクヤ達はとうとう我慢が出来なくなってきたのか表情が硬くなっていく。イズナやレ

ーヴァについては今にも爆発しそうな感じだ。


「あなた達、いいかげんに・・・キャア」


 男達の前に立ち塞がり止めようとするウエイトレスの女性を男達が乱暴に振り払いサクヤ達に詰め寄ろうとした。その瞬間直也は動いていた。持っていたカクテルをその場に投げ捨てて、振り払われて倒れそうになったウエイトレスに一瞬で近づくと体を手で支えた。ウエイトレスの女性に怪我がない事を確認して安心した直也は、彼女を自分の後ろに下がらせながら、男達に冷ややかに声をかけた。



「女性に乱暴は止めて下さい。それに僕の婚約者達に声をかけるのも止めてもらえますか」


「誰だ、お前?」

「お前馬鹿じゃねぇの」

「婚約者だ? ハッ、お前みたいに冴えない奴が何ハッタリかましてんだよ」

「お姉さん達は俺らと遊ぶからよ。お前消えてくんない?」


「彼女達は僕の大切な女性達です。遊びたいのなら他を当たって下さい」


 直也は冷ややかなトーンのままで男達に止めるように話すが、それと聞いた男達はかえって興奮してしまい直也に敵意をむき出しにしてしまう。


「ふざけんなよ、お前が他に行けよ」

「格好つけたいなら他でやれよ、ああ! 殺すぞ、こら!」

「このお姉さん達は俺らが美味しく頂いてやんよ」

「お前死んじゃうよ。ほら見てみろよ、マックス君がキレそうになってんよ」

「何?お前何邪魔してくれてんの? 俺マジでキレちゃったわ」


 マックスと呼ばれていた男は何の躊躇も無しに全力で直也の顔を目掛けて殴りつけてきた。それを直也はあえてよけずに頬で拳を受け止める。直也が殴られた瞬間に、サクヤ達は立ち上がり男達を過激に制圧しようとするが、直也が腕を上げて止めさせる。当然直也には何のダメージもない。直也を頬に拳を受けたままの姿勢で男達を睨みつけた。


「私衛兵を呼んできます」

 

 目の前で起きた暴力事件を見かねたウエイトレスの女性は衛兵を呼ぶために宿の外に出ていった。

  


(こんな奴らは何処にでもいるのだな) 


 直也は自分の心が冷えていくのを感じた。平気で女性に暴力を振るい弱い者を大人数で威圧して暴力を使って言う事を聞かせようとする。この男達を見るとかなり手慣れている感じがする。恐らくいつも同じような事をしてきたのだろう。


(僕を殺して女を奪う、か。僕の一番嫌いなタイプだな)



「直也(様)(さん)」

「旦那様」

「主様」

「マスター」


 いつもと様子が違う直也に気が付き、サクヤ達は急速に酔いがさめていくのを感じた。いつも何があっても大抵の事では怒らない仏と呼ばれる直也が本気で怒っている。自分達に背を向けている直也から剣呑な気配が伝わって来る。


 ここに居る男達の実力はたいしたことがないのだろう。直也が隠している実力に、自分達が喧嘩を売った相手が遥かに格上の存在であることに全く気が付いていない。


 直也は自分の頬を殴りつけたマックスの拳を静かに手で掴んだ。


「え、何イキってんの? お前俺らとやる気なの?」

「マックス君もうこいつやっちまおうぜ」

「こんなのパッパと片してお姉さん達といいことしようぜ」

「お前は今から俺らの人間サンドバックだ!」

「ギャハハハ、お前死んだぜ。確実に死んだぜ。もう謝っても許さないからな!」

    

 男達は笑いながら直也を取り囲み、威圧しながら距離を詰めて来る。


「もう許さないのはこっちだ」


「何言ってんだ、おま、ギャー!」


 ボキ、バギ、そんな音と共にマックスが悲鳴を上げた。直也が掴んでいた拳を握り潰したからだ。


「ギャー! イダー! おま、手離せよー!」

「おまえ、何してくれてんだ! マックス君を離せよ」

「こいつ! 囲め、ブッ殺してやる!」


 マックスや仲間達は直也の手を必死にほどこうとするが、まるで万力で締め付けられているかのように離れない。


「お前達は僕を殺すと言った。殺して彼女達を奪うと言った。これはもうただ喧嘩などではない。そう解釈しても良いのだよね」


 冷たく声で言いながら直也は掴んでいたマックスの手を離し、自分を取り囲んでいる男達に殺気を込めた霊気を開放していく。直也から放たれた常人とは桁はずれの殺気を含んだ霊気を全身に浴びた男達は、恐怖で体が硬直して動くことが出来なくなってしまった。


 男達は思った。

(ヤバい、なんなんだよこいつは。化け物だ!俺達では束になっても絶対に勝てない。殺される。なんて奴に絡んでしまったんだ) 


 さっきまで自分達に狩られるはずの存在だった男から、今まで戦ったどんな魔物より遥かに強い力を感じた。男達はここでようやく直也が自分たちの手には負えない力を持つ存在であることに気が付いたのだった。











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