仲直りからのトラブル

 アマテラスのメンバーは再び街道を南下し港町へと向かっていた。セフィロトの町から港町まではおおよそ四十キロほどあり、現在はその道のりの半分くらいを越えたところだった。


「ここからの先の森林では魔物やハイオーク達の出現が確認されています。警戒を怠ることなく行動して下さい。色々とあり計画に遅れがでていますけど、何とか日暮れ迄には港町コーアンに入りたいと思います」


 直也のメンタルが変態スキル問題で指揮に影響が出るほどに落ちているため、現在はアマテラスサブリーダーのサクヤが指揮を執っていた。万が一に備えて、どんな状況になっても直也を支えることが出来るように事前にあらゆる情報を精査していたサクヤは、目標の設定、状況把握・判断、指揮などを完璧だった。


「リーシェさん、索敵はどうですか?」 

「はい。私の索敵範囲には魔物の反応はありません」 

「直也さんはどうですか?」 

「・・・ああ、リーシェの言う通り近くには反応はないよ」

「分かりました。直也さん、体調少しは良くなりましたか?」

「みんなのおかげで大分落ちついてきたよ。ごめんねサクヤさん、いつも苦労ばかりをかけてしまって」 

「直也さん、それは言わない約束ですよ」


 直也との時代劇のセリフみたいな会話を楽しんだサクヤは、「ゆっくりベッドで休めるように町まで急ぎましょう」 と当面の戦闘になる事はないと判断し遅れをとりもどすために歩みを速めるのであった。


 隊列はサクヤとレーヴァを先頭に、アス、リーシェ、直也、マリーが続き、イズナとフレイヤが最後尾を歩いている。変態過ぎて直也に引かれたイズナにレーヴァ、フレイヤ達は静かに大人しく直也の言うことを聞いて、黙って歩いていた。


「直也、大変だったな。あんまり気に病むことはないぞ。イズナ様達の心の全部が変態という訳ではないなだからな。あの姿も確かに彼女達の一面ではあるのだろうが、彼女達はそれよりもずっと尊くて清い精神も持っている。人のために長い時間を捧げることが出来る愛を持っている」

「はい、僕は知っていたはずなのに。みんな素晴らしい尊敬できる人だって。ぼくスキルが、いえ本当に突然のことだったから取り乱してしまいました」 

「まあ、あんな状況は普通に生きていればは絶対にないからな」


 何を思い出したのかマリーは額から汗を流しながら言った。


「マリーさん、僕を見てなんか変わったところってありますか?」 

「変わったところ?・・・いや特には無いな。何時も通りの良い男だ」

「ありがとう。いつもマリーさんは僕を救われています」


 直也は本当に嬉しそうな顔を浮かべて再度 


「本当ありがとう。マリーさん!」と元気なお礼をしたのであった。


「ああ、何かあったら私が全部受け止めてやる」 


 マリーは直也の顔から少しだけかげりが消えていることに気付いて、嬉しそうに微笑んだ。




 直也達が目的地の港町コーアンに到着したのは夕暮れを迎える時刻だった。結局アスの探知にかかる魔物も襲ってくる魔物もおらず、一部お通夜の様に暗いメンバーも数名いたのだが、順調にコーアンの町に辿り着くことが出来た。 

 

 街の門兵からギルドの場所とお勧めの宿の情報を聞いた直也達は、今日は宿屋でゆっくりと休み(リーシェの霊気がほぼ空に)、明日詳しい話をギルドに聞きに行くことにした。



 宿屋「エキサイティング!」港町コーアンの名物宿屋。早速サクヤとマリーが宿泊の手続き行いにフロントに向かう。フロアに立つ直也の後ろにイズナとレーヴァ、フレイヤ、アスはフロントにあるソファーで疲労で動けなくなったリーシェを介抱していた。アスはリーシェの背中をマッサージしながら自分の気をこっそりリーシェに分け与えていた。


「ハー、今日は疲れました」

「リーシェ良く頑張ったね。ご飯の時間までゆっくり休んで」

「アスさん、そこ気持ちイイです。それにとっても暖かい」

「そう、良かった」


 小さな子供を慈しむような優しい目でリーシェを見ながら、幼女姿のアスが優しく背中を撫でている。ここ数週間での二人は姉妹のような関係を築くことが出来たようだ。その様子を微笑ましく直也が見守っている。


「直也様」

「旦那様」

「マスター」


 お昼にやらかした三人は、本当に反省した様子で涙目になりながらオドオドした様子で直也のことを見つめていた。

 

 親に捨てられた捨て猫のような、悲しさと淋しさ、弱々しさを完璧に体現している三人。


「もう、怒ってないよ」

「「「え?」」」


 直也の言葉に三人は驚いたような顔をみせた。


「だからもう怒ってないよ」


 笑いけながら、もう一度直也は三人に言った。


「直也様、ごめんなさい」

「旦那様、許しておくれよう」

「マスター!」


 三人は泣きながら直也に抱きついた。


「良いんだ。僕こそご免なさい。みんなの良いところは、沢山知っていたはずなのに動揺してしまった」


 直也は落ち着かせるため、三人の頭を優しく撫でなでる。


「僕は、信じている。君達の強い心、」


 直也が三人に言葉をかけている時、サクヤの叫び声がフロアに響いた。


「四人部屋が2つしか空いていない?!」

「はい、今日は団体のお客様が入っておりまして」

「四人で相部屋、直也さんと相部屋、」


 その場にいた全員が、サクヤの言葉を正しく理解する。さっきまで直也の胸に抱きついて泣いていたはずの変態三人は、興奮しながらお互いを牽制しあってしている。


 それだけではない。サクヤやマリー、疲れてソファーに座っているリーシェにアス。みんなが獲物を狙う鷹のような目で直也を見ている。


 宿屋「エキサイティング!」にて、エキサイティング!な部屋割りが、今はじまった。









 




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