ヤバな思いと討伐準備

「あなたは、ジョニーさんですよね」との発言で冒険者ギルドの時間は止まってしまっていた。 直也が息を飲みながらジェリーの言葉を待っていると、


「直也様が何を言っているのか理解出来かねます。申し訳ありませんが、私はジェシーでジョニーではではありません」


  ジェシーは少し困った様子を見せながらでもはっきりと直也の言葉を否定した。 


「そうだよな、そんな訳ないよな」

「アイツ変な事言いやがって」


  周りにいた冒険者達はそう言うと次々とギルドを出て受けた依頼をこなすために仕事に向かっていった。だが冒険者ギルドの職員達もそれぞれの仕事に戻ったものの、青白い表情をしたままジっとこちらの様子を窺っている。


  直也とジェシーはその視線を絡めたままだ。元魔王であるアスも直也に習ってジェシーを調べて事態を理解したらしく、「これは、これは」と楽しそうに二人の様子を窺っている。


「はあ、分かりました直也様。この依頼を達成されたら、少し外で話を聞いてもらえますか?」


  ジェシーは溜息をつきながら根負けをしたような仕草で直也に向かってそう言った。 


「分かりましたジェシーさん。ではまた後で話をしましょう」


  直也はそう言うとジェシーに受付を済ませてもらい、アスとリーシェを連れて冒険者ギルドの外に出た。


「あの霊気は間違いなくジョニーさんのものだった」 


「うん主様。彼女は間違いなくジョニーだね」


  直也は一度全力のジョニーと戦ったことがある。決して戦った相手の気を間違えたりはしない。


  たとえもしジョニーがジェシーになっていたとしても、直也は自分のジョニーへの接し方が変わることは、多分、ないだろうと考えていた。だが、どうしてそうなってしまったのか、その理由は知っておきたいと思った。


 ジョニーとジェシーを比べると骨格からなにから変わってしまっている感じがした。元の世界では美容整形という技術があったけれども、勿論この世界にはその様な技術は消失してしまっている。ジョニーが持っていた筋肉操作のギフトとも違う気がする。


 直也は何か自分にとって、とんでもなくヤバいことが起こっている気がしていた。


「流石は私の直也ね。私の事をちゃんと大切に見てくれているわ」


 ギルドから離れて行く直也達の背中を隠れてこっそりと見送りながらジェシーは言った。


「ようやくあなたの隣に立てる。直也、愛しているわ」


  誰にも聞こえないジェシーの愛の言葉は直也の予感通りにすごくヤバい感じがした。


 


  サクヤの屋敷に戻ると、サクヤとマリーが公務を終えて待っていた。レーヴァもどうやら起きたらしくご飯をモリモリ食べていた。

 

レーヴァは朝に弱い。目を覚ましてから脳が覚醒して体を起き上がらせるまで、いつも一時間位はベッドで毛布にくるまれながらウトウトとしている。ドラゴンが爬虫類になるのかは分からないが、どうやら体温が上がる迄はあまり動きたくない様なそぶりを見せる。


 直也がみんなに受けてきたハイオークの討伐依頼の内容を説明していると、イズナの使い魔の管狐が姿を見せた。管狐は直也の肩にちょこんと乗ると、黙って直也の話を聞いている。どうやらイズナから言われてきたのだろうが、

直也は余りのタイミングの良さに監視カメラでもあるのではないかと、少し怖くなってしまった。


「では、港町へと続く街道に現れるハイオークを討伐するとして、大体の出現ポイントは分かっているのですか?」


「依頼書の内容を見た限りだとそこまでは分かっていないようです。この森の中の街道の何処かということです」


「それだと随分広い範囲になるな、直也」


「はいマリーさん。でも大丈夫です。この位の範囲であれば簡単に見つけることが出来るでしょう」


 「うん、主様がA級クラスの魔物の妖気を探れば直ぐに見つけれるよね」


「旦那様、それ位あたいでも簡単にできるし」


「私だってフェルちゃんにお願いすれば簡単です」


  サクヤとレーヴァが、直也の役に少しでも立ちたい、直也に褒めてもらいたいと、私にも出来るとアピールをしていると、


「確かに二人なら簡単だよね。でも今回の索敵はリーシェにやってもらおうと考えている」


「は、はい。・・・って私がですか!」


  リーシェは突然直也の指名に驚きを隠せない様だった。


「リーシェってば何を驚いているのよ。さっきギルドでリーシェの訓練にっていったじゃない」


「でも、でもそれは・・・」


「大丈夫だよ、リーシェ。リーシェは森の狩人のエルフで僕の弟子じゃないか。修行通りにやれば絶対うまくいくって」


「私まだバッとしてグッとかスーからズバっと位しか教わっていないです」


「大丈夫、大丈夫。それが出来れば後は実戦経験でズバっと解決するからさ」


「ねえリーシェ、私が隣に居るから頑張ってみようよ。あなたなら絶対出来るから」


「アス先生。・・・・・・分かりました。私やってみます」


「・・・・・・」


  リーシェはアスの言葉を信じて覚悟を決めた様だった。直也は覚悟を決めたリーシェの決意を全力で応援しようとする気持ちと、リーシェ覚悟をさせたのはアス先生で、僕ではないという嫉妬とほの暗い気持ち。

 二律背反な自分の気持ちを隠したまま、みんなで討伐会議を続けていく。


 無事に会議が終わって、準備のために仲良く部屋を出ていくアスとリーシェの後姿を見た直也は、二人の間に確かな信頼と師弟愛が生まれている様な気がして、その中には自分が居ない様な気がして、少しだけ、ほんの少しだけ寂しい気がした。


 


 


 


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