復活のJ

 ジョニーがギルドに復帰しているらしい。シャロンに頭を強く殴られて、何日も生死の境を彷徨ことになったジョニーであったが、何とか死の淵を乗り越え、様々な手術やリハビリを乗り越えて仕事に復帰することが出来たらしい。そんな噂が流れていた。


  直也はここ最近依頼を受けるため、そして達成報酬をもらうためにと、毎日ギルドへ二度は足を運んでいたのだが、シャロンに絡まれることはあってもジョニーに会うことは無かった。ギルドの様子も今までと特に変わったことは無い。唯一の変化と言えば受付嬢が1人、ギルド事務職員一人が増えたこと位だろう。直也はジョニーの回復を祈りながらも、いつも通りの生活を送っていた。


 メイドさん達と少し仲が良くなった数日後のこと、直也は依頼を受ける為にアスとリーシェ、レーヴァを連れて冒険者ギルドに足を運んでいた。サクヤやマリー、イズナはそれぞれのお仕事が入っていたためにこの場には来ていない。朝の冒険者ギルドは冒険者達で賑わいを見せていた。 


  ヴァイオレットの調査依頼も継続中なのだがこちらは今のところ新しい情報はなく、長期間に亘る様相を呈していた。

 

直也達がいつものように依頼書を見ていると、いつものようにシャロンが何処からともなく現れた。シャロンは既に何故か息をハアハアと切らしており興奮している様に見える。


 「マイ天使の気配が! マイ天使の息吹が! 成長過程の蕾のかほりが!」 


  毎回のことながら、きわどいアウトな発言をしながら冒険者達をかき分けながらアスに近づいてくる。

 ギルドの職員も冒険者達もすっかりと慣れたもので、シャロンを諫める者はいなかった。


「なんで匂いが分かるのだろう。こんなに人が居るのに。シャロンさんって来るたびに変態強度が上がっている気がする」


「何か言ったか、タカスギ・ナオヤ!」


 「シャロンさんおはようございます×2」


  アスとリーシェが元気に挨拶をすると、シャロンは直也に向けていた敵意を霧散させて、アスに向けて向日葵のような、まるでやましい気持ちは無いと胸を張って太陽に誓ってでもいる様な感じの、優しい笑顔を見せた。


 「アスちゃんおはよう。今日もとっても可愛いね。じゃああっちの方の部屋で少し二人きりでシッポリネットリと今後の話をしようか。大丈夫だよ、何もしないから」


  シャロンは優しくにこやかにいかがわしい言葉を口にして、またハアハア言いながら攻めの姿勢を取り始める。

 初めてあった時のあの凛々しいシャロンはもうここにはいないと言う事を、強く意識させる瞬間だった。


「ごめんね、シャロンお姉ちゃん。昨日の夜、私は主様と、いえ直君と本当の仲になってしまったから」


  アスはうつむきながら、いつものように意味の分からない意味深な発言でシャロンを煽る。


 「えっホンバンのナマだと。キ、キキ貴様、タカスギ・ナオヤ! 私の天使に何をした!」 


  シャロンは面白いほどよく釣れた。


「何も言ってないし、何もしていませんって」


 「酷い直君、昨日もあんなに私達の魂はずっと繋がっていたのに」


  アスは嘘ではないが、本当でもないことを言いながら幼い体であざとい仕草で直也を見上げて頬をプンと膨らませた。アスの様子を「?」を浮かべたような表情で見ていたリーシェが口を開く。


「あのー、本番で繋がるって何のことですか?」


 本当に言っていることが理解できていないリーシェは、「うん?」と可愛く首を傾げながら、直也達の説明を待っている。


「もうリーシェってば、そんな事言わせないでよ、ポっ」


  アスは幼い小さな顔を両手で挟み恥じらう様に体をいやんいやんと、クネクネさせながら可愛い顔を上気させている。


「あわわわ、あわわわわ。タカスギ・・・貴様とうとう、とうとう貴様は!」


  アスの様子を見たシャロンは大きく目を開き口をパクパクとさせながら、完全にアスの掌で踊らせられていることに気が付くことなく言葉を紡いだ。


「いつかは貴様ならヤルだろうと思っていた。 ・・・とうとう、とうとう幼い蕾に手を。私の大切なバラの花ビラを・・・」


「だから僕は何もしていないってば」


  シャロンはそう言いながら腰に帯剣していた長剣を剥き放つ。直也の声はもう届くことはない。

 剣を抜いたシャロンの後ろにギルドの職員達が粗目の太いロープを握っている姿が見える。職員達の中にはアリッサの姿もあり慣れた様子でアイコンタクトを取りロープを構えている。冒険者達は職員さんの邪魔にならないように道を開けている。


「タカスギ・ナオヤ、天に変わって私が成敗してくれる・・・死ね!」


  シャロンが長剣を大きく振りかぶると同時に、ギルドの職員達の手からロープが放たれた。放たれた何本ものロープはシャロンの腕や胴体や足に巻き付き、全身を拘束する。


「はいシャロンちゃん、そこまでよ。優秀な冒険者を殺しちゃダメ」


「アリッサ姉さま! お、おのれ、タカスギ計ったな!」


「いや、僕は一切なにもしていません」


  口をタオルで縛られロープでグルグル巻きにされながら、職員達に奥の部屋に引きずられていくシャロンの姿を見送っていると、アリッサが声をかけて来た。


「タカスギ君、いつもごめんなさい。うちのシャロンちゃんが迷惑ばかりかけて。普段は仕事が出来る良い子なのに」


「いいえ、おたがいさまです。うちのアスが面白がって煽るから」


「ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ。そうだ高杉君、今日のおすすめはあっちの掲示板にあるハイオーク群の討伐依頼よ」


「そうですか、いつもありがとうございます」


 「ふふ、じゃあまたね」


「はい」


  離れていくアリッサを見送った直也は、アリッサが言っていた依頼書を見に奥にある掲示板に足を向ける。


 直也が依頼書の内容を見てみると、ハイオーク達はセフィロトの町から南の港町へと繋がる街道が通っている森から、突如現れて人を襲っているとのことだった。ハイオークはもともとB級クラス上位の力を持っている個体が多いが、今回はA級にとどく個体が数体確認されているようだ。

 何度か港町の冒険者達によって討伐部隊が組まれたらしいが、すべて失敗しているようで人的な被害も少なからず出ているらしい。


 今回の依頼は、自分の町の兵士や冒険者では手に負えないことを悟った港町の領主が、セフィロトの町の冒険者ギルドに救援を求めてきたと言う事のようだった。


「二人ともこの依頼どう思う」


 直也は掲示板から依頼書を剥がすと、アスとリーシェに見せた。二人は依頼書を読むと直也に言った。


「主様この依頼受けよう。リーシェの訓練に丁度良い練習相手になると思う」


「わ、私ですか? うう、怖いけど頑張ります」


「そうだね、報酬もなかなか良いし、この依頼を受けようか」


 二人の同意を得ることが出来た直也は、依頼書をカウンターに持っていき受付嬢に渡して依頼を受けたいと伝えた。そこにいた受付の女性に見覚えがなく、どうやらこの間新しく入ったという職員みたいだった。


  甘く整った美しい綺麗な顔。茶色い髪の毛の色をした線の細い20代半ばくらいの女性。綺麗な長髪を後ろで縛って纏めている。受付に座る彼女の姿は凛としていて見る者を惹きつける力をもっている。


「はじまして、直也様。私はこの度新しく受付業務を拝命いただいた、ジェシー・デックと申します」


「はじめまして、高杉直也ですって、あれ?」


 直也はジェシー・デックと名乗った女性に激しい既視感を覚えた。この人には会ったことがある。絶対に何処かで会ったことがある。


( 僕の知っている人だ )


  本能でそう感じた直也は自分が知っている人がどうかを確認するために彼女の霊気をさぐり、直ぐに気が付いた。


  カタカタと震えながらアワアワとしている直也の姿と含みがあるような顔のジェシーを交互に見ながらアスとリーシェは不思議そうにしている。


 直也は乱れた呼吸を整えながら、覚悟を決めてジェシーに話しかけた。


「あなたは、ジョニーさんですよね」


  直也の言葉に冒険者ギルドの中は水を打ったような静けさが訪れた。誰一人として口を開く者はいない。ギルドの職員は天を仰ぎ、冒険者達は驚きに目を見開いている。


  余りの静けさに奥の部屋に縛られて監禁されたシャロンのフガフガ何か言っている音だけが、やたらと聞こえてきたのであった。


 


 


 


 


 


 


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