恋人達の戯れと嫉妬の叫び

「私達もう終わりだね」


「待って、桜、違うんだ。誤解なんだ!」


「何が違うって言うのよ! 私以外の何人もの女性と浮気した挙句に、今度は女のために借金。それも11億円よ! 11億円!」


 「だから、違うんだって」


 「何が違うって言うのよ。本当に分かっているの? 11億円よ、11億円。こんなお金なんて一生かかっても払える訳無いじゃない!」


 「は、話を聞いてくれ。お願いだ。待って、待ってよ、桜! 桜!」


 「金の切れ目は縁の切れ目よ。さようなら直也。もう二度と会うことも無いでしょうね」


 「嫌だ、行かないでくれ。僕を捨てないでくれ! 桜、桜!」


 


 


 

「桜!」 


  直也は自分の叫び声で目を覚ました。額は汗にまみれ、心臓はバクバクと高鳴っている。


 「夢?・・・夢だったのか」


  深い深呼吸と共に瞳を閉じて心と体を落ち着ける。例え夢であろうと桜に会えたことが嬉しかった。

 直也は気持ちを落ち着けて、何があったのかを思い出してみる。


 「スケルトン達に食べたぶどうの請求書を見せられてから・・・どうなった? 駄目だ、思い出せない」


 直也は一旦思い出すことを止めて、取り敢えず今おかれている状況を確認をするために周囲に目を向ける。


 「知らない天井、ここは何処だ?」 


  まだ意識が完全に覚醒しておらず、少し頭がボーっとした状態のままの直也は、起き上がろうとする体が重く動きづらいことに気が付いた。


 「夢のせいかな、体が鉛のように重い。それに何かが体に乗っかっている上に手足を拘束されているような気がする。・・・けど嫌な感じはしない。温かくて柔らかい」 


  次第にハッキリとしてくる頭で原因を探ろうと辺りを見渡してあることに気が付いた。

 右手にサクヤ右足にレーヴァ、そして左腕にリーシェ左足にマリーが抱き体の上では胸に頭を乗せて抱きつく様にアスがのっており、みんなとても幸せそうな顔をして眠っている。


 「この状況は一体?」 


  驚いて完全に覚醒した脳が女の子の甘い香りや両手足に胸が当たる感触や胸に挟まれている感触、やけに生々しい「ウン、アン」という寝息などの刺激的な情報を直也に伝えてくる。 


 「意識しちゃ駄目だ。興奮しちゃ駄目だ」 


  直也の上にうつ伏せで眠っている少女は、実は一番年上のお姉さまで、経験豊富な色欲の魔王様だ。ここでもし僕を大きくしてしまっては、色欲の魔王様に気が付づかれてしまうかもしれない。そんな事になってしまえば僕はまな板の鯉、僕の僕がみんなの前で美味しく食べられてしまうかもしれない。 


 「六根清浄、六根清浄、六根清浄。祓い給え。清め給え」


  直也が一生懸命、必死に僕を落ち着けようとこうとしていると、


 「グルル、死ね」


  獣の唸り声が聞こえてきた。直也は声が聞こえた方に目を向けると真っ白な毛の大きな狼が敵意を込めた青い瞳でこちらを睨みつけ、牙を見せつけるように唸っている。白狼は以前に一度見たサクヤの召喚獣のフェンリルの様だ。どうやら野営の警戒要員としてサクヤに呼ばれたみたいだった。


 

「ハーレムクソリア充は死ね。爆発して死んでしまえ」


 「ん?」


 「足の小指を箪笥の角にぶつけて苦しんだ挙句に大爆発して死んでしまえ」


 「んん?」


 「僕のサクヤちゃんだけでも殺してやりたいほどなのに、それだけでは飽き足らず何人も女侍らせやがって。お前なんか豆腐の角に頭ぶつけて恥ずかしい思いを散々した挙句に核爆発で死んでしまえ」


「・・・君は人間の言葉を君話せるのか」


「当たり前だ。僕は神獣フェンリルだぞ。おまえなんかよりもずっと、ずうっと、頭が良いのだぞ。ずっとずっと偉い神族なのだぞ!」


「そうなんだ、ははは」


「ふん、何だってお前みたいな奴がモテるんだよ? 僕の方がモフモフでシュッとしていて格好良くて強いのに。普通に考えたら抱き着いて寝るのなら絶対に僕の方にじゃないかな? なあそう思うだろ、クソリア充」


「ははは、」


  直也はなんて言えば良いのか分からずに乾いた愛想笑いをすると、


「何だよ、何が可笑しいんだよ、クソリア充。見せつけるように女の子を抱きしめやがって。おっぱいにいっぱいパフパフ挟まれやがって。早く死ねよ、クソリア充」


  フェンリルはすっかりと拗ねてしまったようで顔を背けてしまい、直也を見ようとしない。


 「クソ、僕のサクヤちゃんやマリーちゃんのおっぱいが、あんな奴にバインバインされるなんて。アイツ俺が丸かじりで殺してやろうかな」


  フェンリルの嫉妬に溢れた言葉に返す言葉が見当たらない直也が、少し気まずくして黙っていると、直也の体の上でうつ伏せ上に眠っていた元色欲の魔王アスモデウスこと10代前半の容姿の美少女アスが目を覚ました。


 「主様、おはよう。起きていたんだね」


  寝ぼけているのだろうか、美少女アスはモソモソと身じろぎをしながら、直也の腰の上を支点に体を擦りつけるようにして上半身だけ起き上がり、腰の上で女の子座りになりながらウーンと背伸びをした。


 直也の僕の直上で繰り広げられる体が擦れ合う刺激の濃厚接触は、直也の僕に今日も元気なご立派様活力をギンギンに与えてしまう。


 (六根清浄六根清浄六根清浄六根清浄、六根清浄! 落ち着け、平常心、平常心だ)


  直也が全理性をかき集めて体の一部が高質化して大きくなる自然現象を抑えるために苦悶の表情で必死に戦っていると、その様子を見て事情を察した美少女アスは、面白いおもちゃを見つけた子供のような顔をして直也に話かける。


 「ねえ主様、こんなに苦しそうな顔をしてどうしたんですか」


  幼さが残る小さい体を少し前に倒して直也の両胸の上に手をつくとマッサージを施術するように優しく撫で上げる。


「うあ、待ってアス。ヤバいって」


 「何がヤバいの? ねえ、主様? もう素直になった方がいいんじゃないかな。あんまり我慢すると体に悪いですよ」


 「僕は、我慢なんて、していないぞ。全然、我慢なんて、していない、ぞ」


  小悪魔美少女アスは起こした体をまた直也の鍛えられた胸に預け、直也の頭を両手で抱きかかえると左耳に口をよせてそっと囁く。


 「もうホント直也ってば意地っ張りなんだから。でも、ここは素直で良い子みたい。良い子は頭をヨシヨシしてあげないとね」


 アスはスゥと左手を伸ばして下腹部を撫でるように下へ下へと触っていく。


 「うう、止めろよアス。僕は意地なんて。素直にテントなんて張ってないですぅ」


 「そう?」


  アスは直也の耳をハムハムを甘噛みしながら、「フッー」と息を吹きかける。


 「くうー、まだだ。僕はまだ、アスまだ僕は!」


  直也が眠った美女達に四方を囲まれながら、アスと愛し合う恋人同士のような戯れの時間を密かにムフフと楽しんでいると、突然色々と突き抜けた強烈な殺気が神々しい神気の渦と共に発生した。そのあまりの凄まじく鋭い殺気に、眠っていたはずの他4人も、まるで今まで起きていたかのように、素早く飛び起きて周囲を警戒する。

 

 発生した殺気の中心、そこには真っ白な美しい毛を逆立てながら今にも飛び掛かってくるような姿勢で、泣いて震えているフェンリルの姿があった。


 「いい加減にしろよ、このクソリア充が! そんなに止めて欲しかったら、嫌だったら、僕に変われよ!」


  キレにキレて剃刀を思わせるほどキレまくったフェンリルは、グルルと怒り狂い血走った目から大粒の涙を溢しながら殺気の混じったマジ戦闘時並の神気を体から噴出させている。


 「お願いだからその役を僕に、僕に変わってくれよー!」


  わおーん、と嫉妬の遠吠えと共に直也をターゲットにロックオンをして、前足の肉球と鋭い爪を向けて飛び掛かってきた。


 「はい、バトンタッチー!」


  その交代を求めるフェンリルの「バトンタッチ」の雄叫びは、後に「グリイプニルを引きちぎるために暴れた時の3倍は雄たけっていた」と、フェンリルが自分で語るほどのまさに神話級の叫びだったという。


 


 


 


 

直也が目をさます1時間前の事、


 「直也様、お嬢様はまだお帰りになっておられません」


  何とか2日間にも及ぶフレイヤと二人きりのデス・デスクワークを乗り越えて、這う這うの体で屋敷に帰ってきたイズナは出迎えたメイドに直也の所在を確認した。


 「直也様はまだ帰っていない? もう二日間もサクヤ達5人とずっと一緒に? 朝も夜も寝る時もずっと一緒・・・、まさか! 直也様が危ない!」


  イズナは直ぐに町の出口に向け踵を返すと深夜の暗闇の中を、不死のダンジョンを目指して全力で走り始めた。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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