フレイヤ・ヴァナティース
直也達が不死のダンジョンの第11階層で食べたシャインマスカットの支払い方法を一生懸命に話し合っている頃、
「なんで私がこんな書類に事務仕事をしなければならないの。本当であれば直也様とダンジョンデートをしていたはずなのに、ねえフレイヤ?」
イズナはガーディアンズの団長室にある自分の机の上に突っ伏しながら不貞腐れていた。いつもピンとしているケモ耳もふさふさの尻尾も今日は何処かくすんで見える。
「それが団長の仕事だからです。団長は最近ガーディアンズの仕事をないがしろにし過ぎです」
(今日もイズナたま可愛い! ケモ耳シッポが超まじラブリー!)
フレイヤと呼ばれたのは、ガーディアンズ副団長でナンバーズ序列1位 フレイヤ・ヴァナティース。決して感情を表に出すことが無い無表情の女性。身長は170㎝ほど、ウェーブのかかった綺麗で長い金髪に美しく澄んだ青い瞳を持つ美女。白く透き通り整った美しい顔は見る者を惹きつけて離さない魅力を持つ。
フレイヤは全身に白銀色に輝くまるで天馬《ペガサス》を思わせるような鎧と、とても女性の力では持つことさえ出来ない牛や馬すら一撃で両断するような大剣を背に背負うように装着しており、その振る舞いや佇まいには無駄や隙が無く彼女が超一流の実力者であることを示している。
彼女は元々他勢力の戦士だったのだが、ある戦闘でイズナと敵対し完膚なきまでにボコボコに殴り倒されて、そのイズナの勇ましい姿に心を奪われて恋をしてしまった。フレイヤは国に帰った後もどうしても美しいイズナの勇ましい姿が忘れられずに、彼女が所属していた団体を逃げるように脱退すると、セフィロトの町にやって来てガーディアンズの採用試験を受け隊員になった。フレイヤは他者を大きく凌駕する力を持っていたため、一足飛びで昇進を繰り返し、僅か3年ほどで副団長の地位まで登りつめたのである。
フレイヤは自身も副団長になってからというもの、自身を「生涯をイズナの副官兼護衛兼秘書兼身の周りのお世話係」と謳い、イズナがガーディアンズ本拠地に来ている時には常に有給休暇を取り、プライベートの時間としてイズナの側にはべりついて離れることはない。フレイヤは今日も有給を取って好きなようにイズナの側で幸せを満喫していた。
「でもデスクワークはもう大分前に貴方達に引き継いだと思うのだけれど? そもそも、なんで今日な訳?今日じゃなければいけなかった訳?」
ケモ耳をピクピク前後左右に動かしながらイズナは不満そうに話す。
「申し訳ありませんでした。しかし、ここにある書類は全て団長に確認サインをしていただかなければ無ければならない書類です。もうかなり滞ってしまっている案件が幾つもございますので」
(こうでもしないと最近会いに来てくれないじゃありませんか。あの腐れタカスギといつも、いつも一緒にいてばかりで。悔しい、私のイズナたまが男の側にいるなんて。邪魔してやる、邪魔してやる)
フレイヤは心の声を隠して表情を変えることなく静かに話す。
「それはこの内部調査団の設立 任務内容:調査及び警護護衛対象への24時間密着身辺警護というやつの事か」
イズナは机に突っ伏したまま指で一枚の書類を弾く。
「確かにそれも重要な案件です」
(それはイズナマジラブ信仰会にとって要です。私が自らイズナたまを24時間必ずお守りしたします。イズナたまの笑顔と貞操をクソタカスギからお守りしたしますわ)
「ナンバーズ特殊強襲団の設置というのもあったな」
「はい、レーヴァテインの一件の反省を踏まえて今後の対策として必要になるかと」
(許すまじ!ヒモ野郎タカスギ・ナオヤ!特殊強襲団、通称滅殺タカスギ・ナオヤ絶対殺す軍団がこの世から完膚なきまでに存在を消してやる! そうだ私の大事なイズナたまを惑わせる奴は絶対に殺す)
「そうか」
「ご理解ありがとうございます」
(イズナたまの貞操は私が必ず私が守ります)
イズナは突っ伏したまま指で机をトントンと叩きながら言葉を続けた。
「ところで最近なのだけれどな。私の周りをこそこそと嗅ぎまわっている奴らがいるようなんだけども、お前何か心当りはないか」
「団長の周りを、ですか?私は何も」
(まさか私の行動を感づかれているのか?だがしかし、私の隠形は完璧だったはず)
「それこそレーヴァテインが町に来た辺りからなのだが」
「そうですか、それは穏やかではありませんね。こちらで少し探って見ますか?」
(これは気づかれているのか?確かに私はその頃から嫉妬のあまり時間があれば必ず覗く様にはしていたが?)
「いやその必要はない。万が一の時は私が自分で対処する。私がな」
「分かりました」
(止むを得ないな。少しの間密着身辺警護を中止して様子を見るか)
「それとフレイヤ。今後、今日のように私と直也様の間を邪魔するような何かあった時には、言葉にすることもできない様な激しい愛の鞭をくれてやるからな」
「分かりました。そのように皆に周知徹底致します」
(イズナたまの命令でもそれだけは、それだけは聞くことは出来ません。それに言葉にできない様な愛の鞭も私にとってはご褒美。絶対に頂きたい一品ですから!)
「ところで、これは東国から仕入れた大変貴重な大豆とお酢で作った、いなり寿司ですがお食べになりますか?」
話を逸らすために、手間暇と愛情を込め高級な素材を惜しげもなく使い、油揚げから自分で作った見事ないなり寿司を、イズナに見せつけるようにしてカバンから取り出した。 甘い出汁の美味しそうな香りが油揚げからフワッと漂うと、ジュルリと口から涎を垂らしたイズナの眼はいなり寿司に釘づけとなる。
「イズナ様食べますか?食べませんか?」
「食べる。食べます!」
「では、お仕事を片付けてしまいましょう」
イズナは見事ないなり寿司が食べたい一心で、次々と書類にサインして仕事を片づけていく。そのスピードは凄まじく、手元に残像が見えるほどだ。残像サインで仕事をこなしていくと間もなく仕事も終わってしまい、いなり寿司の時間が到来する。
「早く、早く、早く」
「はい、はい、たんとお召し上がり下さい」
決して感情を表に出す事が無い無表情の女戦士フレイヤは誓う。
彼女の愛するイズナ様を、ケモ耳シッポのイズナたまに変えてしまった、ありがた憎い男。美しくて強いイズナたまをただの女にして貞操すら奪ってしまうかもしれない羨ま危険な男、恨めしいタカスギ・ナオヤの一日も早い滅殺を。
ガーディアンズ副団長でナンバーズ序列1位 フレイヤ・ヴァナティース。イズナを愛しすぎる元ヴァルハラ所属のヴァルキュリアは美味しそうにいなり寿司を食べるイズナの姿に幸せを感じながら、どうやってイズナに気付かれず直也を確実に滅殺してくれようかと、無表情のまま頭を悩ませるのであった。
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