最優先事項!

「お前達の親分は何処にいる?」


 「へい、魔王様。親分はしばらく前から出かけておりやす」


 「出かけている?ここにはいないと言う事か?でどこに行ったのだ?」


 「へい、魔王様。親分は1ヶ月くらい前から出かけておりやすが、行先までは分かりやせん」


  魔王アスモデウスで魔法少女カオティックブラックこと直也の従者を勤めるアスによるスケルトン達への同時通訳聞き込み調査が行われていた。


 流石に太古から世界中に名を馳せる魔王様だけあって魔物達は素直に言う事を聞き逆らうことは一切ない。 


 この聞き取りには直也達も参加しているのだがスケルトン達の会話を理解することは出来なく、只々カタカタと顎を揺らしている様にしか見えない。


 

「何か言っていたことはないか?」


 「へい、魔王様。少しお待ちくだせい、こいつらにも聞いてみやす」


 「おい、野郎ども。親分が何か言っていたのを聞いた奴はいるか?いるのならさっさと言いやがれ! 魔王様を怒らせたらみんな殺されてまうぞ!」


 「ムムっ、私分かりました。言っていることが分かったような気がしました」


  エルフのリーシェはさっきからアスの隣に立って一生懸命スケルトンに話しかけては、何か集中をするようにこめかみに両手の人差し指を当てている。


 「西・・・ですいや東です。北に向かえと言っている気がします」


  南を指さし、得意そうに直也に言って来る。


 「そうだね、良く分かったね。凄いや」


 「へへへ」 


  直也に褒めてもらったとリーシェははにかみながら喜んでいる。


 「少し雑な対応な気がしない?」


 「私がされたらキレてしまうような対応ですが、本人が喜んでいるのであれば良いんじゃないですか」


  サクヤとマリーの話す声が聞こえてきた直也は少しビクっと震えて背筋を伸ばす。


 「誰か、いねえのか!」 


  すると一番後ろにいる若いスケルトンがスッと手を上げる。


 「はい、親分は町に行くと言っていました」


 「何? 町にだと!どこの町だ」


 「はい、すいませんそこまでは分かりません」


 「魔王様、親分は何処かの町に出かけたようです。申し訳ありやせんがこれくらいしか分かりやせんでした。この償いはワイの命で償いやすので他の奴はどうか命だけはお許しください」


 「知らないのであれば仕方がない。安心しろ、お前達の命などはいらない」


  その言葉を聞いたスケルトン達は安心したのかほっと肋骨を撫でおろす。

 アスは直也に身振り手振りを加えてスケルトン達の話を伝えている。その間もスケルトン達は一糸乱れぬ姿で地面に土下座をしたままだ。


 「主様、バイオレットは何処かの町に出かけたまま、しばらく戻っていないそうです」


 「そうなのか。でもこのダンジョンにバイオレットがいると言う事がわかっただけでも十分だよ。ところで彼らはいつ迄このままなの?」


 「そうですね、もう良いですよね。あー、お前達ご苦労だった。もう仕事に戻って良いぞ。はい、解散解散」


 「へい、魔王様。それでは失礼させていただきやす。野郎ども仕事に戻るぞ」


  スケルトン達は桑や鎌などの農機具を拾いながらそれぞれの持ち場に戻って行った。


 「旦那様、話は終わったのか? それにしてもここの果物は本当においしいな」


  薄緑色の輝く宝石のような大粒のブドウの房を腕一杯に抱き抱えてモリモリと食べながらレーヴァがやって来た。レーヴァの後ろには2体のスケルトンがついて来ていて必死に話掛けるように顎をカタカタと動かしている。


 「レーヴァ後ろの方達は一体どうしたんだ?」 


 「分からない。さっきからカタカタ五月蠅いんだ」 


 「私が話をしてみます」 


  アスはレーヴァとスケルトンの間に入って事情を聞樹始める。


 カタカタ 「ふんふん」 カタカタ、「ふんふん」 カタカタ、「ふんふん」 


 スケルトン達は必死に訴えているようだ。


 「あー、美味しかった。美味し過ぎて畑の全部食べてしまったよ」 


  直也はスケルトン達を横目にしながら


 「畑全部って、どんだけ食べたんだ」 


 「分かんない。あるだけ全部」 


 「人様の畑のブドウを全部食べたって」


  レーヴァの様子に呆れる直也の袖をアスがクイっと引っ張った。どうやら事情が分かったらしい。


 「主様この者達は畑で食べたブドウ代を払って欲しいらしいです」 


 「ブドウ代?」 


 「このブドウは商い用に栽培した特別なもので、シャインマスカットと言うそうです。他では手に入らない大変貴重なもので、一粒金貨1枚で市場取引されているそうです」 


 「シャ、シャインマスカット! 一粒金貨1枚!」


  直也はスケルトンの言いたいことがはっきりと理解できて顔を青くする。一体レーヴァは何房、何粒のシャインマスカットを食したのであろうか。


 遠くで実のついていないブドウの房を集めているスケルトン達が目に入る。彼らは金貨一枚でも見逃さない構えのようだ。


  直也の頭の中にはシャインマスカットの代金を踏み倒そうとか、スケルトン達を倒して無かった事にしてしまおうという様な考えはなかった。彼らは農夫ならぬ農スケルトンでとても善良な方達だった。そんな彼らが丹精込めて作ったシャインマスカットを無断で食べてしまったのだ。僕達は泥棒では無い。せめてちゃんとお金は払わないと。


  だが、それゆえに怖い。震えるほどに怖い。一体いくらになるのだろうか? パット見ても畑の広さは300坪以上はありそうだ。この広さの畑にどの位のブドウがなっていたのだろうか。シャインマスカットは一房40粒前後の実がついていると、前にアルバイトをしていた喫茶店の厨房担当の月詠先輩から聞いたことがある。


 「あばばばば」


  直也は考えるだけで震えが止まらない。


 サクヤとマリーに目を向けると二人はあからさまに直也から視線を逸らし、リーシェはまだ一人スケルトンヒアリングに挑戦しいている。レーヴァは「ご馳走様でした」と抱えていたシャインマスカットを全部食べ尽くし、その食べ終わった房をスケルトンに渡している。その食べ終わった房の量は10や20では無い。


 カタカタ 「ふんふん」 カタカタ、「ふんふん」 カタカタ、「ふんふん」 


  スケルトンがアスに何かを話している。


 「今、食べたシャインマスカットの代金清算をしますので、暫くお待ち下さい。領収書は必要ですか」


 「少しおまけしていただけませんか? あと出来れば、分割払いでお願いしたいのですが」


  恐らく今見えている房の分でも金貨2,000枚は軽く越えてしまっているだろう。とても1回で払える代金では無い。


  手に汗握る直也の値切り交渉をアスが通訳するなか、レーヴァの鋭い視線が次の獲物を探し求めて美味しそうなメロン畑をロックオンしている。


 「レーヴァ、お前ふざけんなよ! それ以上食べたら絶対駄目だからな! 絶対にだぞ!」 


  非常に珍しい事に仏の直也がキレてしまっている。すっかり先ほどまでとは反対にスケルトンに直也が頭を下げる状況となってしまっていた。


  今の最優先事項は、直也に出来る事は支払い料金を頑張って値切って、何とか分割払いにしてもらうために必死に頭を下げる事だけだった。


 


 


 


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る