仲直りと新たな火種

「ヒック、エグ、意地悪です。意地悪な直也さんは嫌いです」 


「旦那様酷い。あたいは本気で怖かったんだからね」 


  不死のダンジョン地下10階層を攻略した先にあるセーフティーゾーンで直也はリーシェとレーヴァに必死に謝っていた。直也達が2人を発見した時には、恐怖に顔を引きつらせたまま息も絶え絶えで震えながら体を寄り添わせて部屋の隅で泣いていた。


 「ごめんなさい。本当にごめんなさい。こんなに幽霊が苦手だなんて思わなくて」 


 「ヒック、ヒック、ゆ、許しません。絶対にただでは許してあげません」 


 「旦那様は酷い人だ。あたいをこんなに怖がらせて。何があっても俺が守るって言ったじゃないか。いくら旦那様だからって、今回は私もただでは許してあげられないな」


 2人は直也の体の左右にしがみつく様に抱きつ、顔を埋めて涙や鼻水を直也の服で拭い出す。


 「直也さんも反省している事ですし、そろそろ許してあげても」


 「大体にしてアンデットが怖いとか冒険者としてどうかと思いますが」


 「嫌ですぅ。このままでは嫌でぇすぅ」


 「怖い物は仕方がないじゃないか」


  サクヤとマリーは直也をフォローしつつも、抱きついているリーシェとレーヴァを引きはがそうとするが必死の抵抗を受ける。その様子を少し離れたことろからアスはニヤニヤと見守っている。


 「嫌です、絶対に離れません。直也さんが心の底から心を込めたヨシヨシナデナデをして慰めてくれるまで、私はもう一歩も歩けません」 


 「旦那様、あたいも慰めておくれよう。ナデナデしてヨシヨシして、モミモミまでしておくれよう」


 「本当に怖がらせてしまってごめんなさい」

 

 直也は二人に謝りながら、望まれた通りに優しく髪をすくように何度も頭を撫でる。


 「直也さん少しくすぐったいけど、とても気持ち良いです。もっと、もっと強くお願いします」 


 「旦那さま、そこ。そこが良いの。体がなんだかフワフワして。ああ、とてもとっても素敵!」


 「本当にごめんね」


  突然に始まった甘い恋人達の情事を思わせる官能的な時間。これで少し味をしめて調子にのったリーシェとレーヴァが直也に謝罪シュチエーションプレイを要求し、サクヤとマリーの機嫌は氷点下まで下がり続けていく。


  とうとう頬を撫であげてからのアゴくい、そして耳元で「目を閉じて」と優しく息を吹きかけながら囁いた辺りで二人は爆発し、


 「直也さん、私にもして欲しい」


 「直也、お前は本当に酷い男だな。私をこんなにも本気にさせておきながら、こんな情事を見せつけるとは」


 「はいはーい、主様私もして欲しい」


  辛抱堪らず私達も混ぜろ、と直也に詰め寄り大騒ぎとなって収拾がつけられない。この騒ぎは一人一人の希望の通りのシュチエーションプレイをこなすまでは終わることは無かったという。


 


  無事に仲直りを終えたアマテラスのメンバーは此処で体制を整えるために装備の確認を行った。と言ってもみんな何か特別な装備や準備をして来ている訳では無かった。 通常のダンジョンアタックでは考えられないほどアイテムなどの荷物も少ない。せいぜい自分の武器と食料品と言ったところだろう。


 「直也さんは何で鎧を着ないのですか?」


  リーシェは自分が身に付けているレザーアーマーを見ながら直也にたずねた。


 「うん。鎧って動きづらいし、慣れなくて。それに僕には霊気の鎧があるからね、ほら」


  直也は手のひらをリーシェに見せながら少し強めに霊気を放出すると、青白い光が手を覆っているのが見えた。


 「凄いです、それって私も頑張れば出来るようになりますか?」


 「勿論出来るようになるよ。リーシェは魔力のコントロールがバッチリ出来ているから、霊気を感じることが出来るようになれば、あっという間に出来るようになると思うよ」


 「直也さん、霊気と魔力って何が違うんですか?」


 「えっ、そうだな。・・・霊気は魂が作り出して、魔力は魔力器官が作り出すものなのかな」


 「?」


  直也は以前のアルバイト先の先輩から聞いた話を教えた。


 「いや、僕のはっきりと知っている訳では無いけれども、霊気って魂、命がある者だったら鍛えればある程度は誰でも使えるものなんだよ。でも魔力って先天的に使える者と使えない者がいるでしょ。それはその人魔力器官を持っているかいないかの差なんだって、聞いたことがあるな。ちなみに僕は魔法を使えないな。力を使えば似たようなことは出来るけれども」


 「なんか難しいです」


 「そうだね。でもリーシェも霊気を使えるってことだけは確かだから」


 「私に霊気の使い方を教えて下さい。直也さん、いえコーチ。私はもっと強くなりたいです。守ってもらうばかりではなく、頼られて守ることが出来ようになりたいです」


  まっすぐな気持ちのリーシェの言葉は、かつての無力だった自分が感じた思いと同じで、心の想いが重なったような気がした。


 「そう、分かったよ。でも僕の修行はとても厳しいぞ」


 「ハイ、コーチ」


 「面白そうな話をしていますね直也さん。私にも教えてくれませんか?」


 「直也、当然私にも教えてくれるのだろう」


 「勿論良いですよ。誰かに教えてもらったほうが、覚えも早いですし。僕に霊気の使い方を教えてくれた師匠はイズナさんなんですよ。僕は出来が悪い生徒だったから、霊気を使いこなせる様になるまで苦労しました」


 「旦那さま、それはあたいも初耳ですね」


  直也は懐かしい記憶を思い出すように、頬を緩ませながら楽しそうに笑う。


 「他にも教えてくれた先輩もいたけれど、イズナさんには特に厳しく鍛えてもらいました。彼女はスパルタで戦場の真ん中に置いて行かれた時はさすがに僕も死んだと思いましたね」


 「イズナ様って何でも出来るんですよね。最近のイズナ様の姿しか見ていないから忘れてしまうけれど、イズナ様って本当は伝説になるほどの偉くて強い英雄なのですよね」


 「そうですね。イズナ様はただ強いだけではありません。イズナ様ほど町の発展に貢献して、町を守られてきた方はいませんから」


 「私の国でもイズナ様を知らない者はおりません。この世の中に英雄イズナ様を知らない為政者など一人もいないでしょう。私がそんな英雄と一緒に暮らして、同じ冒険者パーティーの仲間になるなんて想像もしていませんでした」


  今回の不死のダンジョンの攻略にイズナは参加をしていない。朝の出発の時にガーディアンズからお迎えが来て連れて行かれたためだ。しばらくの間ガーディアンズの団長としての決済書類などの仕事溜めたままにしていたようで、もう既に団の運営に支障が出ているとの事の様だった。始めは猛反発をして何が何でも直也と一緒に行くと豪語していたイズナだが、周りからの粘り強い説得を受けて、泣く泣く諦めて団の本部へ仕事に連行されて行ったのであった。


 「今日は本当に残念でしたね。まさか一番気合が入っていたイズナさんが連れて行かれるとは思いませんでしたね」


 「何でも書類のお仕事が沢山溜まっていたようですね」


 「イズナ様は書類仕事やお片付けなんかも苦手ですからね」


 「僕イズナさんを迎えに来た人達全員に思いっきり睨まれたけれど、何か気に障る様な事をしたかな? みんな何か思い当たる事ないかな?」


 「・・・・・・・・・」


 「主様、細かいことは気にしないで次に行きましょう。もう大分時間が押していますよ」


 「そうだね。では行きますか」


  長い休憩を終えて直也達はダンジョンの攻略とバイオレット・ブラックブルームの捜索をするために探索を再開した。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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