七時だよ、アマテラス依頼請負判定会議

 依頼種目:調査・情報収集  


 依頼期間:定めの期間なし


 対象:バイオレット・ブラックブルーム 

 推定700歳以上 魔法儀式により自ら不死となった真祖の吸血鬼


 依頼内容:

 不死のダンジョン最下層に存在すると言われている真祖の吸血鬼バイオレット・ブラックブルームの捕縛又は調査及び情報収集


  依頼達成条件:

 対象を捕縛、もしくは生存に関する情報の提供と証明


  報酬:

 対象の捕縛・・・金貨10,000

 情報の提供・・・情報の質(種類・量・精度)、物証等による


 

 依頼は今から300年ほど前に冒険者ギルドに出されたもので、未だにこの依頼を達成した者はおらず、満足な情報すら得られていない。


 不死のダンジョンはその名の通りにアンデットモンスターが多く確認されているダンジョンで、セフィロトの町から北東に20キロほどの離れた渓谷で発見された。

 多少だが遠距離にあるのと、ほぼアンデットモンスターしかいないダンジョンのため、金銭や素材などの収入や報酬が少なく、苦労に収入が見合わないためにダンジョンの攻略や討伐で生計を立てようとする者は少ない。

 

 そのため未だに探索は下層には到達していない。現在は第7層、通称「スケルトンの墓場」まで攻略が完了しているが、まだダンジョンが第何層まで存在しているのかさえ分かっていないのが現状であるため、まだまだ完全攻略までの道のりは長い年月が必要だろうと思われていた。


 


 

 生命の樹を祀る大社の一角にあるシラサキ家の屋敷の食堂ホールで、冒険者パーティーアマテラス所属メンバーによる「七時だよ、アマテラス依頼請負判定会議」が開かれていた。

 参加者は町の代表を兼務しているビップな美人サクヤ・シラサキ、シラサキ家のメイド長で忍びのマリー・シーテン、森の天然美女エルフのリーシェ、魔王アスモデウスであり魔法少女カオティック・ブラックでもある直也の魂の従者のアス、伝説の中の伝説終焉の火竜ことレーヴァテイン、大戦の生き残りカーディガンズ団長で九尾の神狐のイズナ、そして甦ったコントラクターの高杉直也だ。


  今日の議題は直也が冒険者ギルドの美人人妻職員アリッサから、とっておきの依頼として進められた真祖の吸血鬼バイオレット・ブラックブルームの調査依頼。300年も前から冒険者ギルドに塩漬けされていたものだ。直也は今回紹介を受けた経緯を簡単に話しつつ、依頼書の内容を説明していく。


  和やかな雰囲気で始まった会議は、美人人妻職員アリッサが紹介した依頼と言う辺りから一部の者の様子が少しずつ怪しくなっていった。


「居るかどうかも分からない吸血鬼のために、これ又どこまで続いているかも分からないアンデットばかりが住む不衛生なダンジョンを、隅々まで調べて周れ、ということですよね主様」


 「しかもダンジョンを攻略したとしてもバイオレットがいなければ報酬は無い。もし本当に居たとしても真祖の吸血鬼とことを構えることになるかもしれない可能性もあるってことですよね、直也さん」


 「第一に依頼主が分からないと言うのはいただけないな。書いてある報酬が信頼に足るものかどうかも分からないし。ただ働きと言う事は無いと思うけども、アンデットの素材なんて売ったところでたかが知れているし、そうなった場合は大きな赤字が出てしまいかねない。その上真祖と戦闘の可能性があるなどとあまり考えたくはないな、直也」


 「アンデットって幽霊ですよね? 怪異ですよね? 怖いですよね? 恐ろしいですよね? 私そういうのは駄目なんです」


 「あたいは幽霊なんて平気だぜ。あいつらはただ突然現れて脅かす事しか出来ない奴らだからな。あたいは本当にそんなの怖くないし。でもこの依頼はちょっとだけ辞めておいた方が良い気がするな」


 「まあまあ、皆さん直也様にも事情があるのでしょう。美人人妻からの紹介を断れない事情が」


  いつものことながらイズナが少しアリッサにたいして過剰な嫉妬の反応をしているようだ。


 「主様はこの依頼を受けるつもりですか?」


「直也さん、私は正直あまり良い依頼とは思えません」


 「直也、私もこの依頼は辞めた方か良い気がする。何か嫌な予感がする」


 「助けて下さい。許して下さい。井戸の中から出てきたりする呪いの幽霊なんて絶対に嫌です!」


 「旦那様よ、あたいもこの依頼はあまり良いと思えないな。別に幽霊が怖いからなんかじゃないぞ、幽霊が少し苦手なだけだからな」


 「まあまあ、皆さんにも色々と言いたい事があるのでしょうけど、もう少し話を聞いてみましょう。美人人妻からの紹介された300年物の塩漬けの依頼を受けてみようと思うような、やんごとなき、事情を」


  心配や不安に恐怖や嫉妬、女性陣はみんなこの依頼については否定的だ。


 「僕もこの依頼は余り良い条件とは思わない。けど、少し気になることがあるんだ」


 「気になる事ですか?」


 「僕も依頼書を初めて見た時にはこの依頼はなんか嫌な予感がして断ろうと思っていたのだけれど、うーん? なんて言えば良いのかな。うまくは言えないのだけど、このバイオレット・ブラックブルームと言う吸血鬼。何かが引っかかるんだ。確かどこかで聞いたような、会ったことがある様な、会わなければならない様な、そんな感じがするんだ」


  直也はそう話してみんなの様子を見ながら話を続けた。


 「みんなには申し訳ないけども、僕はこの依頼を受けてバイオレット・ブラックブルームとは一体誰で何なのかを、確かめてみたいと思っているんだ」


 「なるほど、なるほどです、主様」


 「契約者の直也さんの感がそう言っているということですか」


 「ふむ、直也の感がそう言っているのなら確かに何かあるのかもしれないな」


 「うう、幽霊は怖いです。怖いのはイヤです。助けて下さいウィンチェスターブラザーズ」


 「ウインチェスター?  リーシェ、お前は

何を言っているんだ?  でもそんなに怖いなら今日はあたいが一緒に眠ってあげるよ。それが良いよな。トイレも一緒に行けるし。そうだな、そうしようそうしよう。勘違いしないでよね。別にあたいは幽霊なんて全然怖くないし余裕なんだから。リーシェのために一緒に寝るだけだからね!」


 「直也様! 私の眼をじっと見て言って下さい。目を見て人妻のアリッサとは何の関係もありませんって。そう言って私を安心させて下さい、信じさせて下さい!」


 「・・・・・・」


  直也と魂が繋がっているアスは直也の過去の記憶を読んだのか謎の理解を見せ、契約者としての直也の力は信じているサクヤとマリーはダンジョンについての相談を始めて、幽霊を怖がり震えて聞いたことがあるようなないような兄弟の名前を呼んでいるリーシェ、どう見ても幽霊を怖がっているようにしか見えないのに強がるツンツンのレーヴァ、そして夫に浮気を詰め寄る妻のように必死な形相を見せて直也に詰め寄るイズナ。


 

 参加者半分が直也の話を聞かずに自身の世界を広げている。そんな七時だよ、アマテラス依頼請負判定会議の協議の結果はアス、サクヤ、マリーから賛成票を、リーシェとレーヴァの二人は最後まで折れずに反対票、直也から人妻に関する重要事項の説明が不十分と言うことで棄権となったイズナ。


 何とか過半数の賛成票を得た直也は、翌朝早速依頼を受けるために冒険者ギルドへ出かけたのであった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る