第3章 塩漬けの依頼

お勧めの依頼

 地竜の討伐から数日たったある日の事、直也は朝早くから冒険者ギルドの掲示板の前に一人で立ち、まるで苦虫を噛み潰したよう表情をしながら依頼書を吟味していた。


「今日は何か良い依頼はないかな。みんながアッと驚いて沢山報酬が貰えるようなやつ」 直也は決して良いものは見逃さないとばかりに何回も掲示板を見直していた。


  地竜討伐の報酬で得た金貨100枚のお金は50枚をメンバーの当面の生活費としてシラサキ家の家計に治めて、残りを魔王アスモデウスこと従者で魔法少女なアス、終焉の火竜レーヴァテインことレーヴァ、天然美人エルフのリーシェの3人メンバーの活動資金(お小遣い)として等分に分けていた。 直也も報酬を受け取るべきだと3人は主張したが、「自分は遊んでいただけ」と決して受け取らなかった。


 討伐した地竜は欠損どころか傷一つないとても綺麗で良い状態であったために、氷の魔法で固められ王都で開催される冒険者ギルド主催のオークションに出品されることになっている。


 

「あら、高杉君おはよう。今日も早いね」 


「アリッサさん、おはようございます」


  声をかけてきたのは最近良く話すようになったギルドの職員アリッサ。彼女も元冒険者で結婚を期冒険者を引退しギルドの職員になった28歳の元シーフ。主に新米冒険者の教育を担当している。


 「どうしたんだい? そんな顔をしていると運が逃げてしまうよ」


 「はあ、何か良い依頼は無いかと。僕達はB級以上の討伐依頼しかを受けられないのだけどそんな依頼は出てないし、討伐以外の依頼にはなかなか報酬の良い依頼がないんです」


  現在アマテラスの最年少所属員の少女ですらA級地竜を秒殺する実力を持っているという事実を重く受け止めた冒険者ギルドは当面の間はアマテラスのメンバーがB級クラス以上の討伐依頼以外を受けることを禁止した。アマテラスのメンバーが手当たり次第に討伐依頼を受けてしまうと、他の冒険者達があぶれてしまいかねないと考えたからだ。


 「そうよね。私もあなた達なら大丈夫だと思うけれどね」


  アリッサのは話では、A級の地竜の討伐を聞いた冒険者達が自分たちの食い扶持を守る為に組合にB級以下の中・低ランクの討伐依頼をアマテラスに受けさせない様に直談判をしてきたそうだ。


 「はい、僕も言いたいことは分かるので仕方が無いと思わなくもないですが、討伐の依頼意外だと思ったより良い条件のものが無くて」


 「うーん、何か良い依頼無かったかしら」


 アリッサはそう言うと少し考えこんでしまう。


 「ありがとうございますアリッサさん、そのお気持ちだけで十分ですよ」


 「ああ、そう言えば」 


  ポン、と両手を優しく胸の前で合わせたアリッサは受付の奥にある棚からガサガサと何かを探し始める。


 「なにか、おすすめ依頼があるんですか?」


  淡い期待を抱きつつアリッサが何かを探す様子を見ていると冒険者達の話す声が聞こえてくる。


 「アリッサさん今日も綺麗だな」

「ああ、何かいつ見ても綺麗で色っぽいよな」「どうしたらもっとお近づきになれるかな?」

「やめておけよ、アリッサさんは人妻だぞ」


  どうやら、話をしている冒険者達はアリッサに好意を持っているようだ。

 アリッサは綺麗な大人女性でファンも多い。美形でキリっと整った綺麗なアリッサは元冒険者と言う事もあってかいつも元気で明るい印象、服装は白いワイシャツに紺色のパンツスーツ姿の働く女性、茶色の長い髪を後ろで縛り動きやすい様に纏めていて、そこから見えるうなじに大人の色気を感じさせる。背は160㎝ほど着ているスーツの上からはあまり体の線が出ないために分かり辛いが良いプロポーションをしていると思われる。


 「うーんと、えーと確かこの辺に」


  とそんな大人の女性のアリッサが可愛らしい独り言を話しながら、自分のために一生懸命になっている彼女の姿を見ると心がほっこりと温かくなるり、ついつい顔がニヤニヤとしてしまう。


 「エロ杉直也さん、そんなエッチに目付きでうちの女性職員を視姦するのは止めて下さい。訴えますよ」


  まだ意識が戻らないジョニー・テックギルドマスターの代行を務めている冒険者ギルド極東支部長で元A級冒険者、兎の獣人族シャロン・シルフィードが見事なウサ耳をピンと立て威圧をするように言ってくる。


 「やはり、やはりあなたのようないやらしい方の下にアスちゃんを置いておくことは出来ません。彼女に万が一のことが起こる前に私が美味しく頂きます。いやいや、引き取らないといけませんね」


  地竜討伐以降シャロンはアスを本気で引き抜こうと色々とアプローチをかけていた。可愛らしくて強いアスを自分の個人的なパートナーとして迎えたいらしい。


 「変な言いがかりはやめて下さい。視姦なんてしていません」


  慌てて様子で否定する直也を見たシャロンはニヤッと笑うと軽業師の様に音も無くギルマス用の机の上に飛び乗り書類を舞らせた。


 「その慌てふためく態度に流れる大量の汗。そして罪を誤魔化そうとして必要以上に張る大きな声。この状況証拠達があなたがいやらし犯人だと確かに言ってます。エロ杉直也、もう言い逃れは出来ませんよ。逮捕です。裁判なんてありません!そのまま、簀巻きにしてこっそり島流しにしてやります」


  シャロンは直也を指さし、ギルドにいる人達に聞こえるように大きな声でまるで、演説でもするかのように高らかと語り、


 「そう思うだろう諸君、性犯罪は許すまじ!エロ杉直也はロリエロ魔人。ロリエロに美少女は駄目、絶対」


 オーディエンスを煽る様に両手をふりながら、演説を終えたシャロンは、我が意を得たりと満足げな表情で目元をにやけさせ直也を見ている。


 「シャロン代行、騒いでいないで机から早く降りて下さい。あと机の清掃と書類の整頓はご自分でお願いします」


  シャロンの思いとは裏腹にアリッサに厳しく注意されてしまう。


 「あれ? 思っているのと違う?」


  シャロンは周りを見てみると誰も彼も普通に仕事をしていて自分の勇姿を見ていないし、話を聞いてもいないようだ。


  シャロンは毎日のように直也を煽りアスを欲しがる言動を続けていたため職員も冒険者達にもいつもの事だ、またはじまったと、いつものありふれた風景の一つだと思われるようになってしまっていた。


 「シャロン代行、早く降りて、仕事をして下さい」


 「はい、分かりました」


  素直に静かに机からおりて、書類を拾うシャロンの姿を尻目にアリッサは一枚の書類を直也に渡す。


 「毎度毎度うちの代行が煩くしてご免なさい。はい、これ。この依頼なんてどうかしら。とても良いと思う。お勧めよ!」


 「アリッサさんありがとうございます。えーと何々。死者のダンジョン最下層、真祖のバンパイアのバイオレットの情報収集?難度S?」


  依頼は300年前の日付のもので、多くの者達が失敗し超塩漬けになっている依頼だった。嫌な予感しかしない依頼書を握り締めながら、笑顔のまま依頼を勧めてくるアリッサの真意を計りきれずに、直也はガチで戸惑うのであった。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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