討伐後の懊悩
「ああ、間に合わなかったか」
倒れている地竜に生命反応がない事を確認すると直也は膝から崩れ落ちる。
先ほどまでの楽しかった時間はもう終わりを告げてしまった。後悔や喪失感が僕を容赦なく襲う。僕は浮かれていたのだ。職を持つことが出来たことや現金収入の見込みがついたことに。
僕は失ってしまった。汚名返上のチャンスを。
あいつや凄い奴だ。ただの無職のヒモでは無かった。
そう、屋敷のメイドのみんなさん達に言って欲しかった。メイドのみなさん達は今日の討伐の事実を知ったらみんなは言うだろう。
女を戦わせて金を稼ぐ外道と。自分は戦わず、女の子にドラゴンと戦わせるなんて話を聞いたら誰だってそう思うだろう。
せめてもの救いは、アスやレーヴァに怪我が無かったこと。それは本当に良かった。
でも、僕は・・・。 ここはプラス思考だ。前向きに考えてみよう。
この局面を乗り切る方法はあるか?
ある。・・・・・・さらにすごい成果をあげることができれば。
そうだ、僕はまだ終わった訳ではない。
「おお旦那さまよ、遅かったな。ん、どうしたのだ?」
膝をついて思考をめぐらせている直也に、地竜の遺骸の側に腕を組んで立っていたレーヴァが膝をつく直也に声をかけて来た。
「主様、この地竜とても弱かったよ」
レーヴァの隣に立つ魔法少女カオティックブラック姿のアスがとても残念そうな、面白くなさそうな表情だ。
直也は未だ震える足に鞭をいれて立ち上がると二人の立っている場所へ近づいていく。
「二人共怪我はない? 地竜の討伐お疲れ様だったね。おかげで冒険初日から無事に報酬を得ることが出来るよ。二人ともありがとう」
直也は先ほどまでの心を入れ替えて二人に感謝を述べる。アマテラスとして依頼を達成出来たことや現金の収入があることはとても喜ばしいことだ。
「あたいは何もしていないよ。アスが一人で倒してしまったからね」
「アス、ありがとうね」
「弱すぎて、お話になりませんでした主様。まさか、ビンタと拳骨で死んでしまうなんて」
魔法少女カオティックブラックから変身を解除してアスの姿に戻る。
「何よ、これ。え、死んでいるの」
遅れて広場にやって来たシャロンは死んでいる地竜を見て驚いている。
「何時の間に! どうやって倒したのよ。地竜の体に戦った跡が全然ない。こんなに綺麗な状態なんて私は今までに見たことがないわ。まるで即死の魔法でも使った様じゃない」
シャロンは 話ながら地竜の状態を確認している。
「でも魔法を使った後は無いようね? 一体どうやって倒したと言うのよ!」
シャロンは興奮した様子で直也に詰め寄る。普通では有り得ない。どうやったらあの地竜をこの短時間で倒すことが出来たのか。しかもこんな綺麗な状態で。それにみんな怪我どころか疲労の後も見えない。何が一体どうなっているの? と。
混乱する思考をうまくまとめる事が出来ないシャロンは必要以上に直也の体にくっついて問い詰める。
「シャロンさん、落ち着いて下さい。少し落ち着いて下さい。当たっていますから、あたっていますから」
直也は素早く自身の両手を頭の上にあげて浮気判定の審判員達にアピールをする。この接触は僕の
「直也さん、私ももっと密着したいです」
「主様、私もご褒美で抱きしめて欲しいな」
「旦那様、あたいのことも少しはかまっておくれよう」
判定は「ノット・ギルディ」甘い審判員のおかげで事なきを得ることが出来たようだ。浮気に厳しいジャッジを行う3名の審判員が不在だったのは大きい。直也は大きく安堵の息を吐きながら
落ち着きを取り戻したシャロンにアスが地竜を倒したことを説明する。シャロンは直也とアスの顔を見比べながら黙って直也の話を聞いている。
しかし、アスが地竜をビンタで倒してしまった件の辺りでとうとう我慢できずにシャロンは声を出した。
「信じられない。こんな可愛いらしいアスちゃんが地竜を倒してしまう力の持ち主だったなんて」
驚きと興味と感動が入り混じる瞳でアスを見つめる。
「いえいえ、たまたまの偶然ですよ」
「凄い、本当に凄いよ。こんなサイズの地竜を秒で単独撃破出来る力なんて聞いたことが無いもん」
「いえいえ、今回は、まぐれです。運が良かったのです」
シャロンはアスと話をしながらジョニーの報告書の内容を思い出していた。そう言えば彼女は魔法少女とか言うのに変身出来るのだったわね。ギルドを半壊させた上に、あのテックギルマスを一撃で仕留めたとか?これはさらに凄い力を隠し持っているかもしれないわ。凄いわ。とっても素敵だわ。ああ、なんとしてでもアスちゃんが欲しい。
シャロンはアスを何とかしてロリコン変態の元から助け出し、自分の下で働いてくれる方法はないかと真剣に考えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます