英雄帰還 英雄語り
頭が重くて、意識がボーッとする。
ここは何処で、僕は?
体は筋肉が硬直しているのか?少し動かしづらい。
なんか、ずっと眠っていたような気がする。
意識がまだ少し混濁しているのか、考えがまとまらない。
(何だろう遠くから声が聞こえる)
混乱から頭がはっきりしない僕の耳に声が聞こえてくる。
「私が一緒に暮らす」
「いや、私が連れて帰る」
どうやら2人の女性が言い争っているようだ。僕は薄目を開けて周りを確認して声のする方を見る。すごい銀髪美人さんとすごい黒髪の可愛い子が凄い近距離で顔を突き合わせて喧嘩をしていた。
(綺麗な女性の怒っている顔は凄い迫力があるな)
髪を逆立て肩を怒らせ素人でもわかる程の殺気を放って言い争っている。内容からすると男を取り合っているらしい。
(あんな女性達に思われる奴、漫画以外でも本当にいるんだ)
ぼんやりとする頭でそんなことを考えてみる。
(何か大事な事を忘れているような)
答えの無い袋小路に嵌ってしまった様な感覚でいる僕のすぐ隣から違う女性の声が聞こえた。
「サクヤ様、イズナ様いい加減にそろそろ大社へ戻りましょう」
「サクヤ、イズナ・・・」
とても懐かしく感じる女性の名前。
僕は知らないうちに声を出していたらしい。
二人の女性達は驚いた顔でこちらを振り向き、何をか叫びながら我先にと押し合い圧し合いこちらに近づいてくる。
(あ、黒髪の子が転んだ)
銀髪の美人な人が黒髪の可愛い子を突き飛ばして転ばせたみたいだ。銀髪の美人は僕の隣に一瞬で移動し、右手を握り締めて声をかけてきた。
「はい、私は、イズナはすぐ傍におります。ああ、直也様」
銀髪の美人は鼻をすすりながら僕の名前を呼んで泣き出してしまった。
「えーと、あの子は大丈夫かな?」
少し遅れて、転んだ黒髪の可愛い子が銀髪美人に文句を言いながら近づいて来る。
「ちょっと、痛いじゃないですか。乱暴は止めて下さい。暴力は嫌いです」
黒髪可愛い子は僕の前にちょこんと座って手櫛で髪を整えながら笑顔を近づけてきた。
「お見苦しい所をお見せ致しました。申し訳ありません。私はサクヤ・シラサキと申します。年齢は18歳です」
やっぱり物凄く可愛い子だ。
サクラ・・・シラサキ・・・!!
その名を聞いた瞬間僕の脳は一瞬で覚醒し、暴走した。愛する恋人が見の前にいる。どうして桜のことを忘れていたのだろう。
「桜!桜!桜!」
僕は寝ていた温かいベッドから勢い良く起きあがると桜を抱きしめる。
「クルルック《なにをする》!」
とびっくりした感じの獣の声が聞こえた様な気がするけど気にしない。
「無礼者、お嬢様から手を放せ」
と女性の怒った声が聞こえた様な気がするがけど気にしない。
「サクヤ、おまえずるい!」
と銀髪美女もなんか言っている。
うるさい周りを意識から追い出し集中。桜に神経を集中する。流れる艶のある美しい黒髪、綺麗で可愛く健康的な僕のど真ん中の女性。
そして世界一愛しい僕の恋人で婚約者の桜。
「無事だったんだね。よかった。本当に良かった」
僕は嬉しさのあまり泣いてしまっていた。桜の顔が見たくて抱きしめた体を少しだけ離したまま尊顔を見つめる。
(今日の桜はいつもより凄く可愛いな)
少しいつもより桜が可愛く見えるが、これも僕の愛情による補正だろう。桜は恥ずかしいのか顔を真っ赤に染め揚げて放心しているみたいで返事がない。
そうか、野外の人前で抱きつかれたら恥ずかしいよね。
「桜、ごめんね。いきなり抱きついて。桜、大丈夫?」
話しかけるもやはり返事がない。どうした?どこか調子が悪いのか?
僕は心配になって桜の顔や体を手で触れて異常がないかを確かめてみる。うん、大丈夫。
「桜?」
桜の瞳を覗いて名前を呼ぶ。顔は益々赤く色づき体温も上がっているようだ。それに心臓の鼓動が僕にまではっきりと聞こえてくる。もしかして・・・何かの病気か!
「お医者様は!この中にお医者様はいらっしゃいませんかー」
桜を抱えておろおろ、あたふた大声で叫ぶ僕の後頭部に「ゴン」と突然結構な強さの衝撃が走る。
「うごッ」
情けない声を出して僕は倒れこんでしまったが、とっさに体を捻って仰向けの体勢を取り、桜が下敷きにならない様に守ることに成功した。結果僕達は抱き合う形に。
「直也様、その子は桜ではありません!ああ、そんなにくっついていないで早く離れて下さい!」
拳を握り締め、上段突きを振りぬいた姿勢の女性が叫び声にも似た悲痛な声を上げている。どうやら衝撃の主は銀髪美人さんの拳の様だ。
殴られた頭を右手で擦っていると、ん?今銀髪美女さんがとても気になる事を言っていたような気がする。そう、
「えっ、この子は桜ではない?」
僕は殴られた以上の衝撃を受けつつ、抱き合っている桜(仮)を見て、思考も体も停止した。
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