英雄帰還2 英雄語り


 1分後再起動に成功。


 銀髪美人が言っていた問題発言


「この子はサクラではなくサクヤ」件について。


 僕の首筋に顔を埋め、重なりあい倒れているサクヤさん?を観察してみる。確かに良く見ると右目の下にあった泣きホクロが無いし、左手の甲のあった火傷の後も・・・ない?すごく良く似ている。けど、別人?


 僕は体中から血の気が引いていくのを感じた。みず知らずの女の子の顔や体をおもいっきり触りまくってしまった。


僕はもしかして・・・痴漢か?


「・・・」


 全身の毛穴という毛穴から汗が冷たい汗が吹き出しガクガクと震えがくる。


 ワザとではないのです。誤解なんです。ああ、罪の意識がハンパない。


 まだ彼女は全身硬直させ倒れた僕の体の上にいる。僕はまずサクヤさんに立ち上がっていただき、汚れた服の汚れと埃を払わせていただくことにした。


「良しと、綺麗になりました」


 それではと、僕は直立不動の体勢から最敬礼し


「誠に、大変申し訳ございませんでした」


 僕は謝罪と同時に膝から崩れ落ちる様な見事な土下座を決めた。


「大変申し訳ありませんでした」


 まずは僕の誠意の形を桜のそっくりさんに伝えなければ。沙汰が下る迄の間、おでこを地面につけたまま謝罪を繰り返す。



「本当に申し訳ありませんでした」


 まだサクヤさんに動きはない。気配からすると立ったまま僕を見下ろしているようだ。一体どのような裁きが待っているのだろうか?

 でも待って欲しい。確かに僕は女性の体をまさぐってしまった。だが、けっして嫌らしい気持ちからでは無く、勘違いからで、いや分かっております。そのような言い訳が通用しないことは分かっております。

 でも、少しだけでも僕の話を聞いていただけたらと思いまして。


 僕は、額を地面に擦りけ、謝罪を続ける。


「僕は高杉直哉と申します。この度は大変ご不快な思いをさせてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした。私に出来る限りの誠意をもった謝罪をさせていただきますので、どうか、どうかお許し下さい」


 どの位の時が過ぎたのでろうか?


 1分?はたまた10分?時間がとんでもなく長く感じる。僕は、温情ある判決が下ることを祈り続ける。

 サクヤさんがついた深い溜息の後、詰問が始まった。


「出来うる限りの謝罪ですか。それは年頃の未婚の女性の体を好きなように抱きしめて蹂躙したことについての謝罪、と言う事で宜しいのですよね?」


「はっ、御言葉に少し語弊があるのではないかな?言い方ってあるよね?と、少しは思うところはありますが、概ねその件についての謝罪と受け取っていただいて宜しいかと私めは考えております」


「そうですか。では清い乙女を汚した責任を取る覚悟は出来ているとの理解で宜しいのですね」


 少し間をおいてサクヤさんは続けた。


「それでは、私と・・・あの・その・えーと、一緒に住ん、で」



 言葉が進むにつれて歯切れが悪く、声も小さくなる。僕は少し頭をあげてサクヤさんの顔を盗み見る。


(サクラではなくサクヤさん)


 顔や雰囲気もやはり似ている。どういうことだろう?


「サクヤ、お前どさくさに紛れて何言おうとしてやがる!」


 銀髪美人さんは少し慌てた様子で騒いでいる。


「今日から、私と、同棲して責任を取って下さい。私に貴方のお世話をさせて下さい!」


「へ?」


 何が起こっているんだ?


 突然女性から告白を通り越して同棲の申し入みを受けるとは。意味は分からないが、まさか、何かのトラップやドッキリか?でも、こんな可愛い女性からそんなこと言われると、実はとても嬉しい。でも僕には恋人がいる。だから彼女の申し出は受けることは出来ない。


「ごめんなさい。本当に申し訳ない事をしました。でも僕には恋人が居ます。ですから貴方と一緒に暮らすことは出来ません」


「直也様」


 銀髪美人さんが凄く悲しそうに僕の名前を呼ぶ。彼女のオーラを知っている。でも、こんな銀髪の美人さんは記憶に無い。誰だっけ、なんかこう、後もう少しでわかりそうなんだけど。と、考えていると僕への激しい非難が聞こえてくる。


「貴様、女がいる身でお嬢様に粉をかけ、弄んだのか!この人でなしめ!私が成敗してやる、そこに直れ!」


「グルオー《殺す》グルオー《殺す》、グルルオー《ぶっ殺す》」


 先ほどから空気を読まないメイドの傍聴人は、どこに持っていたのか刀を抜いているし、やたらと興奮した鳥はギャーギャーと騒ぎ立てている。


「私は心と体を弄ばれて捨てらてしまう、の?」


 外野の言葉に影響を受けた美しい被害者が、こちらをチラチラと見ながら呟く一言が心に刺さる。


「一緒に暮らすことは出来ませんが、それ以外で僕に出来ることは、何でもさせていただきます」


 僕は彼女に再度頭をさげた。そしてその時に僕はサクヤさんの指で白く輝く指輪に気が付いた。あの指輪は桜に送ったの指輪に似ている。いや、あれは本物だ。なんで、あの指輪を彼女が?そういえば、そもそも、ここはどこで、彼女達は何者なのだろうか?


 僕は、アスモデウスと、魔王と戦っていたはずだ?戦いはどうなった?

 分からない、記憶がない。

 戦争は?

 里やみんなは?

 仲間達は?

 桜は何処にいるのだろう?

 

次々と浮かんでくる疑問。僕に一体何があったのだろうか?


 実はさっきから力を使って桜を探しているが、見つからない。いや、厳密に言えば、力はサクヤさんを桜だと言っている。意味が分からない。

 また、同時に悪魔や魔族の反応も探っているが、この近辺には反応はない。あれだけの戦闘があったのに、痕跡すらも見当たらない。 


 里は大きく様変わりをして僕が知る人のオーラは感じない。が、人口はかなり増えて発展している。生命の樹は大きな変わりはないが少し成長をしているようだ。


 力を通して入ってくる情報の量があまりに多すぎて僕は混乱する。いつの間にか、力の感知能力や分析能力、空間の探査、距離などの精度が上がっているみたいで脳の処理が追い付かない。少しずつ情報を処理していく。すると一つの推論に辿り着く。


様々な情報を処理した神の力は教えてくれる。


 「ここは、この世界は、僕の知っている世界では無い」


 呆然とする僕の目に、心配そうにこちらをうかがっている彼女達が映る。彼女達なら何か知っているのではないか?でも、なんて聞けば良いのか。僕は戸惑い混乱して、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。



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