第24話 ええんやで

「アルバイトスタッフの面接希望者?」


「なの。募集はまだしていないのにどういう訳なのか、もう4件の応募があるの」


 何故か朝から喫茶店の壁紙を張る内装工事をさせられていた私は、運命の女神フォルトゥーナことフォルさんからそう報告を受けた。


 開店予定の喫茶店の店舗は割と大きくて、二人用のテーブル席が2つ、4人用のテーブル席が4つ、8人用のテーブル席1つ、カウンター席が5つの計25席を用意している。


 店舗の運営、調理や接客を一人でまわすのには無理があるだろうから当然スタッフの募集は考えていた。


「随分と情報が速いようだけれど一体どこからだい?」


「神材派遣会社のシンディードからなの」


 神材派遣会社シンディード? 最近はそんな会社が存在しているとは凄い時代が来たものだ。神様派遣会社とは。


 私は喫茶店のオーナーとして店の特色と言うか方針と言うかあるアイデアを温めていて、そのアイデアに則ったアルバイトさんの募集を考えていた。

 そう喫茶店言ったらあれしかないだろう。かつて国中のオタクを震撼させたある喫茶店。ブルックリンスタイルの大人な雰囲気の店と見事なほどに調和するであろう。


 その名も、人妻コスプレ喫茶!


「却下なの」


「いや、話は最後まで聞」「「却下、なの」 

 「・・・・・・人妻コ」「これ以上は命のやり取りになるの」


 剣吞な表情でペティーナイフを拭き拭きしているフォルさんを見ると何も言えなくなってしまう。


「そもそも、私は未亡人お母さんでも子持ちの人妻でも初めての先輩妻でも社長夫人妻ないの。私は女神様なの」プンプン。


 どうしてかはわからないが、コスプレ喫茶2のネタは知っているらしい。口惜しいがもはや人妻コスプレ喫茶が叶うことは無いだろう。私はスマホを手に取り電話をかける。


 伊勢君かい?今日の夜は暇?・・・いやね少しだけ辛いことがあってさ、話したいことがあるんだ。・・・もし良かったら少し飲みにいかないかい?・・・そう、君のおごりで。


 今日は少し強く飲んでしまいそうだ。そうだ万が一の保険を考えて出雲さんも呼んでおこう。私は再度スマホを手に取るとフォルさんの目を盗んでこっそりと電話した。




 気持ちを切り変えて、本日の飲み会を楽しみにしながら内装工事に精をだす。


 ふんふん、ふふーん。おっと、いけない鼻歌を歌ってしまった。


「随分楽しそうですね、なの。何か良い事でもあったのですか、なの」


 いや、特に何もないよ。今夜少しだけ伊勢君と出雲さんとでお店の打ち合わせがある位かな?



 冷静に平静を装いキッチンで作業をしているフォルさんに告げる。



「そうですか、なの。そういうことなら私もご一緒したいです、の」 


 ん?フォルさんも一緒に?しかし今日はメイドコンパニオンのガーターベルトの必要性について考察討論会をするために、某歓楽街に社会科見学に連れて行ってもらう予定になっている。


 なんでもそこは出雲さんの知り合いが経営する人気のお店で一見さんお断りの会員制らしい。今日は無理を言って貸し切りにしてもらったそうだ。


 さてと、どうしたものか。言っておくが私にはやましい気持ちや邪な気持ちなどは微塵もない。興味故、探究心故の社会科見学。


「きょうはちょっとむりかな。すこし3にんでこみいったはなしもあるし」


「いえ、お構いなく、私は空気。なんの邪魔もいたさないの」


 いやしかし、相手もある事だから、


「いえいえ、お構いなく。コスプレメイドさんのガーターベルトも好きだけ見ていても構いませんの。私はただの空気で、そこに私はいないの」


 伊勢君、出雲君、情報が漏洩しているぞ。駄々洩れだぞ。一体どうなっているんだ。チミ達の情報漏洩の危機管理対策は!これは、チミ達の責任だからな!


 私は自己の弁護を試みる。


 それは、出雲君がどうしてもっていうからね、彼のせっかくの気持ちを無下にする訳にもいかずにね。私は本当は全く興味がなくて少し困っていたのだよ。



「フーン」


 疑惑の目を向けられて私は思わず目を背けてしまう。


「其処に座って欲しいの」


 私は妻に浮気を問い詰められているような錯覚を覚えながら、「はい」と素直に応じてカウンターの椅子に座る。私が何故か自然にビクビクとテーブルを見ながら震えていると、


「これでも食べながら全部正直にゲロしてしまえ、なの」


 フォルさんがカツ丼を私の前に出した。いつもよりも優しい口調で話しかけられる。これは、まさか!


「もう、嘘はやめて正直になれ、なの。田舎のお母ちゃんがないているぞ、なの」


 フォルさんは遠くを見るような目をしながら天井を眺めて歌いだす。


「かあさんが、夜なべをして、手袋あんでくれた」


 フォルさんは童謡かあさんの歌を歌い出す。私は童謡で動揺。自然にカツ丼に手がのびた。


「・・・はい、私が行きたいとお願いしました。私がやりました」


 私は母ちゃん、と泣きながらカツ丼を食べる。


「良く正直に言ってくれた、なの」


 私は自分の罪を自供しフォルさんに頭を下げる。


「すいませんでした」


「もう、ええんやで」


 私がフォルさんに謝罪をすると一枚のチラシを渡される。


 〇×ホテル 幸運の高級お料理食べ放題。一夜限りの無制限一本勝負77,777円。

 私は黙って自分の財布をそのままフォルさんに手渡した。






































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