第22話 運命の女神フォルトゥーナ

 伊勢君の実家から戻って来て3日ほど経ったある日、出張中に撮りためていたアニメの研究動画を拳を握りしめ、腕を振り回し、歌い舞いながら見ていた私の下に、出雲さんと一人の女性が訪ねて来た。


 今回のこの二人の訪問は私のオタ王への道に、非常にかつ重大な関係をしてくる上、今後の生活の要となる極重大事項「不労収入」についての件だ。

 察するに彼女が兼ねてより報告があった従業員ということなのだろう。


  出雲さんに同行をしてきた女性、と言うか容姿も背丈も見た目は思いっきり十代の全般の幼さが残る可愛い美少女。将来は間違いなく美人さんになるだろう。

 綺麗で整った目鼻立ち。金色に輝く神秘的な瞳と、薄桃色のみずみずしい小さな唇は見る者を引きつる。長い絹の様な金髪を頭の後ろでお団子ヘアにしている姿も、私的にはなかなかにポイントが高い。


 

 私は二人を研究所一階の喫茶店の店舗へ案内し、中にあるテーブル席へ座ってもらう。


今日の私はとても機嫌が良い。


 不労収入。素晴らしい響き!


  出雲さん達には特別にサービスをしてやろう。あの伊勢君がお見舞いに来た時でさえ、パックの麦茶しか出すことのなかった私が、今回は何と、何と、薄塩のポテチビックサイズを一人一袋とコーラの2ℓペットボトルを一人一本とかなりの大盤振る舞いだ。


 

 上機嫌の私と裏腹に、何を言われてここに来たのかは知らないが、彼女は可愛いお顔を真っ青にして背筋を伸ばしたまま固まっていてる。

 

 私は思わずポテチとコーラをのせたお盆を固まっている彼女の頭の上にのせてみる。


  おお、成功だ。なんという安心安定感。


  固まったまま微動だにしない。もしかしたら、頭の上にお盆がのせられたことにすら気が付いていない可能性もある。


 この子もなかなかに良い物を持っているな。


  私はそっとお盆を頭から降ろしながら席につく。私が視界に入ったのだろう。彼女はビクッと椅子の座ったまま大きく震えると、少し濡れた上目遣いの不安げな瞳で下から見上げる様な仕草で、私を見つめてまた固まった。


 ビビビ! 私はその可愛らしい上目遣いの仕草に雷に打たれたような電流が走った。これがうわさに聞くあざと可愛いと言うやつなのか?


 アニメであれラノベであれゲームであれ、ほぼ全ての媒体のどのジャンルにも一人は登場するであろう、あざと可愛い年下キャラ。

 そのリアル版がが今私の眼の前に!リアルがここにいらっしゃる。取り敢えず拝んでおこう。


  合掌! ありがたや、ありがたや。


 

で、出雲さん。彼女で間違いないのかな?


  出雲さんは、はいと頷くと固まっている彼女へ自己紹介をするように促した。


 「ひゃい、うと、えーと、ローマの方から来ましたフォルトゥーナなの、と申します。この星では運命の女神をやっているの、・・・やらせていただいております」


  ほう、語尾がなの、ときたか。なるほどなるほど興味深い。でも何で運命の女神が喫茶店の従業員をやることになったのだろうか?


 「はい、私もまったくやる気は無かったの。でも地球一天界生け贄ジャンケン決定大会でビリに、ウグ、ウガガ」


  ん?じゃんけん?地球一天界生け贄決定大会?なんかワクワクソワソワするような名前の大会があった様だけども、彼女は大会の敗者で生け贄?

 彼女は出雲さんに口をふさがれ暴れている。もしかして何かの虐めか罰ゲームでここに?出雲さんどう言うことかな。まさか嫌がる彼女を無理やりに?


 私は出雲さん問いただす。


 「あわわ、そそそっ、そんな訳はないの。私は自ら志願して犠牲、じゃなかった。私がやりたくてお願いしてきたのォ!なんか、文句でもあるのぉう!ムガムガ」


  出雲さんが目にも止まらぬスピードでフォルトゥーナの口を今度は割りと乱暴にふさぐ。


  一人で自爆してテンパって切れ、ぞんざいな扱いを他者から受けるか。


 ふふ、彼女は合格だな。やはり良い物を持っている。


  では、具体的にいつから私の不労収入を、いやいや喫茶店を始める予定なんだい?


  ほう、宜しければ、今日から準備を始めたいと。私は全然構わないが?フォルトゥーナさんは?


 「出来ればもう少し覚悟を決める時間が欲しウゴガゴガゴガ!」


  見ていて飽きない安心安定の天丼突っ込み。彼女は強めに出雲さんに口をふさがれながら、耳元で何かを言われて大人しくなる。


 「私も今日から働かせて欲しいの、です!」


  何かを吹っ切る様に叫ぶと何かを無くした様に、まるで糸が切れた人形のように脱力してテーブルに突っ伏した。


 まるで屍のように。


  私は出雲さんに目配せをする。彼女は大丈夫なのか?と。


  出雲さんは大丈夫だと言わんばかりに、大きく頷いた。


  ならばよし、暫くはそっとしておこうか。きっと急な環境の変化に戸惑い疲れているのだろう。

 私は出雲さんをコスプレ喫茶店イケメ・ンラ・ブリンでご飯を食べなから打ち合わせをしようと昼食に誘いと二人で席を立つ。

 一応フォルトゥーナさんにも声をかけてみるが返事がない。ただの屍みたいだ。


 

 私は好感が持てる面白キャラ、フォルトゥーナさんとの、今後の生活を密かに楽しみにしながら、ある種の予感めいたものを感じていた。


 


  


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