第21話 それぞれの明日へ

 伊勢子は僕の前で喜びの舞いを舞っている。楽しそうに嬉しそうに面白そうに。伊勢君の心を表すように、空は雲一つなく慣れ渡り、優しい陽の光が世界を包んでいる。


 伊勢子に男の娘のスノオ、闇のつくよんに肉食系のウズメ嬢。何故だろうか、ステージの上のみんなは争うようにセンターを取り合う白熱したダンスバトルを展開して私にアピールをしてきているような気がする。少し性的な。


 可愛いさとフレッシュと闇落ちと肉欲が飽和する舞台から私を熱い視線で見られても困る。そんなに見られたら私に穴があいてしまうではないか。


それに私の魔法はもう解けてい待っている。今の私はもう只の一人のオタ。監督でもPでもない。だから二次元以外に興味は・・・無い。


喫茶店からこっち、伊勢君はずいぶんと悩んでいたのう。


 高天原会長という立場と、知ってしまった新しい自分心の奥底から湧き出る衝動と欲求との狭間で。


 さぞ苦かったことだろう。


 さぞ辛かったことだろう。


・・・率先垂範、自ら模範となり品行方正、身を律して体現する会長という立場。


 まさか社員達に女装趣味のナルなどとカミングアウトすることは出来ない。私がもっと早くこの事に気が付いていて上げることが出来ていればと思うと!



 気が付いていれば?


 気が付いていたとすると?


 気が付いていたとしても?



 なかなかに、別にどうでも良い事だったな。


 まあでも今回は依頼に会った伊勢君を岩戸から引きずり出す事も達成したし、個人的にはとても良い経験をさせて貰うことが出来た。



 今回の主役は伊勢君と弟のスノオ。二人とも蛹から蝶に生まれ変わかるがごとく、イケメンから美少女へと、そして武神から男の娘へのジョブチェンジしてしまうという奇跡の瞬間に立ち会うことが出来た。


 その他にも、闇のつくよんと高天原の肉食ウズメ嬢は今回のことでアイドルの歌と舞いに非常に強い興味を持ち、二人でユニットを組んで活動を続けるとか続けないとか?



 みんなの今後の活躍が楽しみだ。(棒読み)


 さて、私もやっとこれで住み慣れた我が研究所へ帰ることが出来るな。


 いや大変だった、大変だった。ここに来るまでも来てからも、あまりに問題が大き過ぎてとても大変だったよ。


 でも何とか無事に君からの依頼を、しかも最高の形で達成して期待に答えることが出来た訳だし、私も方も期待しても良いのだろう、



 ねえ、出雲君!!



 いやね、私も下世話な話などしたくはないんだよ。でもね、生きるためにはどうしても先立つものが必要な訳だよ。


 プラモ買ったり、ブルーレイ買ったり、漫画や小説もしかりだ、その上最近では付き合いでコスプレや握手会や写真撮影会なんかにも顔を出さなければならないからね。



 この依頼ではかなりの日数を拘束されてしまったからね、私もそこそこ忙しい身だから帰ったら直ぐにでもあちらこちらに挨拶に行かなければならない訳なんだけど。


それには、まあなんと言うか、ねえ、・・・ほら、君も分かるだろう、色々と必要なんだよ。


 ああ、違う違う。勘違いしないでくれたまえ。私は別にそんないくらなんて言う気はないよ。


 そうだな、しいて言うならば、気持ちかな?出雲君、君達の気持ちを感じることが出来れば良いんだよ。


ああ、楽しみだな。君達の気持ち。そう言えば前に、気持ちを別な言葉で言っていた人がいたな。何だっけか。確かそう、誠意だ。誠意。ゴホンッ、あーえー、喉の調子は良いな。



それでは、「誠意って何かな?」ってやつな。



・・・・・・!?



 ほうほう、何か悪いね。こんなに貰っちゃて。十分だよ十分。確かに君の気持ち受け取ったよ。


 これだけあれば、パーフェクトグレードが20個は買えてしまうじゃないかな。


 また、何かあったらよろしく頼むよ。出雲君。えっ、何だってまだ報酬があるって。いや悪いね気を使わせてしまって。


 前に話をした喫茶店の件で進展があった?従業員がついに決まった?そうなんだ。少し面倒くさいな喫茶店・・・。


 ん、人件費や仕入、諸経費は高天原で全部持つ?なに!税金もだと!売り上げは全部自由に?不労収入?詳しく話を聞こうじゃないか!出雲さん!


 ・・・・・・。


 つまりは私は王になる。そう言うことだね伊勢さん。オタの神髄その道を働かずに歩くことを許されたオタ王に。


 やっと来たか。いつ来るのだろうといつ迄待ってもなかなか来なくて、半ば諦めていた働かずして勝つ夢ルート。


 私の財布はいつもいつも北風に吹かれ寒かった。もう寒いのなんのって。そんな侘しい生活が漸く幕を閉じ、不労収入と言う名の世界の夜明けがやって来る。


 アザッス出雲さん。これからもどうぞ宜しくお願ッス。


 私は感謝の気持ちを込めて、伊勢君の遠縁にあたり、伊勢君の部下である出雲さんに深い感謝を込めた礼をした。




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