第20話 目覚める伊勢くんの性癖
天をあまねく照らす光であれ、民を導く陽光であれ。
私は長い時間をそう過ごしてきた。私の弟妹や柱達も自身の使命を持ち、私と同じよう皆役目を果たしてきた。
あの方が現れたのは青天の霹靂だった。なんの前触れも無く現れたのは、この星に存在するすべての柱を超越した宇宙そのもの。遥か彼方昔にお逢いしたことがある最古の柱。
そのような方が私が預かる国に現れたのだ。私はすぐにあの方の元に馳せ参じた。あの方はこの星で生まれたある文化に興味を持ち、学ぶために降臨されたとのことだった。
あの方は暫くは人の身でこの地で過ごされると言う。その間は私がお世話をさせていただくことになった。
私はその頃からあの方に習い、人間界に向かう時は人の身に身をやつすようになっていた。
人の身は私の精神、身体に大きな変化をもたらす。人と同じ感情が私の心を乱し、身体は痛みや空腹を覚える。
あの方が御身体を傷められたと聞き見舞いの拝謁をしに、ご自宅へ伺った時だっただろうか。あの方の怪我は既に回復しており、持参した土産の礼とのことで私を昼食に誘って下さった。
私はあの方と御一緒することで極度の緊張をしてしまい、あの日の道中のことは余り覚えていない。
あの方に誘われるがままに、私はメイド達が多く働くという喫茶店に行くことになった。喫茶店はコスプレ喫茶という名で、あの方が研究対象とされている文化の一つで、既に何度か来られた経験があるそうだ。
料理を待つ間に様々なお話を拝聴させていただいた。話を拝聴しながら、私は店のサービスで出された酒を飲んだ。緊張をほぐすためにだ。
あの方は酒の飲み方など色々指南して下さった気がするが、正直よく覚えてはいない。その後も酒を飲み続けたらしい私は、どうやら飲み過ぎで寝てしまったようだった。
ご迷惑を掛けてしまったのであろう、私はあの方にコスプレ喫茶に捨て置かれてしまった。
私が目を覚ますとあの方の姿は無く、変わりに大勢の女人に囲まれて着替えをさせらていた。
リーダーメイドと名乗る女人は私に向かいこう言った。
「貴方は千年に一度の逸材だ。一目見た時から、その類い稀なる美貌や隠しても隠しきれない他と格別した資質には気が付いていたが、まさかこれ程のものとは」
私は一体何を言っているかが分からなかったが、私を囲う女人達が皆息を飲んで、いや呼吸をすることすら忘れ、熱を帯びた熱い瞳で、私に穴が空いてしまいそうになる程に見詰めている。
私は自分の姿を、着ている衣装を見る。
黒を基調とした釣り鐘型に膨らんだミニスカートのメイド服にボーダーのニーソックスを履いている。頭に違和感を覚えて触れてみる。これはカチューシャリボンであろうか。髪の毛も綺麗に梳かされているようだ。
私はメイドリーダーに鏡をを要求した。
今私には、何が起きているのか?!確かめずにはいられない。
私は鏡を受け取るために手を伸ばすと、綺麗に整えられて美しい艶を放つローズピンク色のネイルが目に入る。
私は震える手で、なんとか鏡を受け取ると、ゴクリと思わず唾を飲み込んでさしまう。
私は恐る恐る鏡を覗いた。
そこには、三千世界いや太陽系?いや銀河一の美貌をもった気高く、輝く太陽を体現するかのようなビーナスが写っていた。
私の心臓の鼓動は、最高級の大鼓の音色の如く高鳴り、身体は感動と感激で震えが止まらない。心も身体も私の全てが一瞬でビーナスに奪われ虜となった。
私は愛の牢獄に囚われた。いつまでも、その美しい姿を・・・見ていたい。
そう思えた。
私はまじまじと鏡を見詰め、あることに、気付いた。
鏡に写るビーナスが私と同じメイド服をお召しになっていることに。
私と鏡の間には誰も居ないことに。
メイド達は私しか見ていないことに。
私は気付いてしまった。
鏡に写るビーナスは私であることに。
私の女装は私の理想で、宇宙一美しいということに。
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