第19話 天の岩戸大作戦
私は今決戦の場、伊勢君の実家の居間にある押し入れの襖の前に立っていた。
そこは今回の作戦のために舞台セットが作られており、私の隣にはこの3日間苦楽を共にした戦友達がフードのついたローブで全身を隠して控えている。
みんな今回の岩戸作戦の成功には並々ならぬやる気と意気込みを見せている。
では早速今回の作戦のメンバーを紹介しよう。
まず一人目のメンバーは今回の作戦の確保対象である伊勢君の弟でセンターを務めるスノオ。今回の作戦の鍵となる重要なお役目を担っている。兄弟想いの彼は兄の為なら止む無しと、過去のしがらみ(キャラ)を捨て去って新しい自分を見つけることに成功、大幅な肉体の改造にも取り組んだ。
二人目はチームキャプテンを努める伊勢君の妹ダークネス・つくよん。その名の通り闇の属性を持つ者だ。彼女は幼い頃、世界の深淵の底闇に潜む魔物に感情を奪われた悲しき光の巫女との設定だそうだ。面白そうだからと言う理由で自ら作戦に志願して参加することになった。彼女が加わったことにより作戦の幅と厚みが増しは高まったと言えるであろう。
三人目はダンサーのアメノウズメ嬢。前回の屈辱を晴らすため自分磨きに励んでいるところにオファーを出した。彼女からはリベンジのチャンスということで快諾を得ることが出来た。今回は今までの彼女のお色気うっふん路線を捨てての参戦となるため、メンバーの中では一番緊張をしている事だろう。
四人目は私のアシスタント兼音響担当の出雲さん。彼の任務は物資の調達と会場の設営と運営、作戦記録の収集及び対象の確保だ。
五人目最後のメンバーは岩戸作戦の立案し、脚本、構成、演出、振付指導を担当した私。彗星のごとく現れ綺羅星よりも数段輝いている探究者で、オタスターへの険しい道を傷だらけの姿で歩き続けている。
いよいよ本番の時だ!
最終の確認を済ませたスノウ、つくよん・嬢のユニットメンバーは出雲さんが拵えたプロ顔負けのセットの中央に立って息を整えている。
さあ、みんないくぞ!ショウタイムだ!
私の合図と共に出雲さんが照明に火を入れ舞台に立つメンバーを煌々と照らし出す。3人のメンバー達は次々と着ているローブを脱ぎ捨てた。
そこに現れたのは高校の水泳の授業を終えたばかりJKスクール水着の美少女達が更衣室で戯れているという設定。
カタカタ。押し入れから音が聞こえた。どうやら伊勢君の興味を引くことは出来たみたいだ。
「今日の授業はマジ辛かったんですけど。25mを5本なんてマジ有り得ないんですけど?」
と黒く日焼けをしたJKに扮する嬢。
「うちらあすりーとではないっていうのに」 棒読み大根役者の闇の巫女つくよん。
「そう?僕は結構楽しかったよ!」
努力の肉体改造の結果、体が二回り以上も小さくなって童顔ショタの男の娘に生まれ変わったスノオ。
ガタンガタンガタン。 スウ。 ジー。押し入れの中から結構な音が聞こえた後に襖が少し開く。そこには驚きの瞳がスノオをじっと見つめている。
「あんたマジいつも元気良いよね、うちはもうクタクタだし」
「わたしもつかれたかえりになんかあまいものたべにいこうよ」
「サンセ―!僕はパフェが食べたいな!」
「パフェか。じゃあ駅前に新しくできた店に行ってみよう」
「わたしはぱんけいきがたべたいな」
三人は楽しそうに話をしながら着替えをしていく。
嬢は必要以上に胸や腰を振りながら、つくよんは動きに全く無駄がなく、スノオは元気一杯な大きな動きで着替えていく。水着を脱いで下着を身に付け、かわいいておしゃれなJKブレザーの制服を身に付ける。
ガタガタガタガタ、カリカリカリカリ。バタンバタン。ジー。
押し入れの中で伊勢君が興奮しているのがビンビンと伝わってくる。
伊勢君は完全に食いついた!いいぞ、三人とも。
三人は着替えを終えておしゃれブレザーJK制服姿で、顔に薄く化粧をしてから更衣室の外へ出る。
更衣室のステージから出たブレザーJK三人組は伊勢家居間にある特設のステージの上に立つ。伊勢君がいる押し入れがちょうど最前列のアリーナ席の位置になる様になっている。
打ち合わせ通りに明るいポップな音楽が流れ始める。ちなみに作詞作曲は私です。三人はK‐POPのガールズグループを思わせる歌をいながらダンスを舞う。
嬢は少し胸元を開いて妖艶な雰囲気を出しながらポロリ必死のあざとかわいい舞いを。
闇の巫女つくよんは闇の力に操られている設定のようで、苦しい表情を浮かべつつキレッキレな舞いを。
僕っ子男の娘のスノオは溢れる元気を体中に漲らせて、スパッツを下に履いたスカートを振り乱しながら大きくてダイナミックな動きの舞を。
三者三様、小さなステージの上で楽しそうに歌い舞っている。歌の物語が終盤に近付く頃にはもう半分襖を開けた伊勢君が制服姿で舞う三人をかぶりついて見つめている。口元を見るとどうやら歌を口ずさんでいるようだ。
確保しますか? 出雲さんが目で言ってくる。
いや、待て。今から追い込みをかける!
やがて曲のサビが訪れる
自分を偽る必要はないんだ。
もう自分に素直に生けていけばいいんだ。
誰に何を言われようとも、時には人に迷惑を掛けようとも
その思いが本気であるのなら、必ずみんなは理解してくれる
歌が続いている中、私は満を持してステージの上に上がり伊勢君に尋ねる。
・・・伊勢君、君ももう自分に素直になったらどうだ?
そう言うと私は伊勢君がいる押し入れの中にみんなと同じ衣装を投げ入れる。伊勢君はその衣装を見て、驚きの視線を私に送ってくる。
忘れられないのだろう。もう良いんだ、・・・考えるな、感じるんだ。そして新しい自分を受け入れるんだ。
私が視線を誘導する先には、新しい自分を手に入れたスノオが伊勢くんに手を伸ばして歌い舞っている。
・・・お姉ちゃん、とスノオが呟く。
伊勢君は泣いていた。彼は泣きながら勢いよく襖を閉めると中でごそごそと衣装に着替えだす。
・・・そうだ、それで良いんだ。
私は伊勢君の勇気に心からの祝福を送る。
スドーンと、蹴り倒された襖から現れたのは、おしゃれなJKブレザーの制服をうまく着崩した長身のJK美少女、伊勢子だった。
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