第16話 神様 可能性を感じる
ギャラリーが最敬礼する中を淡々と歩き、少し居心地が悪くなってきた頃に私はようやく屋敷へ到着する。私が玄関の前に着くと、二人の男女が出迎えてくれた。伊勢くんのお弟と妹で結社、高天原の専務と相談役を務めているとのことだ。
先ず目に入ったのは、金髪のやたらと気合が入っている背が高いヤンキー専務。彼は興味深い。私はそう思った。私の目に間違いがなければ、頭にねじり鉢巻きをして、真っ白な特攻服を着て身に着け背中にはあめのはばきり剣と、かたかなで書いてある剥き出しの長剣をしょっている。白い指ぬきの手袋をしているところも中々に良い。彼はこちら側の所属員だろうが、どうにも迷走していて自分のキャラのビジョンが見えていないのだろう。これは私の役目だ、彼をプロデュースしなければならない。
次に若い綺麗な相談役の女性だ。黒髪が美しい大和撫子で、これまた真っ黒な着物を身に着けている。よく着物を見ると、それは黒よりも深い深淵の闇のようだ。彼女は、まるでお伽話から抜け出してきたかのような美貌を持っているが、まったく表情がない。感情が抜け落ちてしまってるかのようだ。これもこれで王道をいくキャラであるのは勉強して知っているはいるが、いざ対面するとかなりの強キャラだ。
ヤンキー専務が言う。
「あんたが先公か、俺はスノー。ウインター・スノーだ。さっきのは見てたぜ、お前先公のくせに、結構やるじゃねえか!おもしれえ、俺と勝負しろ!お前が勝ったらいうことを聞いてやる」
黒髪相談役が言う。
「月よん(つくよん)」と、ただ一言。おそらく自分の名前なのだろう。彼女に対する評価も少し上方修正が必要のようだ。彼女も思ったより深い。
いつの世も素質がある、将来性を感じる若者との出会いは良い。私もうれしいが、今日は残念だがもうお別れの時間だ。ここに来るまでに酔っぱらいのせいで少し予定よりも時間が掛かってしまった。まぁ、おかげでよいフィギア数体を手に入れることが出来そうなので良いのだが。
おおっと、もうすぐ深夜アニメが始まる時間だ。見逃すわけにはいかない。
二人には詳しいことは明日にと言い残して、テレビのある和室の居間に案内をしてもらう。前評判で、今回は神回になりそうだと噂されているで、決して見逃すことはできない。
今からアニメが終わるまでの間、一切の立ち入りを禁じる!
私は、よそ様の自宅で強く言い放つ。これだけは譲れない、正直伊勢くんのことより重大な案件だ。
ポチっとな、リモコンを操作しスイッチオン。
テレビをつけるとキャラクターの子たちが歌う元気な曲が流れる。オープニングを聞いただけで私の意志の領域は、かのアニメに世界に旅立っている。意識の中で、もうステージの下に立ち(リアルではテレビの前)、舞いながら彼女達と一緒に歌を熱唱している私は、居間の奥にある岩戸と書かれた半紙が貼ってある押し入れの戸が、少し開き、こちらを恨めしそうに見る目があったことに気が付くことが出来なかった。
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