第73話 ファーヴニル死す……?

 ファーヴニルが倒れた直後、静寂感が増した。

 俺を含めて、誰も喋る事も動く事も叶わなかった。


『やった……やったよ悠二クン!!』


 その中で最初に口を出したのが、フェーミナの中にいる光さんだった。

 そこから時が動いたかのように、アメミットの上にいる舞さんも明るい顔を浮かべた。


「やっと倒したね、悠二君!!」


「……うん、何とかコイツを……」


 舞さん達からファーヴニルの死体に向いた時、周りの森が燃えている事に気付いた。

 やりすぎた……このままでは火事になってしまう。


「まずいな……舞さん、『口から水を出す』とかそういう……」


「任せて下さい」


「フェーミナ?」


 フェーミナが燃え上がる森の真ん中に立った後、右手を掲げる。

 

 その開いた手をガッと掴む動作をすると、何と火事が一瞬にして鎮火した。

 ただ手を握っただけなのに、火を消せたという事は。


「念力か何かか?」


「ええ。火事程度なら問題ないのですが、怪獣相手には質量などで使えません」


 某光の巨人も念力が使えたのだから、彼女が使えてもおかしくないか。


 ただてっきり、指から水流を出すのかと思っていた。

 水流を出すフェーミナを想像して、思わず腹筋崩壊しそうになる自分。


「……今すごく失礼な事を考えてませんでしたか?」


「いえ、誓って考えてません」


 ここで本当の事を言ったら、ゴミを見るような目をされるだろうな。


 戦いが終わった事で、俺達は人間の姿に戻り、アメミットも姿を消した。

 また樹木や地面に纏わりついていた流体金属が、ボロボロと落ちて消滅する。これで森が元通りになった訳だ。


「森の影響も問題ないですね。そろそろ別荘に戻りましょう」


「そうですね。悠二君、今回の戦闘も……悠二君?」


 フェーミナと舞さんが話し合っている間、俺はあるものを見ていた。


 それは森に転がるファーヴニルの死体だ。ちゃんと死んでいるのか、瞳孔の赤い光は消えている模様。


「どうしたの、悠二クン?」


「……アイツ、何で溶けないんだろう。怪獣は死んだら黒いドロドロになるはずだけど」


「……あっ」


 俺は不思議に思っていた。怪獣は死んだらドロドロに溶けて消えるはずだ。

 なのに……何故かファーヴニルの死体は、溶ける事もなくそのまま残っていたのだ。



 ********************************



 妙だったので、しばらくファーヴニルを観察する事にした。

 それで数分経ったのだが、溶ける事もなければ急に起き上がる事もなかった。まさにうんともすんともしない。


 これ以上は無駄だと思い、俺達は諦めて波留ちゃん達のところへと戻った。


「悠二さん……!」


 別荘に到着するなり、安堵の表情を浮かべた波留ちゃんが駆け寄ってきた。


 しかも涙目になって、アラクネ事件みたく俺の身体へと寄りかかる。

 舞さん達は笑ってくれたからいいものの、人間態になったフェーミナからは白い目で見られたものだ。


 ちなみに別荘を守っていた玲央ちゃんが言うには、特に怪人の襲撃は起きなかったそう。

 樹に纏わりついた流体金属を見ていないという事なので、どうも別荘までには浸食が届かなかったのだと思う。なので金属で出来た触手にも襲われなかったのだろう。


 こうしてファーヴニル戦が終え、俺達は床に就いた。

 就いた……のだが、俺はまだファーヴニルに対して腑に落ちていなかった。

 

 奴は怪人などを操る司令塔のような存在で、相応の強さを持っている。

 現に先の戦いではかなり苦戦した方だ。

 

 ただあれで、本当に『終わった』のだろうか。

 強さの割にはあっさりとしていたし、何より死体も残っている。これは絶対に何かありますと言っているようなものだ。


 結局、そんな疑問によって熟睡はあまり出来ず、朝を迎えてしまった。


 眠いは眠いが、俺はもう一回確かめようと動く事となった。


 俺は光の叔父さんと同じ部屋にいる。

 彼が起きないようそっと服を着替え、そしてそっと外へと出る。


 あれだけ不気味だった夜の時は一変、今の森は朝日によって明るい印象になっていた。

 すぐにファーヴニルの死体へと向かおうとした……時、後ろに誰かがいた気がしたのですぐ振り返った。


「おはよ、ユウ君」


「玲央ちゃんか……おはよう」


 彼女が早起きするのは意外だった。

 ただ目にクマがあるので、これはそういう事だな。


「夜更かししてた?」


「うん、布団の中でガチャやりまくってた。んで、推しが引けた」


「それはよかったね。……それで何で俺の元に?」


「実はフェーミナさんに付いて行けって頼まれた。光さんが起きていないから一緒に行けないので、今起きているあなたにお願いしたいって」


 玲央ちゃんが親指で別荘を示した。

 見上げると、フェーミナが窓からこちらを覗いている。すぐに離れてしまったのだが。


「そっか、光さんがいないと変身できないもんな……」


「だから、すぐにマレキウムに変身できる私に白羽の矢が立った訳。個人的にはファーヴニってのがどんな奴なのか、見に行きたいってのもあるけどね」


「そんな面白いものでもないけどさ。とりあえず行こうか」


「うい」


 よくよく考えれば、1人で行くより2人が色々と対策は出来るだろう。それに玲央ちゃんは戦闘も出来る。

 何も起こらないでほしいと祈るがまま、俺達は森の中へと突き進んだ。

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