第72話 ソドムチームVSファーヴニル

『あやつ……どうも自分が垂れ流した液体金属で、勢力を広げているようですね』


 目玉の様子を見たフェーミナが憎々しげに唸る。


 俺は垂れ流し中の目玉に向けて、右手を掲げた。

 あくまで牽制射撃のつもりなので、当たったらめっけものだ。その手のひらから≪暴龍雷撃≫を放つ。


『……!』


 目玉がそれに気付き、宙へと舞った。


 やっぱり当たらなかったか。

 ただ液体金属の垂れ流しをやめたので、プラスにはなっている……はず。


「こちらから来てやったぞ。化け物め」


 隠れても意味はないので、自ら姿を現すようにした。

 相変わらず機械目玉は、その無機質な視線を向けてくる。


『貴様達が来る事はすでに知っていた。広範囲に浸食した我が流体金属は、貴様らの動きを察知できる』


『という事は、目の前に瞬間移動しても変わりはなかったですね』

 

 皮肉を口にするフェーミナ。

 とりあえず俺らがする事はただ一つ。


「お前をぶっ潰す。命乞いなんて聞かないからな」


『その通り。あなたは生かしてはおけない……光』


「うん。フェーミナ!」


 俺と光さんがそれぞれソドムとフェーミナに変身した。


 機械目玉は俺達を見上げたかと思えば、瞳孔代わりの赤い光を歪めた。

 まるで笑っているかのように。


『興味深い観察対象が2体も……。貴様らをサンプルにして、この世界への侵攻の糧にさせてもらう……』


 声もどこか笑っているように思えた、その時。


 目玉を中心に流体金属が広がっていった。

 目玉を包み込みながら巨大化して、形を変えて、そうしてソイツの正体らしき姿が露わになる。


 ――グオオオオオオオオオオオ!!!


 2本角と背ビレ、長い尻尾を生やした2足歩行……俺と同じオーソドックススタイルだ。

 

 俺と違うのは、全身が銀色の装甲に包まれている事。

 本来あるべき瞳孔は黒くぽっかり空いていて、そこから鬼火のような紅い光を灯している。仮の姿の目玉形態と全く一緒だ。


 身長は俺達よりも一回り大きい。

 俺が30メートルだから、奴は50メートル辺り。その巨体からの『圧』は、今までの怪獣とは比べものにはならないくらい強かった。


「さながらロボット怪獣な見た目ですね……」


「ああ。舞さん、こいつの名前何にする?」


 どうせここで終わる身だ。名前くらいは付けておこう。

 後方に待機している舞さんはしばし黙っていたが、


『……「ファーヴニル」。北欧神話に伝わる鋼の鱗を持った龍。ピッタリでしょ?』


 なるほど、確かにロボットじみた奴に相応しい。


「ファーヴニル……覚悟しろ!!」


 俺は雄たけびを上げ、ファーヴニルと名付けられた怪獣へと接近した。

 ただ、ある事に気付いてすぐにジャンプ。予想通り、地面から金属質の鋭い棘が飛び出たのだ。


 そのまま走っていたら間違いなく串刺しにされていた。


 冷やりとした感触を覚えながらも、俺はファーヴニルの頭部に飛び移る。

 コイツが知性的なら、その脳味噌を潰すまで。


「グオオオオン!!」


 尻尾を倍以上に伸ばす≪ロングテイル≫。それでファーヴニルの頭部へと何度も突き刺す。

 突き刺すたびに頭部の破片が飛び散った。


『調子に乗るな……下等生物!!』


 ファーヴニルの長い尻尾が迫ってきた。先端には剣のような突起物が付いている。

 これにはさすがに飛び降りるしかなかった。その同時にフェーミナがファーヴニルの懐に入り、右手を光らす。


「≪アルマカノン≫!!」


 土手っ腹へと必殺技を叩き付けた。


 轟音と共にぐらつくファーヴニル。

 しかしどういう事か、まるでダメージと気にしていないと言わんばかりに腕を振るう。


「グッ!!」


 フェーミナはその攻撃に対し防御したが、地面をすりながら後ろへと下がってしまった。


 これは驚いた。

 明らかに≪アルマカノン≫の直撃を喰らったはずなのに、腹は軽く抉られているだけだった。何という防御力。


 この怪獣は今までの奴らとは違うようだ。今までのが中ボスなら、奴は大ボス。


『下等生物の分際が……』


 ファーヴニルが怨嗟の声を出した瞬間、俺達の周りに金属の触手が這い出る。

 すかさず俺は一回転しながら≪サルファーブレス≫を放射。周りの触手を焼き切っていき、さらにその流れでファーヴニルへと放った。


 ――ガギン!!


≪サルファーブレス≫が弾かれてしまい、近くの森へと当たってしまう。

 爆ぜる樹木。燃え上がるそれを、俺は呆けて見つめてしまった。


「なるほど、あの装甲は極めて高い反射性を持っているようです。だから私の≪アルマカノン≫があまり効き目がなかった」


「となると……接近戦か……」


≪ロングテイル≫が突き刺した頭部には、ちゃんとダメージを喰らっている。

 直接攻撃はさすがに防げないようだ。

 

「……あとは実弾攻撃くらいかな。舞さん!!」


「了解!」


 俺が叫んだと同時に、背後に光が集まった。

 一瞬にして姿を現したのは、味方怪獣アメミットだ。彼が口の中にある牙を見せた途端、その牙が糸を引いて発射された。


 プロフィールにも書いてあった牙ミサイルだ。


 ――グオオオ!!?


 それらがファーヴニルへと向かい直撃。

 これは効果的だったのか、装甲がかなりひしゃげた。


「よし、効果あるみたいだ!」


「引き続き援護をお願いします、舞さん」


「はい、分かりました!!」


 アメミットの頭部には舞さんが乗っている。

 あのまま森にいたら、どんな奇襲されるのか分かったものではない。だからこうしてアメミットの上に乗りつつ一緒に戦っている訳だ。


 さらに近接攻撃だけではなく、実弾攻撃も反射しきれない事が判明した。

 このまま4人で、奴をスクラップにしてやる!


『……クッ……ククク……』


「……!」


 その時、ファーヴニルが笑いだす。

 そもそも怪獣が笑う事自体初めてだ。それゆえか奇妙な感覚と共に、何とも言えない不気味さが伝わってきた。


「何笑っている……?」


『思った通りだ……。その人間……怪獣を生みだし使役する能力を持っているようだ。同族が感知したのは間違いではなかった』


「……同族……」


 おそらくタイタンの事か。奴はタイタンを経由して、人間や俺達を調査していたらしい。

 

 その言葉から察するに、タイタンは舞さんの能力までも……。


『その力……その力を解明すれば、我らへの貢献になれる……』


 ファーヴニルの赤く光る目が舞さんを捉える。

 ビクリと震える舞さん。俺は奴から彼女を守るよう盾になるが、その間にもファーヴニルの笑いは止まらない。


『ククク……もはや貴様らは必要なくなった……貴様らを殺し、その人間をサンプルにする……!!』


 笑みを含めた言葉を綴った直後、ファーヴニルが腰を屈めた。

 背ビレが光り出した瞬間、そこから無数の赤いレーザーが解き放たれる。それが意思を持ったかのように屈折し、俺達に襲いかかった。


「アメミット、光学バリア!! 皆を守って!!」


 舞さんが指示を出すと、アメミットや俺達の周りにバリアが形成される。これも追加された新能力だ。

 バリアが迫ってきたレーザーを次々と防いでくれる。防がれたレーザーは曲がり、周りの森へと着弾していった。


 燃え上がる森。


 火の粉が舞う中、ファーヴニルが腰を上げる。

 火の海の中で立ち上がる怪獣……まさに怪獣映画でよく見る構図だ。


「ご、ごめん……光ちゃん。森が……」


『気にしないで!! それよりもアイツを何とかしないと!!』


「……俺が行く」


 光学バリアを飛び越え、ファーヴニルへと走った。

 背後から「悠二君!!」と舞さんの呼ぶ声がする。しかし誰かが突っ込まない以上、ファーヴニルの猛攻を止める事が出来ないのだ。


 ――グオオオオオンン!!


 口から赤いレーザーを放つファーヴニル。俺は避けきれずにまともに喰らった……


 なんて事はなく、電撃で形成したバリアでなんとか防いだ。


「なんと!? いつの間に!?」


「即席だけどね!」


 いきなりバリアを獲得したら、フェーミナも驚くだろう。

 もちろんこのバリアは≪暴龍雷撃≫を応用したもの。俺はこの電撃を色んな事に使えるのだ。


 それはもう、鉤爪に電撃を走らせる事だって。


「喰らえっ!!」


 雷撃を付加した鉤爪を振るう。

 すると≪ロングテイル≫の比ではないくらいに、腹に大きい抉りが出来た。雷撃を加えた破壊力がそうさせたのだ。


 ――ドスッ!! ドゴッ!! バキッ!!


 そこから何度も腹を掻っ切った。

 みるみるうちに腹の装甲が四散し、機械的な中身が丸見えに。


『グウウ!! 馬鹿な、これほどとは……!!』


 ファーヴニルが尻尾で突き刺そうとするので、俺は背後へと跳び下がった。


「フェーミナ! 光さん!!」


「はい!」『うん!!』


 跳び下がった俺とニヤミスするように、フェーミナが低空飛行する。

 ファーヴニルがまたレーザーを吐こうとしたが、アメミットが牙ミサイルを叩き付けて阻止してくれた。


 奴が怯んでい内に、前腕から光剣≪アルマセイバー≫を伸ばすフェーミナ。


「死んでもらいます!!」


 ド直球な事を言いながら、ファーヴニルの胴体を切断。

 泣き別れしたファーヴニルの身体が、地響きを上げながら崩れ落ちた。

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