第48話 ドキっ! 美少女だらけのお泊まり会! 4

 それから数時間後。


 俺が先に風呂を済ませてから、舞さん達と交代。彼女達が帰って来るまで部屋に待機させてもらった。

 ちなみに夏なので、パジャマの代わりに黒の半袖半ズボンを着ている。


「うーん、ちょっと悪い事したかなぁ」


 最初「一緒に入ろ!」と光さん達にせがまれていた。

 ただ舞さんだけでも精神に気を遣うのに、彼女達と一緒に入ったらマジで昇天してしまう。

 これにはさすがの俺もNOと突き抜けるしかなかった。

 

 幸い、俺の意図を汲み取ってくれた舞さんが光さん達をなだめてくれたが、同時に悪い事をしたのかもしれないと後悔。


「フェーミナは風呂入らないんだ」


「この姿は自分の意思を投影したものですからね、入っても意味がないです。……それよりも何かオススメの動画はありますか?」


「オススメって言われてもな……」


 カイザーやアルティの視聴会を終えた後、フェーミナがノーパソで暇潰しをしていた。

 異世界の巨人はどうもインターネットメディアがお気に召している様子。


「……むっ、これは何でしょうか?」


「どれ……えっと『瀬名冴香せなさえかのコーディネート講座』……誰だろ? ちょっとクリックしてみ」


 フェーミナが興味を示した動画だが、これは見た事も聞いた事もない。

 彼女によって動画が再生されると、最初にタイトルがでかでかと映った。


『パソコンの前の皆、瀬名冴香よ。今日も女をより美しくするコーディネートを紹介するわね』


 次に聞こえてきたのは、なんともゾクリとさせるような澄んだ声だ。


 シュシュでまとめた灰色に近い髪、キリっとした雰囲気のある端麗な顔つき。そんな女子大学生らしき人が顔を出していた。


 美少女ならぬ美女、あるいはお姉様と言うべきか。ドラマに出てくる女優さえ見えてくる。

 こんな人が現実にいるのか。俺は文字通り目を奪われた。


「綺麗な人だな……」


「…………」


「……何だ?」


「いえ、何でもありません」


 フェーミナがジロっと俺を見ていたが、すぐに動画に向き直した。

 最近睨まれる事が多いような。


 動画の内容はというと、その瀬名冴香という人がオシャレな服を自ら着ながら紹介するというもの。さすがに着替えの瞬間はカットされているので裸云々はない。

 彼女が女をより美しくすると言っただけあって、チュニック、ドレスのようなワンピース、カーディガンなど可愛らしい服装がぞろぞろ映し出される。そしてそれを違和感なく、かつ華やかに着こなす瀬名さん。


 うっとりとした気持ちとはこういうものなのかと、俺は漠然と思った。

 それほどに瀬名冴香という人は、舞さん達とはベクトルの違う妖艶さがあった。


「お待たせ悠二クン……ってあっ! 冴香チャンじゃん!」


 夢中になっている間、光さん達が帰ってきたらしい。

 俺は動画から目を離さないまま尋ねた。


「知ってんの光さん?」


「そりゃあ、今話題で人気の女子大生モデルなんだから! 雑誌とか配信の売り上げがすごくてさ、全日本で推されてると言ってもいいくらいだよ」

 

「へぇ、そうなん……」


 そうして彼女達に振り返ってみると、


 ネグリジェを着た舞さん、パジャマを着た勇美さん、そして裸タオルをした光さんが立っていた。


 ……裸タオル?


「……!!? 光さん!!?」


「ほらっ、やっぱりビックリしたじゃないか!! まだ悠二君には早いって!!」


「いやいや、男の子ならこれくらい通る道だよ。実はわたし、夜寝る時はパジャマとか着ないんだ」


 指摘を入れた勇美さんに対して、光さんはどこ吹く風だ。

 それにパジャマを着ないという事は……。


「じゃあ……寝る時は……」


「うん、裸で」


「…………」


 ハリウッド映画とかで、女性が全裸で寝るのは見た事がある。

 ちなみにそういうのは演出とかではなく、ちゃんとメリットもあるらしい。

 

 それをまさか光さんが、しかもこの時に起きるとは思ってもみなかった。

 

「私はよした方がいいって言ったんだけど、幼い頃の習慣はやめられないってコイツが……」


「まぁ勇美ちゃん、私だってやめられない事があるんだから。悠二君も出来れば光ちゃんを尊重してあげてほしいな」

 

 不満を垂らす勇美さんと擁護を述べる舞さん。


 ちなみに舞さんはネグリジェではなくあのキモカワ怪獣シャツを持っていこうとしたが、俺が傷つけないレベルで反対したので渋々ネグリジェにしてくれた。やはりあのシャツに愛着があるらしい。


 それよりも光さんだ。

 

 上気してほんのりピンク色になった鎖骨と生足、タオルから見える豊満な胸の谷間。

 その姿のまま寝るというのだから……。


「い、いいんじゃないかな? 俺は大丈夫だよ……」


 拒否は出来なかった。

 きっとそういう彼女と一緒に寝たいという欲が、どこかあったのだろう。我ながら変態にもほどがある。


「ほんとごめんねー。それじゃあ、そろそろ寝るとしましょうか」


「えっ、もう?」


「うん、夜更かしは美容によくないから」


 今は9時。俺と舞さんは10時辺りに寝るので早いほうだ。


 美容という言葉に反応してか、舞さんも勇美さんも反対はしなかった。

 また美容に縁がなさそうなフェーミナもパソコンをすぐに消した。彼女と付き合っている影響だろう。


 その後、光さんがお客用の布団をカーペットの上に敷く。

 ベッドだと全員入れないし、せっかくだから固まって寝たいという彼女の要望があったからだ。


 さらに「誰が悠二の隣で寝るか」でジャンケンが開始された。

 結果として俺の両隣には光さんと勇美さん。舞さんは光さんの隣に寝る事になった。


「そろそろ寝るね、おやすみー」


「……えっ?」


「ああ、お休み。光、悠二君に妙な事するなよ」


「ママみたいな事言うなー。いいから消すよー」


 灯りが消された後、光さんの一言で寝静まり返る。……俺以外は。


 流れが自然すぎて把握するのに時間がかかった。しかし紛れもなく、裸になった光さんが俺の隣で寝ているのだ。

 そんな彼女が目と鼻の先にいるというのは、ある意味拷問じみた展開。


 ……何も着ていない光さん……。


 胸も下半身も服はおろか下着すら付けていない。しかも掛け布団から覗こうと思えば覗ける距離。

 

 ……正直、覗いてみたいという欲求があった。

 しかし光さんの了承なしに覗くなんて、それはあまりにも非道すぎる。彼女は俺に見せる為に裸になった訳ではないのだ。


 俺はとにかく煩悩を振り払い、夢の中に突入した。

 気付けば明日になると信じて。



 









「…………」


 何かの夢を見ていた矢先、ふと目を開けてしまった。

 時刻は深夜1時。どうやら俺は夜中に目が冴えてしまったようだ。

 

 マズい……これが起こると、決まって数時間は眠れなくなる。例え目をつぶってもだ。


 ため息を吐きながらも勇美さんを見ると、彼女が仰向けになって小さい吐息をしている。

 フェーミナはアルマライザーに戻って無言中。あれで一応寝ている状態らしい。


 光さんと舞さんの方も気持ちよさそうに寝そべっているようだ。


「本当に綺麗だよな、どっちも……」


 どちらも優劣つけがたい美少女。見れば見るほどうっとりさせられる。


 特に舞さん……というより彼女の唇を見てみると、前に頬キスをされた事を思い出す。

 未だにあの柔らかくプルンとした感触は覚えているし、その時の光景を思い出すたびに口が緩む。


 多分、あの時の俺はデレデレしていた。少なくともそんな気持ちがあった。

 なのでいい思い出と言えばいい思い出にはなる。


 あと光さんの肩が掛け布団からはみ出ている。その色白の肩と鎖骨に唾を呑みこんでしまった。

 しかしこれでは風邪をひいてしまう。俺は彼女に気付かれないよう、掛け布団をグイっと被せた。


 ――次の瞬間、いきなり光さんの目が開いた。


 しばらく呆然としてしまった。

 5秒経ってから状況に気付いて……。


「―――ッ!!」


「ごめんごめん。何か気配感じたから、つい目が覚めちゃった」


 口元を押さえて悲鳴をこらえたものの、もし出したらどうなっていたのやら……。

 光さんはそんな俺に対して謝ってきた。


「お、俺の方こそごめん……あの、別に変な事は……」


「分かってるって、掛け布団かけようとしたんでしょ。やっぱり悠二君は優しいね」


「そ、そんな……」


 自身の目が泳ぐ。


 ニッコリとしながらも、胸を掛け布団で隠す光さん。その姿があまりにも扇情的で、悩殺されかねない威力を誇っていた。

 まるで光さんと一緒にハリウッド映画の撮影をしている気分……って一体何を言っているんだ俺は。絶対混乱しているよこれ。


「気になるんだ、わたしの裸」


 不意にいたずらっぽく囁いてくる。

 俺の心臓が跳ね上がったのは言うまでもない。


「別にそうは……」


「いいよ正直言って、怒りはしないから」


「……なくは……ない」


「はい、おりこーさん」


 まるで子供をあやすように俺の頭を撫でてくる。

 実際子供であるが。


「……よかったら見ちゃう?」


「えっ?」


「だから……その……見ちゃう?」


 恥ずかしそうに口にした光さんが、掛け布団をぐいっと開ける。

 まるでその中を見せ付けようとばかりに。


「悠二クンになら、わたしの裸見ていいよ?」 

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