第49話 ドキっ! 美少女だらけのお泊まり会……?

「嘘?」


「ここで嘘つくほど冷血じゃないよー」


 俺が言った途端、光さんがケラケラ笑う。

 その後すぐ、にこやかな笑顔が艶かしいそれになった。


「わたしね……好きな子以外には身体見せない事にしてるの。逆に言えば見られたい欲求がある」


「なんか変態の発想のような……えっ、好き?」


「そうだよ。わたし、悠二クンの事が好き。例え君が怪獣であっても」


「…………」


 まさか舞さんだけではなく、光さんにも言われるとは……。

 俺は焦った。こういう時にはちゃんとした返事が必要なのだが、あいにくこの頭では気の効いた事が言えない。


 必死に悩んでいると、「あっ」と光さんが声をあげた。


「別に返事はいいよ」


「えっ?」


「舞にも同じような事言われたでしょ、多分だけど」


 ……何故分かった。

 俺自身からでは見えないが、間違いなく図星そのものな顔をしているだろう。


「やっぱりね。だったら舞の事を大事にしてあげて」


「……? それはどういう……」


「どうも何も、舞から悠二クンを寝取ろうなんて思ってないし、舞の事を優先してあげたいしさ。わたしは二の次でいいよ」


「光さん……」


 そんな事をさも当たり前のように言う彼女。

 前に舞さんが、彼女の事を優しくて正義が強いと言っていた。それは巨人として戦う姿勢からよく分かるが、まさかここで再認識するとは。


「それよりも見ていいよ。チラっとだけでいいから。……それとも精通しちゃう?」


「いや、精通って……」


 まるでこちらを惑わすように、光さんが胸を突き上げてくる。

 優しい性格なのは間違いないが、それ以上にエロさもあるような気もする。


 俺は光さんの可愛い顔と胸の谷間、それぞれ交互に見た。

 足りない頭で必死に考えながら……答えた。


「……ごめん。見るのは……俺がそう出来る人間になるまででいいかな?」


 勇気がなかったというのもある。そんな資格が俺にあるのかとも思っていた。


 だからこそ、その時になるまでお預けしてもらう事にした。

 問題は彼女が機嫌を損ねないのかだが……。


「そっか……まぁ幼い悠二クンには早すぎたかもね。うん、そうする」


 納得してもらえたようだ。彼女も無理があったとは思っていたらしい。

 ただせっかくのお願いを蹴った形なので、せめて謝罪はしたかった。


「光さん、ご――」


 ――頬に温かいものが触れた。


 早くて一瞬分からなかった。急に光さんの顔が近付いて、急に頬に唇が触れて。


 つまり、俺は彼女に……。


「えへへ、裸の代わりに受け取ってね。じゃあおやすみー」


「……おやすみ」


 呆然とするなか、光さんが顔まで掛け布団をかけた。

 まさか……彼女にもキスされるとは思ってもみなかった。しかも奇しくも、舞さんがしてくれた位置とほぼ同じだった。



 ********************************



 目を覚ますとふわふわとした気分だった。


 窓からこぼれた日に当たっている影響ではない。かといってぐっすりと寝られた影響でもない。

 間違いなく深夜の出来事だ。俺の頬には光さんの唇の感触が微かに残っていた。


 隣を見れば、ぐっすりと眠っている光さんと舞さんの姿が。

 俺は2人に、それも同じ位置の頬にキスされたのだ。


「……なんだろう、この気持ち……」


 形容しがたい気持ちだ。

 舞さんと光さんがキスしてくれたという事実が、俺の中にそういう気持ちを湧き上がらせてくれる。

 

 それに……悪くない。


 頬が熱くなるのを感じながらも、俺は笑みを浮かばせていた。

 そこから顔でも洗おうかと扉の方に向くと、

 

「…………」


「…………」


 いつの間にか人間態になっていたフェーミナが立っていた。

 養豚場の豚を見るような目をしながら。


「…………」


 さらに無言のまま立ち上がり、部屋からそそくさと立ち去っていった。

 これ絶対ヤバい! 何か勘違いしている!


「ち、違うんだフェーミナ! 別にニヤニヤしていた訳じゃなく……!」


 彼女を追いかけてみると、すぐ近くの扉に入る姿があった。

 俺も中に入ると、多くの本棚と隙間なく入れられた本が目に飛び込んだ。どうもここは書斎らしい。


「妄想したように笑みを浮かべた姿に何が違うと……大方昨日の影響でしょうけど」


 フェーミナが一冊の本を取り出しながら、呆れた顔をしていた。


「いや、これには訳があって……えっ? もしかして……」


「見てました。そもそも光の中に宿っていますので、目視しなくても何があったのかお見通しですが」


「……ええ……」


 あのエッチな事がフェーミナに筒抜けだった……。

 頭が沸騰しそうな勢いだ。穴に入ったら潜りたい気分になったのは生まれて初めてだ。


「もちろんその事は光には伝えておりません。いや、察している可能性はあるでしょうが、お互い不干渉は通しているつもりです」


「もうこの事を喋っている時点で干渉しているような……」


「…………」


「えっ? まさか無意識?」


「……私とした事がなんて恥知らずな……」


 おい大丈夫か異世界の巨人。


 おそらく光さんの事だから、フェーミナが見ている事に気付いているかもしれない。

 にも関わらずあのような行動をとれたのは、それだけ彼女が肝が据わっているという事なのか。


「フェーミナはここによく入るんだ……?」


「……まぁ、こうしてこの世界の知識を学んでいるつもりなので。それはそうと悠二さん」


「ん?」


「今後は光と舞さんの事に気を付けるべきです。ただでさえ……あなたは魅力的な少年だと思いますので……何かあったからでは遅いのです」


「えっとごめん、『ただでさえ』と『何かあったから』の間小さすぎて……なんて言った?」


「聞こえなかったのならいいです。ともかくこの忠告は忘れずに、2人を泣かせたら私が許しません」


「えっ? フェーミナが許さないの?」


「はい、そうです」


「……はぁ」


 何であんたが……? まぁいいけど……。


 とりあえずフェーミナの言葉はごもっともだ。

 2人の間でウロウロしていたら、それはさっきの彼女みたく軽蔑はされる。こういう事はよく考えておこうと思う。




『なるほど……姿……実に興味深い』


「「!?」」


 低い男のような声が窓から聞こえてきた。

 俺達が振り向くと、銀色をした丸い物体が浮遊していたのだ。


「何奴っ!?」


 咄嗟の行動だった。フェーミナが窓に向けて本を投げた。


 ――ガシャアアアン!!


 分厚い本によって窓ガラスが綺麗に、そして盛大に割れる。

 その中で俺達を見ていた物体が逃げていく。本にも当たっていないようだった。


「何だあれ!? ていうか急に本投げるなよ!?」


「申し訳ありません。攻撃するにはこれが手っ取り早いと思って……」


「ああもう! 俺が追いかける!」


 俺は物体を追うべく窓から飛び降りた。


 もはやアイツを追いかけるのに精いっぱいで、靴下で走る事になった。

 それが微妙に痛い。一応身体が頑丈なので血は出ないのだが。


「もしかして怪獣? でも結構小さかったし……声も出していたし……」


 あの物体、どことなく目玉をしていた。

 まず機械的なモールドをして、瞳孔に相当する位置に赤い光が灯った感じ。ロボットのカメラアイのようなものと言えばいいか。


 この間の海岸でチラリと見た物体に似ているし、もしかしたらアレがそうだったのかもしれない。


 正体が何なのか疑問だったが、やがて奴が前方の廃倉庫へと入っていった。


「付いて来いという事か……?」


 廃倉庫の中を覗いてみれば誰もおらず、古びた鉄筋とフォークリフトがあるだけだ。また壁に穴が空いて光が差し込んでいる。

 周囲を警戒しつつ、俺はその中を恐る恐る入っていく。


「言葉話せるなら割らせる事も出来……」


 そう独り言ちた時、感じる気配――いや殺意。


 目をやると、謎の影が俺に向かって攻撃しようとしていた。

 転がるように攻撃を避ける。すると影が俺の近くへと着地し、その顔を向けてくる。


 ――グルウウウ……。


 人間ではなかった。まさにそれは爬虫類のような顔つきをしていた。

 身体も赤色の鱗で覆われていて、各所に鎧のようなパーツを装着している。その姿には見覚えがあった。


「リザードマン……!?」


 ファンタジーに出てくるトカゲ人間――リザードマンを思わせるような怪物だった。

 

 しかもこの時、既視感を覚える。このようなシチュエーションは初めてではないような気がしたのだ。

 一体それが何なのか記憶をたどっていくと……。

 

「倉庫……人型……怪獣……そうか、コイツは怪人か!!」

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