第47話 ドキっ! 美少女だらけのお泊まり会! 3

 これはどのブルーレイにも言えるが、映画が始まる前には予告編が流れる事があるのだ。


 何の理由か、予告編をスキップできるタイプとそうではないタイプの2つがある(ような気がする)。

 今回の予告編は後者のタイプなので、それまで席の位置を決めようという話になった。


「……これでいいんですか?」


「これでお願いします」


 そう強く押したのは勇美さんだ。


 彼女が俺の後ろから抱くように座って、さらに光さんが俺の右に寄り添うように座っている。

 つまり美少女達に密着されている状態だ。


「悠二クン暑くない? 大丈夫?」


「うん……大丈夫だけど……」


「いやぁごめんね。こうやって悠二クンと密着しながら映画見んの夢だったんだぁ。ていうか勇美、鼻息荒いよ」


「そ、そう? 興奮しているからかな……」


 実際大丈夫という訳ではない。理由は……もう皆まで言うまい。

 一番気になるのは、勇美さんに後ろから抱き付かれている事だ。彼女の心臓の音が聞こえてくるし、それにいつ襲われてもおかしくないときた。


 こんなので映画を見ろというなど無理な話だ!


「…………」


「ん、どうしたフェーミナ?」


「いえ……」


 さっきから視線が感じていたが、どうも傍らにいるフェーミナかららしい。


 顔も険しいし、何かしてしまったのだろうか……。


「フェーミナさん、そこ座っていいですよ」


 と、舞さんが俺の左隣を指差した。

 驚くフェーミナに対して、どうやら俺ではなく開いている左隣を見ていたのだとやっと理解した。


「しかし舞さんは……」


「私はいつも悠二君にくっつい……じゃなくて、フェーミナさん座りたいみたいですし、遠慮する事はないですよ」


「……すみません、お言葉に甘えさせていただきます」


 舞さんに促されるまま、フェーミナが俺の隣へと座った。


 これで真正面以外の包囲が、完全に占拠されたも同然。 

 あと構図が完全にラノベの「周りに女の子を侍らせた主人公」的なやつだ。


 ……役得と言えば役得かな……。


「あっ、そろそろ始まるよ」


 光さんが言うようにカイザーが始まろうとしていた。


 ちなみに題名は『カイザーVSメタルカイザー』。カイザーシリーズ第20作で、平成5年辺りに製作されたものだ。


 最初に制作会社『TOFO』のロゴがでかでかと映っていく。

 この提供シーンがあってこその怪獣映画なのだと俺は思っている。舞さんも同意見らしく「これこれ……この提供だよ」とか言っていた。


 そうして映画が始まっていき、自然と俺達から言葉数が少なくなる。

 

 怪獣王シリーズとほぼ同じ内容だが、主役怪獣が違うだけで新鮮な気持ちになれる。

 もう子供だからこう言うのもあれだが、いつしか童心に振り返って楽しく見れた。


「軍の攻撃シーン見てるとさぁ、やっぱり防衛軍が悠二君を退治しようとすんのかな?」


「どうだろうね。でも例のデモがあったからそれどころじゃなさそう」


 映画の最中、勇美さんと光さんがそんな話をしていた。

 光さんがデモとか言っていたが、十中八九あの出来事だろう。


 実は『伊集院』という防衛軍のお偉いさんが「いくら怪獣を倒すとはいえ、5号が敵意を剥き出しにしないとは限らない。早めに対処するべきだ」とニュースで言っていた事がある。


 もちろん5号とはソドム……俺の事。

 怪獣と敵対する防衛軍としては正論なのだが、しかしその後が問題だった。


「怪獣は排除すべきものだから、あんな奴に感謝している人間は頭がおかしい。もっと世間は危機感を持ってほしい」という、これは炎上しても仕方ないと思いたくなる発言を彼がしたのだ。


 もちろんその発言を見過ごすはずがなく、世間やネットは大荒れ。

 さらに防衛軍本部前でデモが発生したのだ。


「役立たずの防衛軍より5号の方が頑張っている」とか「お前らに5号を倒す資格があるのか」とか。

 デモは今となっては沈静化したが、未だにクレームの電話が殺到中だそうだ。


「さすがにさ、頭おかしいって言い方ないよねー。ねぇ、悠二クン」


「まぁ……そのデモで反省したと思いたいけど」


 伊集院の発言を聞いて呆れ果てたものだ。

 防衛軍としてのプライドとか怪獣を倒せない焦燥感とかが先行していたのもあるだろうが、頭おかしいは非難されて当然。これは俺も擁護できない。


 とまぁ、場にそぐわないのでこれ以上は話さない事にした。


 フェーミナもカイザーが面白いのか表情を緩ませていた。

 こうしてみると、異世界の巨人というより1人の女の子のよう。


『グオオオオオンン!!』


 やがて最終決戦でカイザーが勝利。海へと戻ってからエンドロールが流れた。

 終わった後、光さんから「ふー!」と溜め込んだような息が吐かれた。


「何これ!? 怪獣映画初めてなんだけど、すっごい面白いじゃん! カイザーって怪獣もカッコよかったし!」


「カイザーは怪獣の皇帝だからね! 全壊したメタルカイザーを見下ろす目なんか何度見てもゾクゾクしちゃって! 私もあんな風に睨まれたい!」


「さりげなくM発言する舞かわいいなー。ってかもうこの際、他のやつも見ようか! アルティは夜にしてそっち先に網羅したい!」


「うん、分かった! 今準備するね!」


 すっかり光さんはハマったようだ。同時に舞さんもテンション上げまくり。

 カイザーの視聴は成功だったようだった。フェーミナも口には出さないものの、スッキリとした面相だ。


「楽しかった、フェーミナ?」


「はい……私もカイザーシリーズは初めてでしたが、実に素晴らしい体験でした。一緒に見れてよかったです」


「……おう……」


 俺は初めて見た。フェーミナが微笑んだのを。

 

 いつも仏頂面な彼女が表情を変えるのすら珍しいのに、そんな顔をしてしまったらドキリとしてしまう。 

 少したじろいてしまったが、でもいい体験だった。


「勇美さんはどうだった?」


「悠二君の髪からいい匂いしてきた……あっ、いやちゃんと映画は見たぞ! カイザーは弟達と見た以来だけど、やっぱ面白いなうん!!」


「ああそう……」


 勇美さん、聞こえてましたよ……。 


 そんな時、インターホンの音が家じゅうに鳴り響く。

 すかさず光さんが「はいはいー」と下に向かった。


「何が来たんだろう?」


「さぁ? でも悠二君達が来る前、光の奴がどこかに電話かけてたな」


 俺の呟きに勇美さんが答えた。


 数分も経たずにして光さんが戻ってきた。あるものを持ってきながら。


「お待たせ~!」


「光、それって……もしかして宅配ピザか?」


「そうだよ!」


 何と三つほどの宅配ピザである。

 それをテーブルに並べる光さんの姿に、舞さん達が目を丸くしている。


「光ちゃん、どうしてそれを?」


「わたしこれまでピザ頼んだ事がなくてさ、パパ達が行っている間に注文しようって思った訳。舞達もあんま食べた事ないでしょ?」


「まぁ確かに」


「そういえばうちも注文した事なかったなぁ。どういう味なのかさっぱり分からん」


 食べた事がない……だと……。


 あまりにも衝撃的な発言だ。さすがお嬢様方は色んな意味で格が違うというか。


「イタリアンとか照り焼きとか色んなのが頼んだから、好きなの選んで! ついでにコーラも頼んでおいたから!」


 数種類ある宅配ピザの他にも、人数分のコーラ入りコップがある。

 それを全員に振り分けた後、「はいかんぱーい!」とお約束のやつを実行。そこから食事が始まった。


「美味しいー。ピザってこんなんなんだね」


「ああ、イケる」


 舞さんと勇美さんには好評だ。


 俺はイタリアンが好きなのでそれを食べた。やはりオーソドックスは美味い。


はふい熱い……へもほへもははははでもこれもなかなか……」


「もうフェーミナ食べながら話さないのー。ていうかソース口に付いてるー」


ほ、ほへふはひはははひへこ、これくらいは私で……!」


 フェーミナは相変わらず食べながら話しているという。


 最初会った時は冷徹だとか武闘派だとか思っていたが、こうしてみると本当に感情豊かだ。

 こういうのを通じて、彼女の魅力が分かってきた気がした。だからこそ光さんと相性がいいのかもしれない。


「よし、ピザを見ながらカイザーの続き見ますか!」


「うん! ちゃんと手を洗ってから再生するね」


「ありがと舞! にしても宅配の人、明らかに挙動不審だったなぁ。何でだろうね?」


「家の大きさにびっくりしてただけだろ。ちなみにどういう人だった?」


「えーと、茶髪の大学生っぽい人だった。結構イケメン」


 茶髪の大学生っぽい人……もしかして晃さん?


 彼とは限らないが気になるは気になる。もし会ったら聞いてみようと思う。

 

 ともあれ俺達は、ピザを食べながらカイザーを視聴するという至福の時を過ごしていた。

 さらにそこからアルティシリーズも視聴して、舞さんはもちろん光さんが「アルティすごー!!」と有頂天になっていた。これがまたいい思い出にはなっていた。


 そしてこの後に衝撃的な展開が起こる事を、俺は全く予知していなかった。

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