第28話 ギャルに抱かれた(意味深ではない)

「それは驚きました。その者とは一体?」


「ごめん、まだここでは言えない。少し整理したいからさ」


 フェーミナからそう聞かれたので、俺は首を振る。今は舞さんの名前を出さないようにしたいのだ。

 それに2人がアクションをしない事から、その「怪獣を作った人」が舞さんだと気付いていない節がある。


 特に光さんだ。自分の友達が怪獣を作っていたなどと知ったら、ショックを受ける事間違いなしだ。

 いきなり明かすと色々面倒になるだろうから、なるべく彼女達が話せる場を作りたい。


「今の話をその人に持ち込むつもりだからさ。それで納得させてから光さん達に会わせる。どうかな?」


「……分かりました。その者にはぜひお会いしたいと思いましたので」


「わたしもフェーミナに賛成だよ。その人とはゆっくり話したいし」


 フェーミナはともかくとして、光さんは驚くだろうなぁ……。


 自分の提案に不安を覚えた俺だったが、2人が了承してくれたのでありがたく感じた。

 ならば次の行動に出るまでだ。


「じゃあ俺はここで。ケーキとお茶、ごちそうさまでした」


「あっ、もう行く? 外まで送るよ」


「私はここで待っていますので。次のご報告をお待ちしています」


 フェーミナはそのままケーキを美味しそうに食べていた。


 異世界の巨人だから食事とかを楽しみたいタイプなのだろう。

 そう彼女の事を考えながらも、俺は光さんと共に屋敷の外まで行った。


「じゃあ光さん、お邪魔しました」


「うん。……あっ、タイム。ちょっと待って」


「ん?」


 急に光さんから待ったをかけられ、俺は前に伸ばした足を止めた。


「ありがとうね、ちゃんと話してくれて。それと……怪獣2号から助けてくれたの嬉しかった。あの時の悠二クン、本当にカッコよかったよ」


「いや、そんな……。むしろカッコよかったのは光さん達の方だって……あの≪アルマカノン≫ってやつすごかったし」


 何せ必殺技がありふれた光線ではなく、相手に密着させてからのゼロ距離発射だ。カッコよくない訳がない。


「……もし悠二クンが言っていた人と上手く交渉できたら、一緒に戦えるかな?」


「えっ?」


「わたしアルティシリーズ見てないけど、巨大ヒーローと怪獣が共闘すんのってあんまりないらしいね。まぁだから何だって話なんだけど……わたし、君と一緒に怪獣退治したいなぁ……なんて」


 こそばゆそうに微笑む光さん。

 巨大ヒーローと怪獣の共闘は最近だと珍しくない……と言ってもいいが、さすがに返しとしては微妙だろう。


 俺は光さんの気持ちを汲み取りたかった。

 こんなにも接してくれる彼女を無下に出来ない。


「俺も光さん達と力を合わせたい。一緒なら何が来ても乗り越えられそうだから」


「乗り越えられるか……うん、そうだね! 楽しみにしてるから!」


 これには俺も同意見。光さんと共に戦えるのが楽しみになる。

 そうして「じゃあ、これで……」と光さんから離れようとした……が。


「……悠二クン、もう一回お待ち」


「えっ? ……!」


 振り返ろうとしたその時、急に後ろから抱き付かれた。

 顔を向けた事によって、光さんの顔が近くに来ている。動悸が止まらない……。


「あのね、悠二クン……」


「はい……?」


 何かを言いたげな表情をしている。

 俺は呆然としながらも待っていたが、何故か光さんが無言になってしまった。


 というより何かこらえている……?


「光さん……?」


「…………ごめん、やっぱり何でもない! ノーカン! 帰り道、気を付けてね!」


 そう言ってから、これまた急に離してくる。

 一体何なんだろう……? 光さんに抱き付かれたという事実よりも、その疑問が頭を支配していた。

 


 ********************************



「ただいまぁ」


「お帰り悠二君。練習長かったね?」


 家に帰ってから部屋に入ると、テレビに向かい合っている舞さんの姿があった。

 今は昼の12時。そして家を出たのが8時頃。一応昼には戻るとはいえ、彼女からすればかなり長めだと思っても不思議ではない。


「うんまぁ、ちょっと技の習得に時間かかって」


「そうだったんだ。汗流したっぽいからシャワー浴びてくる?」


「いや、そこまではいいかな」


 それを信じている辺り、舞さんはタブレットで俺の様子を見ていない事になる。光さんの事とかがバレなくて本当によかった。


 なお彼女が見ているテレビ画面には、青を基調した巨人と怪獣が街中で戦っている。

 アルティシリーズの1番組『アルティ・ゼータ』のシーンのようだ。


「アルティを見てたんだ」


「家事終わったから。いやぁ、怪獣映画もいいけど巨大ヒーローものもいいよねぇ。特には最近のはカメラアングルとか街の破壊描写とか気合い入れててすごいというか。怪獣のデザインも逆関節使ったりで技術が上がっている気がするよ、うん」


 確かに怪獣の足がそうなっているが、中のスーツアクターどうなっているのだろうか……。


『さぁ行くぞ!! ご唱和下せぇ!!』


「ご唱和下せぇ!!」


 そんな疑問は置いといて、純粋に特撮を楽しむ舞さんが愛おしい。怪獣オタク女子という特徴も好きだ。


 だからこそ……というのは少し変だが、とにかく俺は舞さんに話さなければならなかった。


「舞さん、話あるんだけどいい?」


「ん? どうしたの」


 ちゃんと聞いてくれるのか、舞さんがアルティ・ゼータを一時停止して俺の方に向く。

 俺はこれまでの話を、光さん達の名前を出さない程度に伝えた。

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