第29話 わたしのあれこれ(光side)
わたしとフェーミナが出会ったのは、巨大怪獣3号というのが初めて出現した時だ。
ツイットで怪獣に破壊された家を見て、痛々しく感じていたのを覚えている。
それからわたしは上の空で勉強をして、明日に向けて寝落ちした。
あの時何かの夢を見ていた気がするけど、もう忘れてしまっている。
夢というのは実体験ではないから記憶に残りにくいというし、たかが夢なのでそこまで重要じゃないかもしれない。
むしろここからが本番だ。
夢に割り込むように、周りが白い空間へと染まっていった。これは今でも鮮明に覚えている。
『私はフェーミナ・アルマ……別世界から来た観測者です』
白い空間の中、彼女の声が聞こえてくる。
巨大ヒーロー系の夢かとつい思ってしまった。しかしそれにしてはリアルで、何よりあの時の声は……明らかに助けを求めているものだった。
『怪獣の殲滅が私の使命……しかし今の身体では、この世界に留まる事すら出来ない。なのであなたの協力が必要なのです』
何でわたしなの? とすぐに答えた。
『あなたと私の適合率が高い故です。今の私にとって、あなたはまたとない最適なパートナーと言っても過言ではない』
要は活動する上で、わたしがうってつけだったらしい。
それから彼女は続けた。
その協力というのは「共に怪獣を倒していく」というもの。なのでわたしが引き受けた場合、フェーミナを実体化させる為のアイテムを与えてくれるという。
これに対して、すぐにハイと答えられなかった。
確かにわたしは家を破壊する怪獣が嫌いだし、被害にあった人の事も心配だった。
しかし心配している
自分が怪獣と戦うのを想像できないのも相まって、わたしはどうすればいいのか分からなかった。
それをフェーミナに伝えると、彼女がこう言ったのだ。
『もちろん分かっています。その意志がないのなら、私は尊重してあなたから出ていきます。答えが出るまで、あなたの身体の中で眠らせていただきます』
考えさせてくれる猶予を与えてくれたのだ。優しいとは思う。
目を覚ましたわたしは、どうするべきかを日中考えた。
フェーミナの要求を呑むか、それともそれを拒否するか。
正直に言えば、後者の方が7割ほどあったとは思う。やはりそういった自分の姿が想像できなかったからだ。
しかしその間、何度も繰り返される怪獣による破壊。
それをツイットやニュースで見ていると、いたたまれない気持ちになる。
こんな時に誰かが怪獣を倒せば。怪獣を阻止できれば。
そして結果として「わたししかいないのでは?」と考えてしまう。
フェーミナはわたしを「またとない最適なパートナー」と言っていた。それについて彼女に尋ねてみれば、やはり次にパートナーが見つかる確率は低いらしい。
一応、彼女は無理しなくてもいいとも付け加えた……けど、わたしは決心した。
「こんなわたしでも出来るなら……一緒に戦う。怪獣から皆を守るよ」
フェーミナから本当にいいのですかと念押しされたものだ。
しかしわたしは曲げなかった。一度言ったものを引っ込める訳にはいかない。
そういった話し合いの末、いよいよわたしとフェーミナの怪獣退治が始まった。
渡されたアルマライザーで無人島に移動して、フェーミナに変身する練習をした。
その最中に海から怪獣2号が現れたので初戦闘もやった。残念ながらあと一歩のところで逃げられてしまったけど。
一応その数日後に、防衛軍に発見される前の怪獣を倒したので、実質プラマイゼロ。
そんなこんなで何とか正義の巨人になれた私だけど、そこに怪獣を倒す怪獣が現れた。
わたしは5号についてどういう存在なのかよく分からず、防衛軍に攻撃される彼を攻撃できずにいた。
対しフェーミナはいずれ人間に仇をなすと言って、彼の事を常に警戒していた。わたしを尊重してくれるけど、やや過激な面もあるようだ。
さらに5号の正体があの可愛い悠二クンだと知らされた時には、頭が真っ白になりそうだった。
そこからフェーミナに言われた通りにやってきたけど、これは後から考えれば愚策だったとは思う。もう少し自分で考えるようにしておけばよかった。
もちろんフェーミナの行動はあくまで皆を守る為のものだ。
やりすぎとは考えていたものの、だからといって全否定すべきものでもない。
********************************
悠二クンが家に帰ってからの夜。
「フェーミナってお風呂入らなくて大丈夫なの?」
「あくまで立体映像のようなものですので、普通の生物のように汚れや汗などは出ませんね。ご心配は無用です」
「ふーん。てか美味しい? この間もらったチョコレート」
「はい。元の世界にこのような素晴らしいものは……モグ……なかったので」
「フェーミナの世界になさそうだもんねぇ。というか立体映像なら歯磨きも必要ないか」
風呂から上がったわたしは、バスタオルを巻いたまま部屋に戻った。
フェーミナはというと、女性の姿のままブランドチョコレートを美味しそうに食べている。
よほど気に入ったのだろう。既に何個も食べているのが、破れた包装ビニールの数から分かる。
「いやぁ、ほんと悠二クンと仲直りできてよかったぁ~」
何かがズレていれば悠二クンと死闘になっていたかもしれない。
一時はどうなるかと思っていたけど、本当に分かり合う事が出来てホッとする。
「これからは早まらないで慎重に動きたいですな」
「……私もあとから考えたのですが、確かに光と話し合うべきでした。1人で考えていたら駄目だと再認識させられます」
「ふーん、フェーミナなりに考えてんだね」
「私は最善の方法を優先したいだけです。その方が効率がいい」
「効率ねぇ。素直じゃないなぁ~」
なんというか、彼女はツンデレ気質な面があるように思える。
それが可愛くて、つい彼女を後ろから抱き締めてしまう。悠二クンの件はもう怒っていないし、チョップを喰らわせたので十分だ。
「離れて下さい。それよりもタオル一枚で病気……風邪にならないですか? 少し不安なのですが」
「もう慣れてるって。でも心配してくれてありがと」
それにわたしは分かっている。
フェーミナはやり方に難があるし、それでいて不器用。しかし結構優しいところもある。
だからわたしは彼女を信頼できる。
「そうですか……。ところで怪獣少年が帰った時に窓から見ていたのですが、光は彼とくっついて何しようとしたんですか?」
「えっ?」
「目の泳ぎ方と沈黙からして、何かをしたかったが出来なかった……そんな行動だったと思います」
「……バレたかぁ……」
ドサッとベッドの上に倒れ込む。
正体が正体なので、二階の窓からでも些細な表情を見抜けるのだろう。
もはや隠し立ては出来なくなったので、わたしは告白してみた。
「……悠二クンにキスしたかったんだ。あんまりにも可愛くて……」
女の子を思わせるような整った顔立ち、それでいて内面イケメン。
怪獣から助けてくれたお礼をしたくて、あの子にキスをしたかった。頬でもよかったとは思う。
ただ男性に対してキスなんてした事がなかったから、タイミングが中々つかず……結局はあの子を帰してしまう結果となってしまった。
「そんなにしたかったのなら、本人に伝えればよかったのに」
「言えるわけないじゃん! わざわざキスしますっていう子いる!?」
「それは知りませんが……しかし現に後悔しているのでは?」
「そりゃあするよ! するけどさぁ……ああもう! それ以上言うとフェーミナにキスするぞ!!」
「ええ、大丈夫です。私もそのキスに興味ありまして」
「……ごめん、やっぱナシで」
女の子同士で……というのは興味なくはないが、さすがにこのムードではやりにくい。
おもむろに時計を見れば、既に消灯時間になっていた。美容に気を遣っているので夜更かしはしないようにしている。
「フェーミナ、そろそろわたし寝るね」
わたしはバスタオルを脱ぎ、裸のまま布団の中に入った。
裸のまま寝るのが小学生からの癖になっているのだ。我ながらエロい事をしていると自覚している。
「分かりました。ではアルマライザーに戻って……」
「その前に一言、話し相手になってくれてありがと。わたし、フェーミナと話せて楽しいよ」
「……こちらこそ」
相変わらず仏頂面だったが、少し頬が紅潮したのは気のせいか。
いずれにしてもお礼を言えてよかった。
「じゃあ、お休み」
リモコンで電気を消してから、私は目をつぶった。
耳元にコトン……と音がしたのは、フェーミナがアルマライザーに戻った証拠だ。
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