第24話 来たぞ、我らの女巨人
「……っ……ごめん、悠二クン!!」
光さんがポケットから何かを取り出した時、周囲が閃光に包まれた。
思わず目をつぶった俺だが、あまりにも強すぎる閃光はまぶたを貫通する勢いだった。腕で顔を防御するのが精いっぱい。
それが次第に弱くなったのを感じて目を開けると、何とさっきまでの公園がなかった。
「廃墟?」
まず周りには廃墟の建物が広がっている。
が、よく見ると見覚えがあった。足元を中心に大きく敷き詰められた駐車場、ガソリンスタンド、そして建物はよくよく見ればスーパーやレストランの看板があった。
「ここ、サービスエリアか」
『その通り。高速道路から離れすぎて運営放棄された場所らしいです。光とあなたの間に光球を作り、一気に瞬間移動しました』
「えっ……?」
今の声、誰だ?
冷静さが醸し出す女性の声だが、どう考えても目の前の光さんではない。そもそも顔をうつむかせている彼女からあんなのを出せるはずがない。
――いや、盲点だった。彼女の右手に何らかのアイテムを持っているではないか。
Yのような形をして、銀とマゼンタを組み合わせたカラーをしている。
その真ん中には緑色に輝く宝玉がはめられていた。
「あれはもしかして……変身アイテム? って事はさっきの声もしかして……」
『よくお気付きになられましたね。怪獣にしては頭が賢い』
ビンゴ。アイテムにはめられた宝玉が点滅するたび、あの女性の声が響く。
となると光さんは
「その声、あの巨人なんだな。つまり光さんの中にあんたがいて、そのアイテムで変身するっていう」
『その通りです。同じような変身をする「アルティシリーズ」という番組がありますが、やはりそちらをご覧になられましたか』
「ま、まぁ」
本当はアルティシリーズではなく、前世にあった光の巨人シリーズからなのだが。
もちろん俺は黙る事にした。
「あんたの名前は?」
『失礼しました。私はフェーミナ・アルマ……あなたが巨人と呼ぶ者であり、異世界から来訪した者でもあります。私の身体ではこの世界に溶け込んでしまう可能性があるので、今は光の体内に憑依しています』
「随分とテンプレな」
『テンプレかどうかは存じませんが。それよりも光がここに連れてくる前に、私の事に気付いたのは想定外でした。一応理由をお聞きしてもよろしいですか?』
「……光さんの膝に乗った時かな。あの時に違和感があったんだ、『光さんの中に何かがいる』って」
膝に乗った時、俺が顔をしかめたのはその理由からだ。
これも怪獣としての感知能力があってこそかもしれない。……なお同時に膝の柔らかさを思い出して顔面が熱い。
『それでよくあの巨人と結びつけられましたね』
「カマをかけたんだよ。もし違っても子供が言った事だって片付けられたし。……でも本当に光さんがそうだったって思わなかったよ」
「…………」
話しているフェーミナとは対照的に、光さんはずっと黙ったままだった。
覗いてみて分かったが、口元を強く噛み締めている。あれだけ明るかった彼女から想像できないような表情だ。
『私も身体を接触した時、あなたがあの時の怪獣である事に気付きました。それで私はひそかに光に指示を出し、勉強中にあなた宛てのメモを書かせたという訳です』
「どうやって話したんだ? ずっと勉強してたはず……あっ、脳内でか」
『それも名答。そして人的被害が出ないよう、この場所に誘導させたという訳です。あなたは怪獣3号、4号を倒したとはいえ災害の具現化たる怪獣なのですから』
「災害の具現化ね……あれか? 俺が人間を襲うとか思っているのか?」
『話が早い』
気が付けば、フェーミナの声質に凄みが増したような気がした。
『怪獣は私でさえコミュニケーションが不可能であり、本能のままに破壊を尽くす存在です。あなたがいかにして人間の姿を得たのかは不明ですが、いつの日かその凶暴な本性を剝く可能性がなきにしもあらず。それゆえに起こるだろう人的被害を考慮すれば、今この場で黙らせるのが先決。そう私は判断しました』
「武闘派だな」
『そうではなくては怪獣と戦えません。あの時、防衛軍との間に割って入ったのは、あなたが殺気を出して防衛軍を攻撃する恐れがあると思ったからです。……もっとも光が躊躇したので攻撃が出来ず、逃走を促してしまう形になってしまいましたが』
「光さんが?」
どういう意味なのか分かりかねない俺だが、今の光さんから尋ねる事は出来ない。
『しかし今が好機。ここであなたを戦闘不能の状態にして、何故人間に擬態しているかなどを聞き出せられる。倒す事はしませんが、二度と怪獣に戻れなくなるというショックは与えるかと』
「ちょっと待て。その意見、光さんも思っている事なのか? あんただけで進めているってだけじゃないのか?」
俺の目からすれば、不本意な光さんをフェーミナが煽っているようにしか見えなかった。
光さんはあの様子からして、この事を望んでいるとは思えない。
『……光、辛い気持ちなのは分かります。しかし私達は、これまで人間に被害を与える前の怪獣を倒してきた。あなたのご協力には本当に感謝しています』
「…………」
『この処理は私1人だけで十分ですので、変身中は眠ってもらいます。彼を決して殺さない……これは約束します』
煽っているようでそうじゃないのがアレだ……。
俺はフェーミナの絶妙な言動がやや小憎たらしく思った。しかしそれよりも、光さんがどう思っているのかを聞きたい。
しかし口にする前に、光さんがアイテムを掲げていた。
「フェーミナ……」
小さく呟いた直後、彼女が閃光に包まれた。
もはや話し合っている場合ではない。
俺もソドムに変身して臨戦態勢に入るが、同時に閃光の中から姿を現す巨人。
「……何かぐんぐんカットが見えた気がした」
シリアスな雰囲気の中で場違い感想なのだが、本当に俺には「両腕を後ろに伸ばしながらぐんぐんカットする巨人」的なビジョンが見えたのだ。
とにかくその巨人は、防衛軍に攻撃された時に見た人影と一致している。
まず驚きなのが、全身が鎧のような装甲で覆われている事だ。
それでも声のイメージにそぐわない女性的なフォルムをしている。主に細い腰やハイヒール状の足など。
銀を中心にマゼンタを散りばめたカラーをしていて、両眼は緑色をしている。さらに腰にはスカートアーマーが装着していた。
巨人と言えば巨人なのだが、一方で女性型ロボットのようにも見える。口がマスク状になっているのも、それに拍車をかけていた。
「やっぱりこの世界にも巨人がいたか……」
「何をおっしゃっているのか分かりませんが、それはさておき少々痛い目には遭わせてもらいます」
「あれ、俺の声分かるんだ。どうやっても咆哮に変換されてしまうって聞いたのに」
「いえ、ちゃんとあなたの声は聞こえています……が!」
フェーミナが駐車場を蹴ると、俺に向かうように垂直に飛んだ。
突進攻撃をかわした後、フェーミナが振り向きざまに腕を振るった。
「≪アルマスラッシュ≫!」
振るった腕から光のカッターが射出される。
まっすぐ飛ばされたそれを、俺はマンティコア戦で取得した棘飛ばしで対応した。
――パキン!!
2本の棘と≪アルマスラッシュ≫が相殺すると、お互いに砕け散る。
「ちなみに余計な一言と思いますが……」
「3分経っても活動限界にならないんだろ? 分かってるよ」
「……よく見破りましたね。アルティシリーズを見たわりには」
何故分かったかいうと、フェーミナの胸にタイマーらしきものがないから。
そこから活動限界もないのではと推測していたが、どうやら本当だったらしい。
ともかくフェーミナが迫り、チョップをかまそうとする。
その攻撃を腕で受け止める俺。
「無制限だろうと何だろうと関係ない。そちらから向かう以上、容赦しないからな」
相手が光さんと一体化した巨人だから、手を出すのは気が引ける。
しかし相手が戦意を持って攻撃する以上、やらなければ俺がやられてしまう。だから隙を突いて尻尾で叩きのめそうと思った。
尻尾なら「女性を殴った」という罪悪感が減少されるからだ。
「やれるものなら……」
フェーミナがジャンプし、新体操の如く身体をひねりながら俺の背中へと着地した。
俺が振り返ろうとした時には、首元に彼女の腕が回って締めてくる。動きを封じようとしているようだ。
「くっ、放せ!」
怪獣特有の蛮力を駆使して、フェーミナを強引に引き離す。
飛ばされたフェーミナが体勢を整えて着地。駐車場のアスファルトがまるで紙吹雪のように舞う。
今までの怪獣にはなかった知性的な戦い方……これは頭を使って戦わないとマズいのは俺でも分かる。
気を抜いたら負けだと考えながら、フェーミナから距離を取りつつ構えた。彼女も同じような事を思っていたか、同様の構えで俺の様子を窺う。
「……しっかし、固かったな……」
ふとそんな事を呟く。きっかけはフェーミナが俺を絞めようと密着した時。
正直この戦闘に関係ない話なのだが、彼女の身体が女性にしてはガチガチだったのだ。
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