第25話 ソドムVSフェーミナ
なんて考えている場合じゃない!!
これではフェーミナの身体が柔らかくあってほしいと思っているみたいだ。すぐにそんなどうでもいい考えを振り払う。
問題は彼女が本気で掛かってきている事だ。相手が女性だからといって手を抜けば、一瞬にして返り討ちに遭うのが目に見えている。
「……ここでやられたら舞さんに顔向けできない。出来ないんだよ」
俺を怪獣化できないよう痛み付けるという発言は本当のようだ。
もしそうなってしまえば、舞さんがどうなってしまうのかなど考えるまでもない。
だからこそ負ける訳にはいかないのだ。
「グオオオオオオオオオオオオン!!」
俺は吠えた。
吠えながらフェーミナへと駆ける。その都度巻き上がるアスファルトの破片とその下に隠れていた土の煙。
突進攻撃に対して、フェーミナが宙へと舞い上がろうとする。やはり巨人だけあって飛行能力があるようだ。
俺はそこでジャンプして前方宙返り。その遠心力で浮いているフェーミナへと尻尾を当てる。
「グッ!?」
バク転していたのでよく分からなかったが、ちゃんと直撃したらしい。
駐車場に着地すると、フェーミナが右肩を痛そうに押さえ付けている。
あそこに尻尾が当たったという事か。
「こんな事しておいてなんだけど、光さんにダメージいってないよな?」
「いえ、彼女は私の中で休眠中です。ダメージがあるのは私と動きを同調させている時……そもそもこの状況でよく彼女の心配が出来ますね」
「心配して悪い……か!!」
近くに置かれていた廃車を掴んで、フェーミナに
フェーミナは向かってきた廃車を叩き落し、俺へと肉薄。拳を作って殴りかかってくる。
俺は拳を掴んだ。降りかかったもう片方の拳も同様にだ。
それからお互い
「グルウウウ……!」
「クッ……」
俺はフェーミナを徐々に押していく。
そこから地面に倒す勢いで力いっぱい突き放した。しかしフェーミナは倒れる事なく踏ん張り、再び迫ってくる。
指を揃えて突き出している。あれは
やられる訳にいかない。すぐに俺はそれに対処しようとした。
「何……?」
その瞬間、俺の手前で貫手が止まった。
声を上げたのは俺ではなくフェーミナ。攻撃が止まった事に、彼女自身も動揺しているようだ。
「……光なのですか? 一体何故……」
「光さん……? あっ……」
そういう事か。
フェーミナはついさっき「光が起きているなら動きを同調できる」と言っていた。
動きを同調させられるなら、それを止める事も出来るはず。
『……やっぱり……わたしには出来ない』
光さんの声がフェーミナから聞こえてきた。
このサービスエリアに来てから、初めて聞いたまともな台詞だ。
『確かにフェーミナと会った時、わたしが怪獣を倒さなきゃって思ってた。そうして皆を守りたい……今でもそれは変わらないよ』
「…………」
光さんの吐露を俺は黙って聞いていた。そして何故彼女が巨人と同化したのか、今なら何となく分かる。
そして彼女は間を置いて、
『でも怪獣は怪獣でも、悠二クンは違う。フェーミナは何か企んでいるって言っていたけど、悠二クンがそんな風に思っているようには見えない。わたしは悠二クンを信じる! きっと何か事情があるんだよ!』
「……光……むっ?」
するとフェーミナの左腕がプルプルと震え出し、自身の顔に近付く。
彼女の反応からして、光さんが動かしているのかもしれない。
「一体何を……」
『フェーミナの言葉を信じてしまったわたしにも非がある。だから……我慢してフェーミナ』
左手がチョップの形になった後、何とフェーミナの脳天を叩いたのだ。
自分自身への攻撃に「イ゛ッ!?」とふらつくフェーミナ。その光景に俺は仰天してしまう。
「光、何故こんな事――」
『もう一発……!』
二度目のチョップ。
これにはフェーミナもへこたれてしまった。
『さらにもう一ぱ……』
「分かりました分かりました!! とにかく止めて下さい!!」
『いつつ……やっと分かってくれたね……』
今までの冷静さはどこにいったのか、慌てたフェーミナが制止させた事でチョップが止まった。
これにはさすがの俺でも放心状態になってしまう。光さんは行動力があるというか……少しやりすぎな面もあるようだ。
まさかこんな事になるとは思わなかったので、光さんはもちろんフェーミナの心配をしてしまった。
「ふ、2人とも、大丈夫なのか……というか光さん痛くなかった?」
『もちろん痛い……でもこんなの悠二クンが受けたダメージには程遠いよ。とにかく変身を解除するから、悠二クンもそうして』
「あ、ああ……」
あまりダメージは喰らってないけど……まぁいいか。
へたり込むフェーミナの身体が閃光に包まれ、徐々に小さくなっていく。
俺もすぐに人間形態に戻ると、ちょうどフェーミナと同じ体勢になった光さんがそこにいた。
「いったぁ……ああいう事したの生まれて初めてだよ」
痛そうに頭を抱えている光さん。
俺がそちらに駆け寄っていくと、急に表情がしおらしくなる。
「悠二クン、本当にごめんね……。わたし、悠二クンが怪獣だって脳内で聞かされた時は動転して……それからフェーミナの言う通りにしちゃってさ……」
「……心中察するよ。俺が光さんの立場だったら、絶対に信じられなかったと思うし」
転生した時だって、俺自身が怪獣になった事に戸惑っていた。
光さんはその事実をフェーミナから聞かされ、そしてどう対応すればいいかと悩んでいたに違いない。
そんな時に冷静なフェーミナの言葉に乗っかってしまうのは無理のない話だ。
「ただ、俺の正体を聞いた時って勉強中だったよね? よく集中できたな……」
「パニくって勉強になってなくてさ、ノートに書いたのもほとんど適当だったよ。あれから舞に質問も出来なかったし」
「そうだったんだ……」
膝に乗っかっているという緊張感で全く気が付かなかった。
もっとも地頭が低い俺の事なので、仮にノートを見ても違いを見抜けなかったと思うのだが。
「……ねぇ、正直に言って。こんな事をされてさ、わたし達に怒っている?」
憂いに満ちた顔をしながら、光さんがそう問いかける。
対して俺の答えは決まっていた。
「理不尽だなって少し怒ったかな」
「……っ……」
「でも俺だってフェーミナの肩やっちゃったからさ、何かお互い様というか……フェーミナ悪いな」
『いえ、肩の損傷くらいでしたらすぐに回復します。お気になさらず』
「そうか。ならこれでチャラかな」
変身アイテムから発するフェーミナの声に、俺は微笑む。
すると光さんもつられてか口元を緩ませた。
「初めて会った時と口調違うんだね。それがマジのやつ?」
「ああ、マジ。あれは緊張して口調がおかしくなっただけ」
「そうなんだ。今の悠二クン、イケメンカッコイイよ」
いつも見せてきた満面の笑みが浮かんでくる。
やっと元気を取り戻せたみたいで、俺は安堵した。光さんに暗さは似合わないのだ。
「というかフェーミナ謝った? ちゃんと謝んないと駄目なのがこの世界のルールなんだから」
『……申し訳ありません。これからどうしていくか、ここを出てから話そうと思います。それでよろしいですね、光?』
「うん。悠二クンの事、色々と知りたいし。ね、悠二クン?」
「……まぁ」
とりあえず笑顔が可愛くて、逆に口元が緩んでしまう。
ともあれ場が収まったところで、俺は「元の場所に戻ろうか」と口にしようとした。
「……ん?」
その時に気配を感じた。
これはそう、何が迫ってきている……。
『あなたも気付きましたか。これは間違いなく……』
「えっ、何の話?」
――ブーン、ブーン!! 怪獣です、怪獣です! ブーン、ブーン!!
「うおぉ!?」「ひゃあ!?」
突然のアラームに、俺とキョトンとしていた光さんが同時に飛び跳ねてしまった。
どうも光さんのスマホかららしく、慌ててポケットから取り出している。
「か、怪獣が出たみたい! えっと、場所は……!」
さっきの気配はやはり怪獣だったようだ。
それとフェーミナは気付いていたのに対し光さんはそうではなかったのを見るに、前者だけが怪獣感知能力を持っているという事らしい。
1つ勉強になったところで、俺もスマホ画面を覗いてみた。
心臓に悪いアラームを鳴らした『怪獣出現速報』は、地図にスマホ所有者と怪獣の位置をそれぞれ教えてくれる。
前者が矢印、後者が赤い点になっているはずだ。
「……えっ? 悠二クンこれ……バグってないよね?」
「だと思うけど……」
どういう事か、矢印と赤い点が重なって表示されている。
スマホのバグではないとしたら、これが意味するのは……。
「「……真下……」」
――ドオオオオオン!!
俺達がハモった瞬間、奥にあるガソリンスタンドが派手に砕け散った。
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