第21話 そして現在の時間軸
改めて説明するまでもないが、俺は女の子と縁のない人生を送っていた。
つまり本来は女の子への耐性があまりない。
それがソドムに転生して舞さんと一緒にいる事で、いくらかレベルアップしたのだが悲しいかな。あくまでそれは『舞さん』に対してだ。
そんな時に新たな美人、それも俺にとって別世界の人間にしか見えないギャルが現れたのだ。
「お帰り悠二君。この子が萩山光ちゃん、私の友達だよ」
「光って呼んでね。あれ、もしかして緊張してる?」
何の理由か、2階から降りてきた舞さんが紹介してくれた。
着替えでもしたのか、薄青のワンピースを身にまとっている。それが清楚な舞さんにピッタリだ。
ただ彼女はいいとして、萩山さんの存在感はインパクト大である。
このライトノベル的なシチュエーションに俺がとった行動は、
「あっ、えっと……僕、悠二と言います……。よ、よろしくお願いします……」
幼児退行である。
これは意図的ではない。緊張しすぎて、普段通りの言動が出来なくなったからだ。
我ながらひどい有り様だと痛感する中、萩山さんが「キャー!」と声を上げた。
「かっわ! 本当に舞が言ってた通りだ~。こちらこそよろしくね!」
俺と目線が同じになるよう、萩山さんが前屈みになる。
この手のギャルにしては全然キツくなく、自然なナチュラメイクの可愛らしい顔。嗅ぐ者を惑わす心地よい香り。そしてブラウスから見える胸の谷間。
俺はクラっとしそうだった。
遠目で見てもドキドキするのに、近寄ったらたまったものではない。
「は、はい……」
「もう、おどおどして本当に可愛い~。舞、お持ち帰りしていい?」
「お、お持ち帰り!?」
「それは無理かな。それよりも部屋の片づけが終わったから上がっていいよ」
「うん、分かったー」
その言葉に強く反応してしまった。舞さんがやんわりと断ったが。
もし本当にお持ち帰りされたら、生きて帰れる気がしないだろう。主に別な意味で。
「悠二君も来て。今日は光ちゃんと勉強する事になったから」
「そうなんだ……ところで片付けって何してたの?」
「ああ、ちょっとね。悠二君が帰ってきたと同時に終わったから、ちょうどよかったよ」
怪獣のソフビだろうか? と考えたが、それはタンスの中にあるはずだ。
首を傾げた俺だが、舞さん達と一緒に部屋に入っていくとショゴスの遺影がない事に気付いた。
それを片付けていたのか……まぁそりゃあそうか。
「それじゃあ光ちゃん、どこから補習するの?」
「えっとね。じゃあ悠二クンの観察!」
「……光ちゃん」
「ウソウソ、じゃあ古文からで。悠二クンも勉強参加する?」
「いえ……僕は見ているだけでいいので……」
そもそも子供に古文を見せて分かるのかという問題だ。
舞さんと萩山さんがテーブルに勉強道具を広げ、すぐに補習を始めた。
真剣になった2人を邪魔しないよう、俺は遠巻きに見るようにする。たまに古文の教科書を覗いたりしたが……内容がチンプンカンプンだ。
大学合格がギリギリだったと言われるくらい、俺の頭はそこまでよくない。
一緒に試験を受けた友人に「よくそれで受かったな、裏口入学でもした?」と言われたのがいい思い出になっている。
「萩山さん。舞さ……舞お姉ちゃんは授業強いんですか?」
「だから光でいいって。舞お姉ちゃんは強いどころか学年3位以内とるくらいに頭いいよ。ちなみにわたしは40位くらい」
「頭いいんですね光さん」
「やっと名前言ってくれたぁ。嬉しーなー」
そこまで名前呼びが嬉しかったのだろうか。
ともかく光さんの言葉が本当なら、成績はそれなりといったところか。
「あとここにはいないけど、勇美って友達が20位以内だったかな。ってか勇美も来ればよかったのになー。ジムなんかいつでも行けるのに」
「しょうがないよ。ソフト部、今が楽しいって本人が言ってたんだし」
「それは分かるけどさー、絶対に悠二クン見たら卒倒するって。知ってる? 勇美ってば、ランドセル背負った男の子見て『かわっ……』って言ったんだよ。ヤバいよね? 変質者だよね?」
「変質者は言い過ぎのような……」
「悠二クンに出会った瞬間、鼻血出して『我が生涯に一片の悔いなし!』って抱き付くと思うな。まぁ、これはわたしのビジョンだけど」
勇美という子は俺も会った事はある。しかし彼女がそんな性癖だったのは初耳だ。
そんなたわいもない会話をしながらも、2人はシャーペンの動きを止めていなかった。たまに光さんが「ここ教えて」と言って、真剣な表情で舞さんの指導を聞いている。
これほどに真面目だと、かえって間に入りにくい。
俺は暇潰しに、パソコンを立ち上げてネットサーフィンする事にした。
ツイットがどういう流れになっているのか気になったので開いてみると、トップに『#防衛軍』とリンクが表示されていた。
嫌な予感を覚えつつも、そのリンクをクリックする。
《防衛軍が4号を倒してくれた怪獣5号攻撃したのかよ。恩を仇で返すとか糞じゃん》
《うわぁ……最悪……。人間の味方っぽい5号を攻撃するとか正気の沙汰じゃない》
《防衛軍ゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミ》
《5号は俺達の為に怪獣を倒しているのに防衛軍と来たら……》
《あーあ、やってしまったなぁ。5号を怒らせたら防衛軍壊滅すっぞ? てか税金泥棒は壊滅した方がいいか》
《ニュースにも撮り怪の写真にも、ちゃんとその様子があるから言い逃れは出来ないな。クレーム入れたるわ》
《防衛軍チャレンジ!! 皆でクレームかけまくろうぜ!!》
うぉお……炎上してる……。
まずニュースとかで、正式に『巨大怪獣5号』と命名されたソドムとマンティコアの戦闘が報じられていた。
もちろん、この後に防衛軍がソドムを攻撃した事も例外ではない。
これを受けて、世間が防衛軍に対する不満を爆発させたらしい。
元々ソドムはタラスクやマンティコアを倒した影響か、世間では人間の味方なのではという意見が強まっていた。それと同時に、怪獣をロクに倒せない防衛軍へのヘイトが増したのは想像に難くない。
そこに「防衛軍が脅威から救ってくれた怪獣5号を攻撃した」という事実が浮上したのだ。
ヘイト大噴火。別タブで開いたネットニュースには『防衛軍へのクレーム、誹謗中傷の電話が多発』と防衛軍全員が胃潰瘍になってもおかしくない事件が起こっていたという。
いやいや、これはやり過ぎだろ……。
確かに防衛軍にはクズがいたのだが、さすがに全体がああだとは限らない……はず。
一応、これを機に内部の改善をしてほしいものだが。
《防衛軍に攻撃された時に降ってきた光って何なんだろうなぁ……》
あるコメントと映像が目に入る。
ソドムの前に現れて、防衛軍の攻撃を受け止める光の玉。映像からではそうにしか見えない。
しかし俺は確かに見た。あの光には巨人の影があったはずなのだ。
それが何故、俺の前に現れて守るような行動をとったのかは不明。それを知る日が来るのかもだ。
「悠二クン、パソコン使えるんだ。何してるの?」
考えふけていたところに光さんが話しかけてきた。
「い、いえ、少しネットサーフィンしてまして……でももうゲームをします」
この世の闇と混沌を見たせいか、これ以上ネットを見るのが辛くなってきた。
そこで俺は舞さんが持っている「据え置きにも手持ちにも出来る某有名ゲーム機」をいじろうとした。
「ああそう? じゃあわたしの膝でやんない?」
「……えっ?」
光さんが自分の太ももをポンポン叩いている。乗れという事だ。
美人の太ももに乗ったらどうなるのだろうか。天に昇るのか、はたまた尊くなるのか。
俺はあれこれ考えてしまいショート寸前になりそうだった。
「……あっ、一応聞くけど舞は大丈夫? これって悠二クンをわたしが奪うって感じになっちゃうというか」
「奪うだなんておおげさな……。別にそこまで怒ったりしないけど、ちゃんと勉強はしてね?」
「はーい。さてお姉ちゃんの了承を得た事だし、ドーンと乗って!」
「……ええ……」
以前のお風呂もそうだが、俺には拒否権がないらしい。
でもスカートから覗かせる白い太ももが実に魅惑的だ。触ったらスベスベしているような……。
……もうどうにでもなってしまえ。
諦めに近い感情を抱きながら、そっとその上に座った。
「ん……?」
「どうしたの?」
「あっ、いえ……それよりも何か……柔らかい……ですね」
「そう言ってくれると嬉しいなぁー。肌も気を遣っているから、結構スベスベしていると思うんだ。よかったら触ってみる?」
「さ、触っ……?」
ただでさえ今でもすごいのに?
俺は戸惑った。甘い香りが充満している中、ニコッとした光さんの屈託のない笑顔。
そしてここでスベスベの柔肌を触ったりしたら……。
「……あっ、ゲームオーバーしているよ? わたしのせいかな?」
「…………いえ、光さんのせいではございません」
「ございませんって。フフッ、悠二クンは本当に可愛いねぇ」
いかにも「
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