第18話 一緒に裸の付き合いをしましょう
「やっと着いた……はぁ疲れた……」
数時間かけた後、俺は宝田さんの自宅にたどり着く事が出来た
あれから防衛軍の攻撃から撤退した俺だが、地上に出る際には人間形態に戻ってからにしておいた。
いかに周りが森だとはいえ、いきなり地面から怪獣が現れたら察知される可能性が高いからである。
地面に潜っていたせいで服も含めて全身泥だらけ……なるかと思いきや、何と身体にはそれ1つ付いていなかったのだ。
これには驚いたのだが、もしかしたら特撮で地面に潜っていた怪獣に泥が付いていない事が関係しているかもしれない。いわゆるこれもこの世界に支配する特撮的都合だろう。
ともあれ土を被らなくてよかったと思うが、問題は帰り道だ。
怪獣プロレスの影響かは不明だが、帰りに使おうと思っていた高速道路が渋滞になっていたのだ。これではとても家に帰れない。
もちろんソドムに戻って地中潜行しつつ帰宅するという手もあったが、怪獣の居場所が分かっても家の方角は分からないのでそれも断念。
そういう訳で最終手段。なるべく山に近い町から電車で帰る事にした。
怪獣が山に潜んでいるということで自主避難があったらしいのだが、あまり聞き入れられなかったのか人だかりはそれなりにあった。駅も機能してある。
そこから電車に乗って帰路についた俺だが、その時に綺麗なOLや女子高生に「ボク、迷子?」とか「わぁ、可愛い!」とか何度も声をかけられた。おかげで相手するのに少し疲れてしまった。
ともあれ家に着いた事なので、玄関の扉に手をかけようとした。
「悠二君! 大丈夫!?」
ちょうどそこに宝田さんがやって来た。
どうやら学校の時間が終わったらしい。
「お帰り宝田さん。……走ってきたの?」
「まぁ、うん……悠二君もう帰ったのかなって。ところで痛みとかない? 結構防衛軍に撃たれたでしょ?」
「いやぁ、意外に何とも。ちょっとかゆいかなぁってくらい」
息切れしている宝田さんには悪いが、俺でもびっくりするくらいに後遺症どころか怪我すらなかった。せいぜい、今言ったかゆみと砲撃の熱でかいた汗くらい。
やはり怪獣は怪獣でしか倒せないのだろう。
それとああいうのが防衛軍の実態だと思うとやりきれない。それはネットで批判される訳だ。
「そっか、よかった……。悠二君に怪我があったからじゃ遅いから……」
「大丈夫だって。人間の攻撃でやられるほど怪獣はヤワじゃないんでしょう?」
「そうだけど……。とりあえず汗かいているみたいだし、一緒にお風呂入ろうか」
「ああ、そうだね。ありがとう…………えっ?」
会話が自然過ぎてうっかり返事してしまった。
「一緒にお風呂」とは、すなわち宝田さんと裸の付き合いをするという意味……。
「……入っちゃうの?」
「そりゃあ今朝に約束したからね。私も汗流したいし」
「……えー……」
これはどうやっても拒否できる流れではなさそうだった。
********************************
あれから俺は風呂の中で裸になっていった。
下半身をタオルでくるみ、バスチェアに縮こまるように座っている。というより入ってからこのポーズしかとっていない。
「……落ち着け……落ち着け。俺は今ちっちゃい子供……年上と一緒に入るのは当たり前……」
もうここまで行ってしまった。しかしまだ心の整理が付かない。
なにせ今行おうとしているのは「美少女との裸の付き合い」。何度も言っているが、普通に人生を送っていたら絶対に送れないシチュエーションだ。
ここで運を使い果たして後々破滅が来てもおかしくない……。
「やっぱり俺には宝田さんはもったいないかもなぁ……」
「悠二君、そろそろ入ってもいい?」
悶々としていた時、ドア越しから当人の声が聞こえてくる。
何か準備してくるというので遅くなったらしいが、いよいよ入ってしまうという。
「……いいよ入ってきて」
もはや猶予はない。覚悟を決めるしかなかった。
ドアがゆっくりと開けられ、宝田さんの姿が現れる。彼女の美しい
「水……着?」
意外や意外だった。
何と宝田さんは純白のビキニを着ていたのだ。
「うん……悠二君は男の子だし、さすがにそういうのは無理かなって。タンスにしまってたお古だけど」
「……何だ……」
少し落胆してしまった。ホッとしたような、それでいて少し残念だったような。
そして宝田さんのそういう姿を期待していたと再認識して、何だか少し顔が熱くなってしまう。実にはしたない。
ただそれはそれとして、白いビキニを着た彼女もなかなか様になっていた。
むしろビキニで隠しているからこそ、見えそうで見えないという性癖的な魅力が際立っているかもしれない
それにビキニによって形成された胸の谷間。
男子を悩殺するのか? とくらいに艶めかしい。犯罪レベルだ。
「……に、似合うよ。お古なのにもったいない」
「そうかな……でも悠二君に言われるのは嬉しいね」
宝田さんのニコッとした笑顔。可愛い。
それから「じゃあ髪から洗うね」と髪を泡立てながら洗ってくれる。
ちょうど頭がかゆかった俺には心地よいマッサージだ。
「……!」
「ん、どうしたの?」
「い、いや、何でも……」
今、自分の身体が跳ねてしまった。
恐らく宝田さんは気付いていない、胸の先端が俺の背中に当たっていたのを。それが跳ねた原因なのだ。
いわゆる「あててんのよ」的な大胆さではなく、本当にちょびちょび当たっているレベルだ。
それが俺には逆効果。そのじらし感が絶妙で、妙にウズウズしてしまう。
「そ、そうだ……宝田さんもあの光見た?」
なるべく話題を振ろうと、例の件を彼女に話してみた。
「うん、私にも見えたよ。あとあれ、巨人が中にいたよね?」
「やっぱり気付いた? てことはウ……じゃない、アルティだったのかな?」
アルティ……改め『アルティシリーズ』は、こちらの世界における巨大ヒーロードラマだ。宝田さんが面白いとイチオシするので近々視聴する予定。
ともかく光の中にいた巨人は、俺にとってそちらを連想するものだった。
「どうだろうねぇ……アルティが実在してたとかだったら私もびっくりだけど。それに何で悠二君を助けたんだろう?」
「…………」
答えを出せない。そもそも巨人の正体すら知らないのだ。
今何かを言ったところで推測の域を出ない。
「アイツ、また現れるのかな? その時になったら宝田さんどうする?」
「それはあの巨人次第だから分かんないかな。……っと、そろそろ流すね」
宝田さんが出したシャワーが、頭の泡を洗い流す。
目に入らないよう、ぎゅっとつぶる俺。
「……あと悠二君、そろそろ呼んでもいいんだよ?」
「何を?」
「名前。いつも『宝田さん』って呼んでいるからさ。『舞』じゃあ駄目?」
「……そうだった……な。いいの?」
シャワーが終わってから尋ねると、無言の頷きが返ってきた。
もちろん苗字が分からないなどの例外を除けば、女性を名前で呼んだ事はあまりない。少しこそばゆさが感じてしまう。
「ま……舞さん……」
「うん、ありがと。というかやっぱりさん付けなんだね」
「だ、だって、舞さんは俺のお姉さんだし……」
「フフッ、可愛いー」
宝田……いや舞さんが抱き付いて、頬ずりをしてきた。
色んなものが当たってくる。俺の理性が持たない!
「あ、あの! このあと俺が舞さんの背中流すよ!」
「いいの? じゃあお願いしようかな」
「ちゃんと優しくするので……」
この後、お互いの背中を洗い合ったり、一緒に湯船に浸かったりと楽しいひと時だった。
いつしか俺は、謎の巨人の事を頭の隅に置いていた。
それから風呂から出た後。
「それ、ショゴスの写真?」
「さっき弔おうって言ってたから、せめてこうしてあげたくて。ショゴス、悠二君を助けてくれてありがとうね」
舞さんがショゴスの写真をテレビの近くに置いていた。
ここまでの徹底ぶりに、俺はキュンとときめいた。
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