第16話 ソドムVSマンティコア 1

「な、何だ!?」


「撃てぇ!! 撃てぇ!!」


 複数の針が浮かぶという非常事態に、防衛軍が即座に無反動砲を発射していた。

 煙の尾を引いた弾頭が直撃するも、針に傷1つ付いていない。それどころか針がぐるりと回転し、先端を防衛軍へと向けていた。


「言わんこっちゃない!!」


 俺は知っている。怪獣ものにおいて、軍の攻撃は怪獣に効かないのがお約束なのだ。


 苛立ちを覚えながらも、俺はソドムの姿へと変身。

 すかさず≪サルファーブレス≫を吐き、防衛軍に襲いかかる針を全て焼き払う。針は炭になりながら地面へと転がった。


「もう1体現れたぞ!?」


「これでは挟み撃ちされる!! とにかく退避!!」


 ソドムとしての俺に気付いた後、蜘蛛の子を散らすように逃げる防衛軍。


 この時、彼らの身体が赤く光っている事に気付いた。そのせいか森の中でも、ハッキリとその動きが分かってしまう。


 赤外線のような物だろうか? でもこれなら防衛軍を巻き込まずに済むか。


 この辺は「怪獣だから」と考えておいた。怪獣というのは超常的な性質を持っているのが常だ。


 一方で針を浮かせた山が震えだし、ゆっくりと起き上がってくる。

 やがて山の下に隠れていた箇所が、陽の目にさらけ出した。


 ――カカカカカカカッカ!!


 出っ歯の目立つネズミ顔にライオンのような鬣。血のように赤い両目。

 全身が灰色の毛皮に覆われていて、さらに背中からヤマアラシのような針が急速に生えてくる。


 概ねライオンヘアーのネズミが二足歩行をして、背中におびただしい針を生やした感じといったところ。

 凶暴そうと言えばそうだが、先日のタラスクほどではない。小さくしたらペットに出来そうな感じだ。


「あの針が厄介そうだな……でもやるしかない」


 俺は今いる場所から怪獣の前へと着地。

 衝撃で木と土がバラバラに爆ぜる。


 ――カカカカカカッ!!


 そうして怪獣が歯を鳴らしながら向かってきた。

 俺は腰を低くするように身構え、接近した怪獣へと腕を大きく振るった。しかし怪獣がジャンプしてかわしてしまう……が、ここまでは想定内。


 腕を振るった遠心力で身体をひねらせ、尻尾をしならせる。

 鞭のように振るわれた尻尾が怪獣を叩き付け、地面に転がせた。


 ――ガアア!! カカカカ!!


 怪獣が体勢を立て直した途端、無数の針がまた宙に浮いた。

 まるで某機動戦士に出てくるオールレンジ攻撃のようだ。


「さっきから思ったけど、アイツ超能力でも使えるの……か!?」


 1本が俺の足に刺さりそうだった。

 さらに立て続けに針が向かってくる。俺はとにかく回避し続けたが、やがてそれらが四方八方に来るようになった。


「ならば!」


 逃げられないならば下がある。

 両腕を使って地面を掘った。するとどうだ、一瞬にして地面の中に入り込む事が出来たではないか。


 そんなすぐに掘れるかと思っていた俺にはチャンスだった。「地面の中に素早く潜れる」という設定のおかげだ……と言いたいところだが、


「やっぱり怖くて目を開けられない! 怪獣どこだ!?」


 地面の中で目を開けるなんて自殺行為。なかなかそのような事が出来なかった。

 そのせいで怪獣がどこにいるのかも全然分からない。


「くそ、どうすればいい!?」


『悠二君、目を開けて! もしかしたらその方が見やすくなるかも!!』


「宝田さん!?」


 焦っていた時に舞い降りた宝田さんの啓示。

 勇気を振り絞って目を恐る恐る開けてみると、なんと全然痛くはなかった。目の中に土が入っているにも関わらずにだ。


 さらに真正面に赤い点が浮き出ているのが見える。


「これもしかして……!」


『怪獣の点だね。プロフィールに乗せてなかったけど、やっぱり怪獣には超感覚ってのがあるんだと思う』


「なるほど、そういう事か……!」


 俺は防衛軍が赤い点になって見やすくなっていたのを思い出した。

 元からそういう感覚があったのか、あるいは地面潜行能力が追加された時のオマケなのか。ハッキリとはしないが、いずれにしてもありがたい。


 そしてこうやって目を開けても痛く感じないとは、やはり怪獣は色々な意味で恐ろしい。

 さすが人知を超えた存在とうたわれるだけある。


「宝田さんはもう昼休み!?」


『うん、今は学院の隅っこにいるよ。ここなら誰も来ないし』


「じゃあサポートよろしく!」


 手足をかき分けて地面を掘りだした。ちなみに幼少期にやったゴムボールのプールを進んだ感じをコツにしている。

 赤い点として表示された怪獣は、俺を探しているのか一歩も動いていない。その隙に地上へと浮上。


「グオオオオオオオ!!」


 ――ッ!?


 土を爆ぜながら出てきた俺に、怪獣が驚いているようだ。

 これまた隙を突いて鉤爪を振るう。今度はさっきのようにかわされる事なく、怪獣の顔面を掻っ切った。


 黒い血しぶきと共に潰れる怪獣の片目。


 怪獣が張り手で俺を押し出した後、目を潰された激痛によって酷く悶えていた。

 あまりにも痛そうで、自分自身がやったのについ同情してしまう。


「目を潰した感触ってこんなんか……味わいたくなかったな……」


『これはさすがに痛そうだもんね……大丈夫?』


「まぁ、そのうち慣れるよ。ところでそっちの映像から怪獣プロレス見れんの?」


『それはどうやっても悠二君目線になるから。でも地面から出て攻撃するのカッコよかったよ! というか怪獣目線のバトルも悪くない!』


「さようっすか」


 タブレットに映っているのは俺目線の映像と聞いて、怪獣プロレスの魅力が半減するのではと思ったが、どうも宝田さん的にはOKだったらしい。

 そう話している間、再び怪獣の針が浮遊する。


『針を武器にしているんだね。ライオンのような鬣に無数の針……この怪獣には「マンティコア」って名付けるよ』

 

「命名するの早いね。それよりもあれが結構厄介なんだけど、どうする?」


『針か……だったら今朝に預けたを!』


 あの子が何なのかすぐに分かった。

 俺は黒い箱を宝田さんから受け取っている。あの中には『心強い味方』が入っているのだ。


「ここでか。それなら……ってどこにしまった!? ていうかポケットは!?」


 もらった黒い箱を取り出そうとした。しかし肝心のポケットがない!

 当たり前なのだが、怪獣にはそんなものはない!


『ポケット!? だったら人間形態に戻って。ちゃんと入っているはず!』


「あっ、そうか! ……ってこんな戦っている時に!?」


『うん、そうなっちゃうかも……』


 それは怪獣に対して無防備になりますと言っているようなもの。俺は愕然とした。


 しかし猶予がない。マンティコアが金切り音を上げた瞬間、複数の針が向かってくる。


「うわっ!?」


 反射的に人間形態に戻った。直後として頭上を針が飛んでいく。

 偶然とはいえ、変身解除で回避できた事に呆気に捉えてしまったが、それはさておき例の箱を取り出す。


「あったあった、上手くいってくれ!」


 すぐに箱を開けた。しかしその時に1本の針が迫ってくる。

 これはさすがに避け切れない。俺は思わず顔をそむけてしまい……、





 

「…………ん?」


 ――カカッ!?


 前を見ると針はなかった。

 そこにあるのは浮遊している青黒い粘液状物体。物体が針を受け止めていたばかりか、何と自身の中へとずぶずぶと収めていった。


「……成功か?」


『うん! 「ショゴス」が針を呑み込んでいる! ちゃんと悠二君を守ったんだよ!』


 黒い箱に入っていたもの。それはこのスライムにも似た『粘液怪獣ショゴス』だ。


 クトゥルフ神話に出てくる同名の怪物と同様、赤い1つ目を持った粘液の姿をしている。さらに今までの怪獣のような攻撃性などはない。

 この怪獣の特性は「あらゆるものを捕食し、巨大化する」というもので、いわば俺の盾役でもある。  

 宝田さんが敵怪獣に飛び道具があるのではと思って製作したのだが、それが見事に功をそうした訳だ。


『ショゴス、悠二君を守って!』


 ――カカアアア!!


 次々と針を射出するマンティコア。


 対してショゴスが俺を守るように先頭に立ち、迫り来る針を残さず呑み込んでいく。それに比例して身体が徐々に大きくなっていった。

 彼の活躍には本当に助かる。俺は再びソドムへと変身した。


「ショゴス、前に行け!!」


 指示通りショゴスが前に進む。その間にも針を喰らいながら、さらに巨大化する。


 ショゴス越しに、マンティコアが慌てふためているのがよく分かる。

 そしてマンティコアとの距離が縮まった時、突然ショゴスが破裂してしまった。


『ショゴス……!』


 喰らいすぎた故のパンクか。これには俺も動揺した。

 しかしマンティコアは目と鼻の先。ショゴスの死を無駄には出来ない。


「オオオオオ!!」


 地面を抉るように蹴り、マンティコアに肉薄。

 剣のように鋭い爪を奴の腹に突き刺した。

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