第15話 目的地に到着
軽トラに揺られること数時間。
その間は暇だったので外の風景を眺めていたが、それも退屈になってきたのでついうたた寝しそうになってしまった。
しかしすんでのところで、俺は枝分かれした道路を発見。その片方を警察官とパトカー封鎖していて、さらに奥には大きな山が見える。
「あれだな」
『もしもし、悠二君聞こえる?』
脳内に宝田さんの声が響く。
タラスク戦の時みたく、タブレットを通じて声を発しているのだ。やはり人間形態でも通話できるらしい。
「うん、感度良好。宝田さん今何してんの?」
『休み時間になったから、人のいない所にいるの。あと10分くらい経ったら授業に戻るから』
俺は腕時計を見た。
この後の授業が終わったら、今度は昼食の時間。通話に余裕があるのはここら辺くらいだ。
『悠二君だけじゃないけど、怪獣の視界はタブレットに映るようになっているよ。だから分からない事があったらすぐに言って』
「便利だなそれ。まぁ、とりあえずあの奥に行ってみるよ」
俺はブルーシートから出て、ガードレールの奥の草むらに転がった。
怪我はなし。
草むらは屈んでいれば姿を隠せるくらいの高さがあるので、前屈みの姿勢で封鎖場所の横を通過。
警察は車の誘導で手いっぱいで、草むらの中を動く俺を全く認識できていない。
こちらを見ていない事を再確認しつつ、俺は森の中へとダッシュした。
木の下に隠れていったん休憩。
「潜入成功っと。あとはこのまま山の中に突っ込むだけだ」
『分かった、気を付けて』
森の中を駆け抜ける。
怪獣の気配が感じられるので、このまま行けば目的の場所に着けるはずだ。
「……この間暇だから、ちょっと話していいかな?」
『うん、悠二君がよかったら』
「実はね、昨日大戸学院に潜入したんだ」
『えっ、ほんと?』
どうせ明かしてもさして問題ないだろうと、俺はこの話題を切り出した。
『実際に中に入ったって事? 警備員さんに見つからなかった?』
「何とか。それで宝田さんと一緒に話してる友達さん見つけたんだけど……確か光と勇美って言ってたような」
『全然気付かなかった……。あっ、名前は
この時、改めて2人を思い出した。
明るくちょいギャルな萩山さん、スポーティーでクールビューティーな結川さん。どちらも清楚で穏やかな宝田さんとは正反対。
むしろそういった三者三葉な特徴がお互いを補強し合って、それぞれの魅力を高めている。しかもどれも美人ときた。
もちろんそんな事を宝田さんに言ったらドン引きされそうなので、心の中にしまっておこうと思う。
「その、萩山さんが怪獣の話してたところも聞いちゃってさ……。宝田さんが苦そうな顔してたのすぐに分かったよ」
『……ああ、あれね。光ちゃんの言う通りだからしょうがないというか』
通話越しでも、宝田さんの声音が低くなったのが分かった。
『それに光ちゃんは悪くないよ。あの子ね、見た目陽キャなんだけど迷子になった男の子を助けたりしてさ、結構優しいんだよ。怪獣が嫌いなのはそれで不幸になった人がいるからなんだと思う』
「言ってたな、怪獣に襲われた人を考えた事あんのって」
『だから光ちゃんがああ言うのは無理ないよ。むしろ女なのに怪獣が好きな私が変かなって……』
「だから自分を下げるような言葉は言っちゃ駄目だって」
落ち込んでいる彼女に、俺はあえて強く言った。
「宝田さんは宝田さん、萩山さんは萩山さん。いくら友達でも考え方の違いってのはあるんだから。それにもしバレる時があったら、お互い話し合った方がいいよ。案外分かってくれるかもしれないし」
『そうかな……そうだといいけど』
「……宝田さん、自信持とう。俺は怪獣をフルで愛している宝田さんが好きなんだから。……っと」
足音が近付いているのを聞いた俺は、すぐに近くの木へと隠れる。
木の陰からゆっくりと覗くと、自動小銃を手にした迷彩服の男3人が徘徊していた。
間違いなく防衛軍の軍人だ。
「あれが防衛軍なんだな」
『そのようだね。ここを巡回しているって事はそろそろ近いかも……』
「上手くあの人達の目をごまかしてみるよ。それと最後に1つ、聞きたい事があるけどいい?」
『ん、何?』
「結川さんは何部? 見た感じ運動部っぽいけど」
『えっ? ……あっ、ソフトボール部だけど……えっ? 今重要?』
「あー……聞きたかっただけ」
実際は緊張感をほぐす為だったのだが、これで結川さんのイメージがだいぶ固まった。
ソフトボールに励みつつ、綺麗な汗を拭く結川さん……悪くない。
「……いかんいかん、集中集中」
『……あの、悠二君? その、そろそろ休み時間終わるから……』
「ああ、分かった。じゃあ次の休み時間ね」
『う、うん……』
通話終了。
仕切り直して潜入再開だ……と言いたいが、俺さっきなんて言った? 確かしれっと宝田さんの事が好きなんだから……とか。
うわぁ、さりげなく言うとかすげぇ恥ずかしい……! 宝田さんは気付いてなかったからいいけど……!
考えなしに言ったのがいけなかったが、時既に遅し。俺は頭の中でひたすら悶えるしかなかった。
一応、状況が状況なので、なるべく外面では平静さを装っているつもりだが。
「……次は慎重に言葉選ぼ」
悶えが引いたところで、防衛軍の軍人を通り越す方法を考えた。
そこで目に入ったのが、地面に転がっているこぶし大の石。
それを拾って、遠くにある木へと当てた。
――カツン。
「ん、何だ今の音?」
「こっちだ」
軍人達が音がした方向へと向かっていった。
手薄になったところで、俺はひそかに先に進む。
本当は軍人を気絶させて……と考えたが、それはマズい。
こちらの世界に転生する前、ドラマでよくある「首にチョップを入れて気絶させる」なんてやり方はガセだと調べた事があった。
第一、それが本当だとしても上手く気絶させられるかが不安だし、むしろ力の加減を間違えて殺してしまう可能性がある。そういうのはそれ以外ないという状況での非常手段にしたい。
という訳で、俺は走りながらまた彼らが出てこない事を祈っていたが、途端に足を止めてしまった。
目の前にはなだらかなV字型の森がある。
その底に巨大な針山と、それの周りに集まっている防衛軍、さらに簡易テントらしきものがあった。
あの針山らしきものが恐らく怪獣だ。まだ動く気配はないらしい。
「こらっ!! 何をやっているか!!」
怪獣らしきものを見ていた俺に、怒鳴り声を聞こえてた。
バレたかと思い確認してみれば、どうもそれは
「うわっ、しまった!!」
「お前達、『撮り怪』だろ!? ここは立ち入り禁止区域だぞ!!」
「何だよ! 1回だけ撮らせてもいいじゃんかよ!!」
「駄目なものは駄目だ!! 来い!!」
「ああああああ!! お金ええええええ!!」
遠くの方に高そうなカメラを持った男性2人と、彼らを連行しようとしている防衛軍の姿があった。
『撮り怪』。つまり『怪獣撮影が趣味なオタク』だろう。
「やっぱいるんだなぁ、そういう輩」
俺にも飛び火が来ないよう、草むらに隠れながらそっと離れる。
――その時、急に感覚のようなものが感じた。
気配とか違和感とかとやや違う。俗な言い方をすると「何か強烈なプレッシャーを感じた!」といったものだ。
そしてそれがどこから発したのか、俺には分かった。
今眠っている怪獣からだ。
「……? な、何だ!?」
その声に目をやると、防衛軍が慌ただしく動揺している。
原因は明白だった。怪獣の上に付いていた複数の針が、急に浮かんだのだ。
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