第14話 巨大怪獣4号
「眠っている怪獣?」
「うん、タラスク出現直後に見つかったから『巨大怪獣4号』と呼ばれているよ。ちなみに姿がよく分からないからまだ命名してない」
まさかこんな記事があるとは俺は思わなかった。単純に見落としていただろうがこれは失念。
見出しと共に山奥を映し出した写真がある。その山に囲まれるように明らかな異物が鎮座されていた。
無数の黒い針が生えた……簡単に言えば、巨大なウニが森の中にドンと置かれている印象だ。
全体像は生い茂る森とかのせいでよく見えない。もしかしたら身体の大半が地面に埋まっている可能性がある。
「『登山家によって発見された巨大怪獣4号は一向に動く事はない為、防衛軍が監視を兼ねた研究を続けている。この怪獣が起きた時には、防衛軍による攻撃が開始される』……ああ、死亡フラグだなこれ」
怪獣ものにおける軍は悪く言えば『かませ犬』。これはどう見ても防衛軍が全滅する未来しかない。
彼らが怪獣に対抗できる装備があるのなら話は別だが、あいにくそういった話は聞いた事はない。
「私も薄々そう思ってて、その前に怪獣を倒そうと思っているんだよね。でもこの山は……」
「防衛軍が網を張っているから、不用意に近付けれない」
「そう。かといってここで怪獣を出して向かわせるのも駄目じゃん? 家は壊れるし、空を飛んでも戦闘機がやって来るし……はぁ、怪獣プロレスが見たい。爪と牙が交錯する獰猛な獣同士の戦いを拝みたい」
「宝田さんのその正直なところ嫌いじゃないな。……だったら俺が行くよ」
怪獣との戦いは慣れてしまっている。俺は名乗り出た。
「大丈夫? 無理しなくていいんだよ?」
「俺なら防衛軍の目を掻い潜る事くらい簡単だから。それに宝田さんに迫力のある怪獣プロレス見せれれば、俺はそれで……」
「悠二君……」
宝田さんが少し潤んだ瞳で見てくる。
ここで俺は気付いた、自分達がシチュエーションに反して物騒な話をしているのを。でも今はそれを置いといて。
「宝田さんは明日学校があるんだから行けないとは思うな。千葉だから結構遠いだろうし」
「えーっと、やっぱり駄目?」
「駄目だよ。学生のうちはちゃんと勉強しなきゃ。俺みたいに就活難民になるよ」
「何の話?」
「いや忘れて。もちろんちゃんとサポートもしてもらうからさ。それを今から話そうよ」
「うん、分かった」
素直に応じる宝田さん。
それから俺と彼女は今後どうしていくか、合間に夕飯はどんなのにするかを話し合った。
********************************
そして翌朝。
俺は大戸学院に向かう宝田さんと共に、玄関の外にいた。
「私の合図があるまでそれを開けないでね。1回きりだから気を付けて」
「分かってる」
実は宝田さんから黒い箱を手渡されている。
その箱がたまにカタカタ震えているが、中身を知っている俺は特に気にしていなかった。
「通話が出来るのは休み時間とお昼ご飯。宝田さんはその間に俺と連絡する。こんなところだよね」
「うん。いざとなったら腹痛ですとか言って授業を抜け出すよ」
「それは奥の手にした方がいいね」
授業中サボるのは今後の成績に響くので、あまりしてもらいたくないところ。
「宝田さん気を付けてね。じゃあ行ってくる」
「あっ、待って」
「ん?」
目的地に向かおうと足を踏み出した俺に、宝田さんが突然待ったをかけた。
「どしたの?」
「その……ギュってしてもいい?」
「何ですと……?」
これまでに何回もしているが、未だそれには全然慣れていない。
またするというのか?
「怪獣プロレスが見たいのは本当だけど、やっぱり悠二君だけ戦いに行かせるのは……引け目を感じちゃって。何も出来ないんだけど、せめて悠二を抱いた方がいいかなって」
「抱い……別に宝田さんが引け目を感じなくてもいいけど…………………1回だけなら」
慣れてなくても本能に身をゆだねてしまう。
それが男の悲しい性。
「……来て、悠二君」
両手を広げ、艶やかに誘う宝田さん。
俺は思わず喉を鳴らし、ゆっくりと全てを包み込まんばかりの胸に歩み寄った。
胸に接触する前、宝田さんの手が首の後ろに回る。
顔全体に広がる胸の感触……。
「可愛いね、悠二君……」
潤った声を出しながら、俺の頭を撫でる宝田さん。
これもまたおねショタと言うべきか。
「そんな……俺はただの……」
「ただの?」
「……いや、何でもない」
「ただの就活難な20代」と言いたかった。しかし宝田さんにとって、俺は埼玉県で初めて生まれた事になっている。夢を壊してはいけない。
もし何らかの拍子でバレたらどうなるのだろうか。その時に宝田さんがどんな顔をしてしまうのか、俺にも分からない。
そんな事よりも……やっぱり胸柔らかい……。そりゃ光さんって人も揉みたくなるよ……。
とりあえずその問題は後回しにして、宝田さんの大きい胸を思う存分堪能してみた。
「宝田さん、そろそろ学校行った方が……」
「あっ、ごめん。じゃあ最後に1つ……これが終わったら一緒にお風呂入る?」
「……!!?」
耳元で囁かれた言葉に、俺はゾクっと震えた。
耳に吹きかけられたというのもあるが。
「いやでも……いいの?」
「いいも何も、悠二君は私の弟なんだから。遠慮しないで」
「……考えておきます」
「フフッ、敬語になっちゃってるよ。とにかく頑張ってきて」
俺から離れ、もう一回頭を撫でる宝田さん。
俺は顔が熱くなるのを感じながらも、こくりと頷いた。
「じゃあ行ってきます」
こうして彼女と別れた後、俺は千葉県に向かうべく家の屋根の上を飛び乗った。
宝田さんから手渡された黒い箱は、ちゃんとポケットの中にしまってある。あとは目的地に向かうだけだ。
「そういえば今まで気付かなかったけど、かすかに怪獣の気配ってのが感じるな。『この先に怪獣がいそう』なくらいのレベルだけど」
おそらく怪獣になった事で、感知能力のようなものが芽生えたのだろう。
これで目的地まで行けたら大儲け。俺は口角を上げながら、ただ前へと突き進んだ。
「あったあった」
しばらくして、街の中をまたがる高速道路が見えてきた。
俺はあらかじめ手渡された地図(スマホを持ってない為。今後買うかどうかは検討中)で、その高速道路を確認した。
実は地図にはあらかじめマークを付けてある。それが眠っている怪獣がいる千葉県の山だ。
そしてこの高速道路を通っていけば、目的地に着くことが発覚。
本当は電車などを使うべきなのだが、背に腹は代えられない。またもや無賃上等だ。
それに家を出る前に知ったのだが、電車の方だと目的の山からやや離れてしまうのだ。
その点この高速道路は山を経由するので、どちらが効率的なのかなんて言うまでもない。
もちろんこれは料金の踏み倒しだ。しかし仕方がない、こちらは防衛軍の命がかかっている。
こればかりは俺自身が怪獣だから適用されないと言い訳するしかない。心苦しいがやむを得なかった。
そんな訳で高速道路をよじ登り、料金所の上で待機。もうこの身体能力のせいで、元々あった高所恐怖症がだいぶ薄れてしまった。
荷台にブルーシートがかかった軽トラが来たので、こっそりとそこに着地。そしてすぐさまブルーシートの中に入る。
「うわっ、工具とかいっぱいだな……でも大丈夫か」
これでしばらく軽トラに乗って、それから山に着いたら降りようと思った。
ちなみにブルーシートから髪の毛が出ていたので、それを偶然目撃した人から死体遺棄なのではという話があったのを、千葉県の怪獣戦の後に知る俺だった。
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