第13話 とりあえず能力を追加してみる
大戸学院から家に帰った後、俺は出来る限りの家事洗濯をする事にした。
ゲームをやってもいいが、さすがに居候の身で何もしない訳にはいかない。
それに以前聞いた話だが、娘を心配したご両親が家政婦を雇おうとしたものの、自分で家事をやりたいと宝田さん自身が断ったらしい。
なので少しでも彼女の負担を減らしたかった。……もっとも、もう一つ理由があるのだが。
「ただいまー」
「ああ、お帰り」
俺が洗濯物を畳み終えた時、宝田さんが帰ってきた。
そして俺の姿を見てきょとんとする。
「悠二君、もしかして洗濯物畳んでくれたの? 全部?」
「うん、まぁ。あと掃除とか皿洗いもしておいたから」
「うわぁ、ありがとう! 悠二君優しいんだねぇ」
それはもう嬉しそうな顔をしながら、宝田さんが俺の頭を撫でてくれた。
完全なるおねショタ。無茶苦茶恥ずかしいが、でも無茶苦茶嬉しいので俺は照れて頬をかいてしまった。
さらにチラリと見てしまった彼女の豊かな胸。
それでつい友達の乳揉みという
「べ、別に優しくなんか……」
「ほんとの事だよ。今日は新しい怪獣ソフビ買えたし、いい日かも」
「マジで? よく買えたな」
「レジに出しても変な目で見られなかったからね。多分『弟の為に買ったんだ』って思われたのかな」
そう言いつつ、カバンの中から四足歩行の怪獣ソフビを取り出す宝田さん。
「これアルティシリーズの地底怪獣なんだけど、この流線型でエッジが効いたデザインがまたカッコよくって! 鋭い目つきと牙もチャームポイントだと思うの! もうすごい! 神!」
「お、おお……。でも最近のはスタイリッシュでいいよなぁ。しかも四足歩行なのに膝が付かないんだ」
「よく気付いたね。私、膝が付くデザインも付かないデザインも好きなんだ。どっちも味があって」
スーツアクターが四足歩行怪獣を演技する際、どうしても膝が付いてしまうデザインになってしまう。
そのネタを知っているところに宝田さんの本気度が窺い知れる。完全にニワカではない。
「怪獣で思い出したけど宝田さん、タラスクのような奴らってどうやって現れたんだ? 宇宙? それとも別次元?」
前々から思っていた怪獣の出現について質問してみた。
特撮ならば「人類の環境破壊が原因」「別次元から来た」「宇宙からやって来た」など様々な出現条件がある。
果たしてこちらはどうなっているのか?
「それがね、分からないんだって」
「分からない?」
「どの怪獣も予測なしに現れるの。何でも今までいなかったのに、急にレーダーとかソナーに反応したって話もあるし。もちろん悠二君が言った別次元説もあるみたいけど」
「そっか……。もしかしたら宝田さんみたく怪獣を作れる人間がいるのかな?」
「それ私も思っているんだ。怪獣を暴れさせているならその人、相当社会に恨み持っているかもね」
あるいはぶつかった人に殺意抱くほどキレやすいとか? 確証はないけど。
なんて俺は思ったが、今のところ有力なのは「別次元から来た」「何者かが生み出した」の2つのみ。さらに怪獣には建物を捕食するという謎の習性がある。
ますます正体が掴めない。
恐らくは怪獣の解明も仕事のうちに入る事だろう。
「そういや宝田さん、タブレット見せてくれる?」
「タブレット? いいけど」
カバンから出たタブレットを受け取った後、俺はイラストアプリを開いた。
見たいのは勇猛怪獣ソドムのイラスト。
相変わらず絵のタッチとリアルさが神……なのは置いといて、その横に描かれていたプロフィールにもう一度目を通す。
一回目は流し読みだったなので、ちゃんと内容を把握したい。
勇猛怪獣 ソドム
身長:30メートル
体重:50トン
平時は人間の少年に擬態しているが、緊急時には真の姿である怪獣へと変身する。言葉を話すなど知能も高い。
2本角と鋭い爪、長い尻尾で敵を薙ぎ払い、さらに息を吸い込む事で『サルファーブレス』と呼ぶ超高熱の熱線を吐ける。
獰猛な外見をしているが、怪獣から人々を守るなど優しく騎士道精神の持ち主。
「騎士道精神……」
「ほ、ほら、怪獣って凶暴な性格してるから悠二君にはそういう設定を……」
宝田さんが口を引きつらせながら目を逸らす。
「まぁいいけど……それよりもプロフィールで大体の能力が付くんだよね? だったら能力を追加する事って出来るのかな?」
「うん、出来るは出来るよ。ただ制限はある」
「制限?」
「例えば……『プラズマ火球を吐ける』って書くじゃない?」
宝田さんがプロフィールに『プラズマ火球を吐ける』と書いた。
そして彼女が手を離すと、スッと何もなかったように消えてしまう。
「何だこれ?」
「多分、持っている技とダブったりしているのは駄目なんだと思う。『一兆度のブレスを吐く』とかチートな感じも同じだからよく悩むんだよね」
要は元々持っている技に似ていたり、明らかに無茶苦茶なものは自動に消えてしまうようだ。
俺はどうするか考えていたところ、宝田さんが買ってきた地底怪獣のソフビが目に入った。
「ふむ……じゃあ手始めに『地中を素早く潜れる』って付けちゃいます?」
「地中潜行は怪獣の
「別にいいよ」
なにせソドムに似た古代怪獣が地中潜行能力を持っているのだ。
宝田さんがその通りにキーボードを打ち込むと、さっきみたく文字が消えるというのはなかった。
それを元にソドムの画像を上書き保存すると、俺の身体が一瞬光ったような気がする。
「追加……されたかな?」
「今試してみる? どこか人目の付かない場所とかで」
「いや、あまり穴を作るのもアレだからな。あとは……」
新しい能力を考えようと顎に手を付く。
これはズバリ、どこまで能力を追加できるのかというチキンレースでもある。なるべくソドムに似合いそうな能力を追加したいところ。
「どうせならインパクトあるやつがいいよな……。あっ、これはどうだ?」
思いついた能力をプロフィールに追加したかったが、何故か指で叩いてもキーボードが反応しなかった。
「あれ、壊れた?」
「ううん、私じゃないと書き込めないんだよ。なんて能力?」
「えっとな、『爪で突き刺す事で、相手の能力を奪う』ってやつ。怪獣にも光線吐く奴もいるだろうから、そいつの能力を奪って倒す……って感じで。どうかな?」
「……悠二君」
宝田さんが神妙な表情をしながら俺に向いて、それから不意にサムズアップをした。
「イケるねそれ」
「でしょ? まぁこんなところだな」
その能力を追加してみたところ文字は消えなかった。つまり成功である。
こうしてプロフィールは以下のようになった。
勇猛怪獣 ソドム
(以下中略)
獰猛な外見をしているが、怪獣から人々を守るなど優しく騎士道精神の持ち主。地中を素早く潜れる。爪で突き刺す事で、相手の能力を奪う。
「……なんというか、後付けしたから文章が変だな……」
「それは後で直すから大丈夫だよ。それであと聞きたい事ってある?」
「うーん。じゃあ怪獣は何体まで生み出せれるの? これも制限ある?」
「2体まで。前に一目付かない場所で実験したけど、3体目まではダウンロードボタンを押しても反応しなかったんだよ。もし制限なくてもそんなポンポン生み出せないけど」
「知らない人がパニックになるからなぁ……」
「それで敵に殺された怪獣は、二度とダウンロードできない事になってる。あとダウンロードされた怪獣の画像を消せば、姿がなくなるようになっているの」
……えっ? じゃあ俺を消そうと思えば消せるやつ?
その話を聞いて少し悪寒を感じる。
もし何らかの拍子で画像が消えてしまったら……。
「心配かもしれないけど大丈夫だよ。一度消しても、スケッチボードからダウンロードすればすぐ復活するから。……ちなみに前に間違って怪獣の腕を消しちゃったら、本当になくなった事があったの。痛覚はなかったらしいけど」
「なくても消したりしないで下さい怖いので」
そんなシチュエーションを想像すること自体が嫌になる。
とりあえず一連の話を聞いて、だいぶ宝田さんの能力が把握できるようになった。
「一応能力追加はここまでにするけど、また考え付いたら書いてくれないかな?」
「もちろんだよ。色んな能力を使う悠二君なんてカッコいいしかないもの」
「カッコいいなんて……」
こういう事をナチュラルに言えるのは、宝田さんの怪獣愛が関係しているのだろう。
俺としてはこそばゆい気持ちになる。
――バララララララララ……。
けたましいプロペラ音が急に聞こえてきた。それ音からして複数。
何事かと俺が窓のカーテンを開けてみると、上空に黒いヘリ群が飛んでいた。しかもマスコミ用のヘリとかではない。
「軍用ヘリだ……一体何だ?」
こんな時に軍用ヘリが飛ぶなんて異様だ。
怪獣関係だろうか?
「……もしかしたらアレがそうなのかも」
「えっ?」
「数日前の記事だけど」
宝田さんがスマホを軽く操作して俺に向けた。
画面にはネットニュースが映し出されていて、さらに大きく書かれた見出しが俺の目に入り込む。
《千葉県の山に怪獣が眠っている!? 防衛軍が研究も兼ねて常時監視》
やはり怪獣関係だったらしい。
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