第11話 今から身体能力の実験をします
メイクと制服の着替えが終わった宝田さんは、まさしく見違えるような姿になっていた。先ほどダサいシャツを着ていたから尚更に。
ナチュラルメイクを施した顔はさらに綺麗になったし、紺色のブレザーも中々似合っている。完璧だ。
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
カバンを持って家を出る宝田さん。
ガチャリと扉が閉まるのを見た後、俺はこれからの事を考えてみた。
まず制服姿の宝田さんが可愛すぎて悶々としてしまいそうになったが、それ以上は後戻りできなくなりそうなのでやめにした。それくらいの理性は付けているつもりである。
ゲームもしたいところだが、これは別に宝田さんが帰ってからでもやれるだろう。
ならばやる事は1つ。自分の今の状態を実験するのみ。
怪獣が真の姿なのだから、この人間としての身体が普通な訳がない。必ず何かしらのステータスはあるはず。
それの検証をする場所なのだが、宝田さんが案内してくれた庭が適任だろう。あそこなら広いので大きく動いても問題はないはず。
早速庭に着いてから軽くストレッチ。それから俺は大きな物置へと目にやった。
「……どうだろうなぁ」
もしかしたらの範疇だ。
さすがに無理だろうと半信半疑のままジャンプしたら、何と数メートルある物置の上に着地できた。
「おお、乗れた! じゃあ屋根の上!」
次は家の屋根めがけてジャンプ。これも成功。
思っていた通り、ソドムに変身していない状態でもかなりの身体能力がある。これなら忍者のような動きがとれるではないだろうか。
「すごいな俺……これだけジャンプあるって事は、もしかしたら格闘も出来るんじゃねぇかな……?」
とは言ったものの、近くにおあつらえ向きな練習台がない。
諦めようと思った矢先、家の近くに小さい女の子と背の高い青年がいた。兄妹あたりかとよくよく見てみれば、女の子が困ったような顔をしているようだ。
これはつまり事件の匂い。
俺は2人にバレないよう近くまで降り立ち、どんな会話しているのか盗み聞きをした。
「あ、あの、ですから友達に会いに……」
「うん、それは分かっているからさぁ、まずはラインを交換しようよ。それから友達の家に行ってもいいじゃないかな」
「ええと、でも……」
これは間違いない、ナンパだ。
しかも年下の女の子を誘おうとしているという犯罪スレスレのナンパだ。
痛い。マジで痛い。
男は顔が良い方だと思うが、性格ブサイクだわ年下を誘っているわでマジでない。
「……ん、何見てんの?」
「あっ」
気配で気付いただろうか。男性が俺の方を見てきた。
女の子もこちらを見ているが、
ただ前世の俺は喧嘩が強くないし、ヒーローのように女の子を助けるなんてカッコいい行為もした事がない。
困った俺だが、それでも女の子を見過ごすなんて出来なかった。
「実は俺、この子の友達でして……これから遊ぶ約束なんですよ」
「……そ、そうなんです。実はここで彼を待ってました……」
適当に考えた嘘ではあるが、女の子が意図を察して乗ってくれた。
これは一安心と思いきや、
「ふーん、そう。じゃあ彼女のラインを聞いてからでいいよな?」
だからそれを嫌がっているんだよ!?
「いや、だからその……」
「何もうウザイな。終わるまであっち行ってろ」
男性が俺の肩を押そうとする。
それにムッとした俺が軽く払おうとした。
「やめて下さいよ……」
――バシッ!!
「痛ぁ!!? いっつう!!?」
「!?」
「こいつ、何すんだよ!!」
手を払ったら急に痛み出して、さらには殴りかかろうとしてくる。俺は反射的にタックルを仕掛けた。
モロに直撃した男性は真後ろに吹っ飛び、ゴミ袋の山へとのめり込んでしまう。
「ああ……あああ……ご、ごめんなさい!!」
今度は男性が涙目になって退散してしまった。
俺としては自衛のつもりだったが、それでも男性を吹っ飛ばす力が出てしまったらしい。
そして皮肉にも、自分の強さも確認する事が出来た。
「加減、気を付けないとなぁ」
「あ、あの……」
声をかけられたので女の子の方に振り返る。
その子がもじもじしながらも、慌ただしく頭を下げてきた。
「助けて下さって……ありがとうございます。ああいうのには慣れてなくて……」
女の子のその仕草が可愛いなぁと思う俺だった。
まず清純そうな黒のボブカットが目につく。あどけなさの残る顔立ちもまさに美少女といった様相だ。
背丈が俺より上、宝田さんより下からしておそらく中学生辺りか。ますます男性の犯罪臭が増していった。
「いやこれくらい。それよりも怪我はない?」
「えっと、大丈夫です……。創立記念日なので友達に会いに行こうとしたら……あの人に会っただけですので……」
「そうか、よかった……」
何故中学生らしき女の子が平日にいるのかと思っていたら、そういう理由だったようだ。
俺は彼女を安心させようと軽く微笑んだ。すると彼女が驚くように目を見開く。
「……可愛いのに……カッコいい」
「えっ?」
「あっ、いえ……それよりもお礼させて……下さい。何でもしますので……」
「ん、何でも? ……じゃなくてそういうのは軽々しく言わない方が。というか別にお礼はいいって」
少しノリで言ってしまったが、さすがにそれはアウトだ。
もちろん女の子がそういう意味で言ったのではないとは思いたい。
それともう一つ、俺は今の身体能力に感激していた。マジですごい。
前世において体力的に強くなかったので、こうしてパワーとスピードがあるのは嬉しいところだ。
これならたとえ、宝田さんにナンパが近寄っても対処できるだろう。
「待てよ……この身体能力なら出来るんじゃないか? でも……」
「?」
ある事を思い浮かんだ俺だが、これには悩んでしまう。もしやるとするならば後ろめたさが出てくるはずだからだ。
前世の俺だったら色んな意味で無理なのだが、今の自分なら。
そんな誘惑に近い感情が俺の中で囁き、そしていつしか女の子に尋ねてしまった。
「『
ついさっき「私の学校、大戸学院って言うんだよ」と宝田さんが言っていたのを覚えている。
何でも歴史の長い名門私立高校で、宝田さんのような資産家やお偉い方の子供でないと入学できないくらい、学費が馬鹿にならないとか。
彼女からは家で待てとは言われていたが、やはりその大戸学院というのに行きたい欲があるにはあった。
「大戸学院でしたら……ここから真っすぐの本多駅から大戸駅に行けば、すぐに見えるかと……」
「分かった。お礼はこれでチャラね。それじゃあ」
「あっ……」
引き留めようとする女の子に対して、俺はその場から立ち去った。
曲がり角を通って、人目がないのを確認してから屋根にジャンプ。それからは忍者みたく屋根から屋根へと飛び移った。
まるでアメコミのヒーローになった気分だ。
ヒーローというか怪獣なのだが。
「おっ、あったあった」
目の前に以前使用した本多駅が見えてくる。
俺は早速その電車から大戸駅に向かう事にした。
今からする事。それは大戸学院への潜入捜査だ。
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