2章

第10話 服が絶望的に似合っていない!

「んん~」


 勇猛怪獣ソドム、改め東麻悠二、起床。


 起き上がって目にしたのは良い香り漂う女の子の部屋。そして同じベッドで寝ている宝田さんの可愛い寝姿。


「女の子と添い寝……初めてだったな……」


 なんてひとちるくらいに夢の展開だった。

 1人で寝るよりも断然温かいし、何より彼女が時折くっついてくるのが結構ドキドキしてしまった。


 何故こうなったのか。それはタラスクとの戦いが終わってすぐの事だった。


 宝田さんと一緒に俺用の寝間着や私服の買い物をしたり、元の世界の大乱闘なパーティーに似たゲームをやったりとしていたが、そうこうしている内に夜になった。


 と、ここで問題になったのが「俺はどこで寝るのか」だ。


 仕事にかかりきりな宝田さんのお父さんの部屋があるので、俺はそこを寝床にしようかと思っていた。

 しかし宝田さんがその意見に猛反対。


『お父さんの部屋に悠二君を寝かせられないよ! ど、どうせなら私と一緒に寝よう!』


『いやいや、そんなご無体な! 別に俺は1人でも大丈夫だって……』


『そうは言っても……悠二君は私の弟だし……それに一緒に寝た方が寂しくない……というか』


 その言葉を聞いて、俺はハッとなった。


 宝田さんはご両親が不在の中、1人でこの家に住んでいる。朝に自分で起きて自分で料理作って、誰もいない夜を過ごす。寂しくない訳がないのだ。

 人間に変身できる怪獣を作ったのもそういう事なのだろうと、ここで気付かされる。むしろ気付くのが遅れてしまった。


『……宝田さんがそう言うんなら、一緒に寝ない事もないけど……』


『ほんと? ありがとう悠二君!』


 ニコっと微笑む宝田さんに、思わずドキリしてしまったのもいい思い出だ。

 こうして美少女と添い寝という、男なら必ず夢見るシチュエーションをした訳だ。


 ちなみにドキドキして眠れなかったというお約束があるのだが、俺はそんな事なく思いっきり爆睡していた。

 緊張していなかったというと嘘になるが、眠気の方がそれに勝ったからだ。


「……スゥー……」


 それはともかくとして、俺は宝田さんの寝顔を観察してみた。

 普通にしていても可愛いので、寝顔もやはり可愛い。まつげは長いし、髪の艶々も保っていて美しい。


 そして着ているシャツには、ダブルピースをしたキモカワ怪獣の絵。


「……ブブッ……ダブルピース……ダブルピースって……」

 

 美少女がダサいシャツを着ているという腹筋崩壊な光景!

 これを見て笑わない人間はいないと思うが、かといって宝田さんを傷つけかねないので精一杯耐えるしかない。


 そもそも怪獣が好きなのは分かるが、もう少しマシな寝間着があったはず!


「……そうだ、寝ている間に」


 ある事を思い出した俺は、宝田さんのパソコンに向かった。

 彼女から自由に使っていいと言われているし、これでこの異世界のあれこれを調べる事も出来る。


 まず俺はツイットを開き、『怪獣』『防衛軍』を検索した。


《今回の怪獣も防衛軍倒せなかってさ。本当に無能。税金返せ》


《クソ防衛軍、クソ政府。怪獣に対してなーんにも対処できない。精々、避難誘導が取り柄だけ》


《てか3号って謎の怪獣に倒されたんだ。この怪獣何ぞや?》


《人間の味方の可能性がなきにしもあらず……? まぁ、この怪獣に対して感謝すべきだな。防衛軍の皆さん?》


「うっわ……」


 批判、八つ当たり、誹謗中傷。

 言いたくなるのも分からなくもないが、もう少しオブラート包むべきだと思いたくなる。


 呆れてものも言えない俺だが、さらに情報収集を続けてみる。

 怪獣の画像、防衛軍への誹謗中傷、電車が止まって苛立っているコメント……有益なのはないものかと思った時、あるものが俺の目に止まった。


《3号の奴、街を歩いてる時に変な行動とってたな。何か掴んでいる感じ?》


 そんなコメントと共に映像が投稿されていた。


 夜の街を闊歩する3号……いやタラスク。

 街の外観からして、俺が転生した時にいた田舎とは別物らしい。そのタラスクが家々を破壊しながら突き進んでいたが、途中で不意に足を止めた。


 さらにタラスクが足元を見下ろし、物を掴むような行動をとった……が、何と手には何もない。

 まるで新手のパントマイムみたいだ。


 ……この動きどこかで……。


 まるで自分より『小さいもの』を見て、その『小さいもの』を掴むような仕草。

 ――そうだ。夜に散歩をしていた前世の俺に対して、タラスクの幻がした事と同じ動き。


 となると見下ろしているのは死ぬ前の俺で、タラスクはいるはずがない別世界の俺を見つけて、それで違和感を感じて殺してやった……と。


「死ぬ前からこの世界にいたから転生できたのかな……」


 要はタラスクに殺される前には、俺はこの世界に『いた』という事だろうか。

 しかし俺の姿は見えないので、いるにはいるがいない事になっているシュレディンガーの猫状態になっているかもしれない。


 そしてこの世界に『いた』からこそ、そのままあの世に行かずソドムとして転生した。


 ……自分で考えて怖くなったが、何でああなったのか大体判明できた。

 

 問題は何故『元の世界の俺』と『この世界のタラスク』が鉢合わせしたという事だが、これは時空が歪んでいたとかそんなところだろう。異世界ものにはよくある。

 ある程度納得したところで、次に俺は怪獣による破壊活動のニュースを見てみた。


「えっ、そんなすぐに街直せるの?」


 何でもタラスクによって破壊されていたビル街が、1~2週間で復興可能だとか。

 それはありえない。普通なら1ヶ月どころか数年はかかっておかしくはない。


「破壊されても次回は直ってるとかウルトラシリーズかよ。どうやって直してんだ?」


「最新式の巨大3Dプリンタで鉄筋作ったりしてるんだって。あと政府が建築会社に予算を与えているって聞いた事があるよ」


「へぇ、そうなん……ってうおっ!? びっくりした!?」


 背後に宝田さんがいた事に、俺は無意識に飛び跳ねてしまった。


「ごめんごめん、真剣に見てたから黙ってるつもりだったんだけど……」


「そ、そう……ところでどこまで独り言聞いてた?」


「今さっき起きたばっかりだよ。何かウルトラシリーズとか聞こえたけど……もしかしてアルティシリーズの事?」


「……ああ、それそれ! よく怪獣に街破壊されてもすぐに直るんだよね!」


「確かに。まぁ、そこは特撮の都合って感じだよね」


 どうやら転生云々の話は聞かれていないようだ。言っても信じるとは思えないが。


 それにしてもそんなにも早く復興できるとは、さすがは異世界というべきか。

 あるいは宝田さんが言うように、いわゆる『特撮的都合』が支配する世界かもしれない。


「そろそろ朝食にする? 洋食にしようと思っているけど」


「お供いたします」


 ちょうどお腹が減っていたのでありがたい。


 宝田さんは1人暮らしに慣れたせいか、お嬢様にしては家事料理が得意だったりする。俺が昨日の夕飯を食べた時、それはもう舌を鳴らしたものだ。


「はい出来上がり。ありがとうね、手伝ってくれて」


「いやいや。待っているだけなのも失礼だし」


 1人に料理させるというのはそれはそれで失礼なので、俺もその手伝いをした。

 今回はベーコン&スクランブルエッグ、焼き立ての食パン、身体に良さそうな野菜サラダと意識高い系の洋食。


 これには俺も胸を躍らせる。


「いただきます。ん、宝田さんの料理はやっぱ美味いなぁ」


 美少女の手料理ほど美味いものはないと実感する日が来るとは。

 なお小さい手のせいでコップの持ち方がしっくりこないが、これはもう我慢するしかない。


「フフッ、お粗末様。ところで昨日も言ったけど、私今日から学校があるの。だから1人でお留守番する事になるんだけど」


「大丈夫だよ。パソコンもゲームもあるから退屈にはならないと思うし」


 宝田さんは現役女子高生1年だ。

 タラスク事件の時は休みだったらしい。


「それならいいけど……でも本当にごめんね。さすがに悠二君を連れて学校には行けなくて……。一応お昼ご飯はチンすれば食べられるようにしてあるから」


 なんて優しい子……。そんな宝田さんに俺の心が癒されるのを感じた。

 ちなみに彼女が「チン」と言ったのを、下ネタ的に聞こえてしまったのは別の話。


「ちなみに宝田さん、学校の途中に怪獣が現れたらどうするの?」


「ああ……そういうのがあったけど、なかなか授業から出られなかったかな。タブレットなんて出したら怪しまれるよ」


「やっぱりそんな上手くいかないか」


「とりあえずタラスクを倒したから、そう頻繁には来ないと思うんだよね。神奈川県に出てきた『サーペント』もまだ行方不明だし」


「サーペント……龍みたいな2号の事?」


「うん」


 海龍型怪獣だからサーペント。納得のネーミングだ。

 それと怪獣の名前が伝説の幻獣、あるいは名所からばかりだが、多分そういった癖があるのだろう。


「……っと、ごちそうさま。私は部屋でメイクと着替えしてくれるから、それまでゆっくり食べてて」


 と言って宝田さんが2階へと上がる。

 1人残った俺はサラダを食べながら呟いた。


「どうすっか。家でゴロゴロするかそれとも……」


 発言だけ聞けば、まるで女の子の家に寄生するヒモみたいである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る