第4話 可愛い女の子と可愛い怪獣少年

 人間になった俺は女の子と共に森を抜け、道を歩いていた。

 その間に渡された手鏡を見ていた訳だが、これがまた色々と驚きだった。


「10歳くらいだな……。確かに顔立ちが可愛い……子役かよ」


 パサパサしてなくて瑞々みずみずしい褐色の髪。パッチリとした二重まぶたの目。

 女の子にも見える愛嬌のある顔立ち。


 鏡に映っているのは、人に加護欲を与えそうな可愛い男の子だ。

 俺自身の子供の頃とは全く似ていない。というかこんな姿をしていたら、女の子からキャーキャー言われていたはずだ。


 髪色は怪獣形態の体色からだろうが、それ以外は獰猛なあの姿とは一致しない。

 もし俺自身がこの男の子ではなく、かつ「この子、怪獣に変身できるんだよ」と言われたらアニメの見すぎたと片付けてしまうだろう。


「それよりも、君の名前って?」


 色々とんでもない事がありすぎて、女の子の名前を聞き損ねていた。

 俺が振り向きながら尋ねるも、何故か彼女がボォーとした表情でこちらを見ている。少し頬を赤くしながらだ。


「あ、あの……」


「……ハッ、ご、ごめんね! えっと、私は宝田舞たからだまい。あなたの生みの親……かな?」


「へぇ、そう。……えっ!? 生みの親!?」


 返ってきたのはまさかの爆弾発言だった!

 

「俺、もしかして君の息子!? 君が俺のお母さん!?」


「ま、まぁ……当たりと言えば当たりだけど。詳しい話は落ち着ける場所でするけど」


 そう話していると、目の前に怪獣による破壊跡が見えてきた。


 怪獣が通ったところだけが破壊されたらしく、住宅地の中に一直線の破壊跡が存在するという奇妙な構図になっている。何より間近で見れば、家の内部が丸見えだったり木材が飛び出ていたりと悲惨な光景だ。


 既に警察によるバリケードテープが張られているも、スマホで撮影している野次馬でいっぱいだ。

 見る限りだと怪我人はいないらしい。


「あの怪獣、一体何なんだ?」


「3日前に現れて、こうして家を破壊しながら地面に逃げたりするの。は『巨大怪獣3号』って言ってるけど、私は『タラスク』って呼んでる」


「タラスク?」


「やっぱ怪獣の名前はあった方がいいかなって。そういうのは大事だし」


「まぁ、確かに」

 

 俺は納得した。

 名前のない怪獣なんて、ダシを入れていない味噌汁だ。


「……あれ、防衛軍?」


 今さらり言われたので、気付くのが遅れてしまった。 


 宝田さんはハッキリと防衛軍だと言っていた。

 そこがおかしい。普通なら自衛隊が出動するだろうし、ましては防衛軍なんて聞いた事もない。


「宝田さん、自衛隊っていうのはいないの?」


「じえい……何それ? 聞いた事ないけど」


「……やっぱりここって異世界なんじゃ……」


「ん、今なんて?」


「いや何も」


 これはきな臭い事になってしまった。


 ともかく俺達は、その破壊跡から離れて進み始めた。何でもここから宝田さんの家に帰るのらしいのだが……。


「電車?」


「うん。タラスクがここにいるって聞いて地元から来たの。途中で降りてホテルに泊まる予定だから」


 着いたのは小さな駅。何と電車で家に帰るという。

 つまり怪獣目当てでかなり遠くから来たという事になる。年頃の女の子にしては大胆な行動だ。

 

 今の彼女がキャスケットにパーカーと地味目の服装をしているが、それの理由が何となく分かった。

 可愛い服装で遠出なんてしたら、ナンパされたり悪い虫に付かれるのがオチだろう。


「行動力あるなぁ」


「まぁ、ね。色々と」


 何ともはぐらかす言い方だ。

 まだ会って数分も経っていないのだが、この宝田舞という子はわりとハキハキと喋らない印象だ。


 多分性格は大人しい方だろう。陽キャといった感じではない。


「…………」

 

 そう話している内に、つい俺は彼女に見惚れてしまった。


 宝田さんはまさしく『美少女』という概念をフル稼働した可憐さがあった。

 お世辞抜きでライトノベルのヒロインになれる。彼女が表紙に載っていたら真っ先に購入不可避だ。


 潤いのある色白の肌は柔らかそうだし、薄ピンク色の唇は小さめで形がいい。

 しかも胸が結構大きい。ぶかぶかとしたパーカーからでもちゃんと分かる。


 こんな子が俺の目の前に現れて、なおかつ会話している。もはやアニメの展開とも言ってもいい……。


「どうしたの、そろそろ行くよ?」


「ああ、ごめん」


 とりあえず彼女の後を追いながら電車に乗った。

 

 ちなみに念のために駅名を確認してみる。

 名前は見たところ『芹沢せりざわ駅』。さらに地図には『はべる駅』『さかき駅』など聞いた事がない名前が。

 

「あの、ここって何県なんだ?」


「埼玉県だよ。私の家が東京にあるの」


「そう……」


 俺自身、埼玉出身だから分かるのだが、埼玉にそんな駅名なんてある訳がない。

 やはりこの日本……らしきところは、俺がいた日本とは別物の可能性が高い。

 

「……俺、これからどうなるんだろう……」


 今感じているのは、落ち着かない感じの不安だ。



 ********************************



「では明日の朝までのご利用ですね。ごゆっくりどうぞ」


 電車に乗っている間、すっかり夜になってしまった。


 俺達は途中下車をして、駅近くの格安ビジネスホテルへと到着。

 宝田さんが従業員に一泊利用を伝えた後、用意された部屋の中へと入った。ちなみにパソコンとシャワールーム付き。


「大丈夫なの、お金」


「自慢じゃないけど結構持ってる方だから。それよりも先にシャワー浴びてくる? 次に私も入るけど」


「えっ……ああいや、宝田さんが先でいいよ」


「いいの? じゃあごめんね」


 特に先に入る理由はなかった。そう促すと、宝田さんがシャワールームへと向かう。


 当然の話であるが、シャワーを浴びるという事はあの瑞々しく色白な肌をさらけ出し、生まれたままの姿になる訳だ。

 さらにシャワーを浴びて輝く肌、雫が垂れた胸。そしてうっとりした舞の表情……。


「いかんいかん……幼くなってもこんな妄想かよ!!」


 精神年齢の方は、女性歴ゼロの20代そのままだったらしい。

 とりあえず気晴らしを考えてみたところ、机に置いてあるパソコンが目に入った。


「調べてみるか。この世界の事とか分かるかも」


 調べ物をするにはネットに限る。ネットに勝るものはないのだ。


 年月を調べてみようとキーボードを触れたが、手が前世より小さいので少し違和感というかやりにくさを感じてしまった。これは慣れないとキツい。


 とにかくキーワードは打ち込めたので、すぐに検索をした。

 元の世界では令和4年だったのだが……どうやらこちらだと平成34年になっている。日にちは5月初旬と、怪獣に殺された日と大差はない。


「平成が続いているって事か。じゃあネットニュースは……」


 次に経歴を見てみると、以下の詳細が書かれていた。


 まず今日から2ヶ月前。

 千葉県に翼竜型怪獣が出現し、桜祭りを開いていた某街に被害を与えた。大きさは自動車より2倍くらいだったの事。

 ソイツは駆け付けた警察官と交戦していたが、最終的にパチンコ店のネオンにぶつかって感電死をした……とか。


 後の個体に比べれば小さく虚弱体質だが、世間では最初に現れた未確認生物として『巨大怪獣1号』と呼ばれているそうだ。


 続けてその3週間後、神奈川県の海から龍を思わせる体型をした『2号』が出現。

 長い身体で高速道路に巻き付くなど破壊を尽くした後、海の中に戻っていった。こちらは今なお行方不明らしい。


 そして3日前の東京に、カメとゴリラを複合したような怪獣が出現。

 これが宝田さんが言っていた『3号』もとい『タラスク』だ。


「怪獣の姿といい時代設定といい、まさにテンプレだな……ってあれ?」


 タラスクについて調べてみると、どうやら奴には正体不明の怪獣と戦っていた経歴がある。

 何故怪獣同士が戦っていたのかは今なお不明であり、さらにその謎の怪獣はタラスクによって殺されてしまったらしい。


 その後タラスクは地面を掘って移動し、埼玉県に現れた……との事。


「正体不明の怪獣ねぇ……」


「お待たせ、次入っていいよ」


 ちょうどその時、宝田さんがシャワールームから帰ってきた。

 もしかしたらバスタオル一枚かバスローブ姿の彼女がそこに……ドキドキしながらも俺は宝田さんを見た。




 そこに立っていたのは、キモカワいいデフォルメ怪獣が描かれた白シャツと黒ズボンを着た彼女だった。


 ……だっさ!!!?

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