第2話 まさかのおぞましい死亡理由
世の中、上手くいかないものだ。
『この度、厳正なる選考を行いまして、誠に残念ではございますがご応募いただいた求人の採用を見合わせていただくことになりました。
「……また落ちた……」
俺は就職活動の真っただ中だ。
まだ大学卒業まで時間はある。それまで食べていけるような会社に就職をしていきたいのだが、結果はご覧の有様。
これまで落ちた会社は10社。そして1週間前に面接を受けたIT系企業からは、何度も目にした文章……いわゆる『お祈りメール』が来た。
自室の中で、自分のため息が寂しく響く。
面接は落ちて当たり前。むしろご縁がなかっただけだから気にする必要はない。
そう大学の講師から聞かされているものの、こう何度も落ちてしまったらくよくよしてしまうのが人間の性というものだ。
このままだとフリーターか最悪無職になってしまう。
俺は不安でたまらなくなり、居ても立っても居られなくなった。
「外に行くか……」
気晴らし目的で散歩をする。今の俺にはこれしか思いつかなかった。
俺は外に出て、ただ歩くだけの人間になる。
親にはコンビニに行くとは伝えていたが、別に向かうつもりはなかった。むしろ人のいない路地裏に入りたい気分だ。
人目の付かない路地裏を歩き回る中、また俺はため息を出してしまう。
自分の事を認めてくれなかったというのが実に痛かった。何がいけなかったのかも分からないから、ふつふつと面接落ちしてくれた会社に鬱憤が溜まる。
「いっそのこと怪獣にでもなって、あの会社壊したい……というか色んな建物破壊したい」
変身願望の類いというやつか。
俺は昔から怪獣が好きで、よく怪獣のソフビやフィギュアを集めている。
怪獣王シリーズは昭和からアニメ版を網羅したし、光の巨人や君を退屈から救うヒーロー、正義の亀怪獣、海外のロボット VS
怪獣になったらどんな感じなのだろうと昔から思っていた事もある。
目線は高層ビルから見下ろすのと同じではないか、歩いたら地面が陥没するのではないか、熱線を吐く時にどんな感じなのか……など。
とにかく怪獣の姿になって、自分を蹴り落とした会社を叩き潰して瓦礫の山にしたかった。もちろん人を殺すのはよくないので、無人になった時を狙いたい。
……と色々考えたが、そもそも会社のビルには警備員とかがいる。無人になる時間なんてない。
しかもそんな非現実な事が起こったら、就活どころではないのだが。
やめやめ……これの反省を生かして次の面接に挑まないと。
きっと自分の面接の仕方とかが悪かったんだ……自己PRも見直さなきゃ。
落ち込んでいても仕方ないので、何とか次の会社に探す方針にシフトした。
それでも見つからなかったらどうするか……そう俺が思った時、ふと足を止めてしまった。
「……? 何だ?」
前方の暗闇を見ると、何かおぼろげな影のようなものがあった。
目を凝らしてみると、半透明の何かというのが分かった。それには爪があって、指があって、どうみてもそれは……『足』だ。
何で足? 何で半透明?
疑問に思った俺が足を辿るように見上げると、身体があった。
さらに上を見ると、顔があった。
――グルルウウウ……。
聞こえてきた唸り声と共に、顔が俺に向けてきた。
開いた口が文字通り塞がらなくなった。
顔は異形で怪物的だ。暗いからよく分からないが、間違いなく人間ではない。そもそも見上げるくらいに大きい人間なんている訳がない。
身体がごつくて、長い尻尾もある。姿勢も前屈みで生物的。
「えっ? えっ?」
ついに就活のノイローゼで怪獣の幻覚を見るようになった?
唖然とする俺に対し、半透明の怪獣が光る目で睨んできた。ゆらゆらと動いている目が不気味で、つい怖気づいてしまう。
そしてあろうことか、怪獣が大木のような腕をこちらに伸ばして、棒立ちする俺を掴んだのだ。
「うわっ!? 何で……幻じゃ……!?」
脱出しようにも、力が強くて中々できなかった。
瞬く間に宙に浮かされてしまう俺の身体。さらに怪獣の顔が至近距離に近寄ってきた。
――ハアアアァァァァ……。
怪獣の息が聞こえてくる。気のせいか、顔に殺気が見え隠れしているようだった。
怖いなんてものではない。せめて助けを求める声でも上げたかったのに、口が震えて何も言えなかった。
するとその間に身体が痛くなってきた。そして痛みが耐え難い激痛へと変わっていく。
怪獣が俺の身体を締め上げているのだ。
「ガッ……!? カッ……ハッ……!」
このままだと死んでしまう。しかし力が入らない。
口から血が吐いてくる。
小便がだらりと股間から垂れてくる。
骨が外に出る感触。ハラワタが出る感触。
そして……筋肉がズタズタに引き裂かれる感触。
――ゴリ……!! グチャバキ……!! ボキベキ……!!
骨と肉が砕かれる音が、俺の耳にかすかに聞こえてきた。
それから目を覚ましたら、自分が怪獣になって、目の前に美少女が立っていたという訳だ。
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