第4話

 父の答えを聞いてセリーヌは口元を扇子で隠しながら笑い出す。


「ふふっ、おかしいですわ」


「何がおかしいんだ!」


「だってお父様がご自分が現ヴォクレール伯爵だなんて面白いご冗談を仰るのですもの。その上、伯爵家で一番権力を持ってるですって? 勘違いもここまでくると滑稽ですわ」


「は……? カトリーヌ亡き今、その夫だった私が伯爵だろう? セリーヌこそ何を言ってるんだ?」


(やっぱりご自身が伯爵だと思い込んでいたわね。この感じだと演技ではなく本気でそう思ってますわね)


「いいえ。お父様はヴォクレール伯爵ではございませんわ。伯爵ではなく、伯爵代理ですの」


「伯爵代理……だと!?」


「私の実のお母様は亡くなられるまではヴォクレール伯爵でした。本来ならば次期伯爵になり得るのはお母様の子である私ですが、その当時私は10歳。なので、一時的にお父様を伯爵代理とし、私が成人したら正式にヴォクレール伯爵となり、お父様の伯爵代理はお役御免となる訳ですの。貴族法に#則__のっと__#ると、私が伯爵となった後はお父様とお義母様とミリィは伯爵家から出て行ってもらい、平民となりますわ」


「この私が平民だって!?」


「はぁ!? 私達はずっと伯爵家で生活できるんじゃないの!?」


 父と義母が噛み付くように反応する。


「嘘だと思うなら、貴族法の相続に関する項目の個所を探して読んでみて下さいな」


 セリーヌは優雅にカップに口をつけ、紅茶を一口啜る。


「お母様は慎重な方だったからご病気になった時点で遺言書を作成・信頼できる弁護士に預け、自分の死後の伯爵家は娘の私が相続出来るよう関係各所に届け出だったり、手続きはされておりました。届け出や遺言書には、お父様には伯爵家の権利に関して一切与えないと書かれておりますわ」


「う、うそだろう……。そんな馬鹿な……!」


「数年前、お母様の手記が出てきたので読んでみましたが、お母様はお義母様とミリィのことはご存知でした。婿入りなのに結婚後も裏切りを続けていたような夫に伯爵家に関する権利を与えたいと思います? 私の父にあたるので、私が成人するまでは伯爵代理になることまでは仕方ないとは思っていたようですわ。伯爵の地位が私ではなくお父様に恒久的に渡るようにすれば、お義母様とミリィと結託して大切な自分の実家が乗っ取られてしまう可能性がありますもの」


 セリーヌが亡き母の手記を発見したのは偶然だったが、やはり母は父のことを良く思っていなかったようである。


 父は元は子爵家出身で伯爵家に婿入りしたが、母からすると格下の父が不義理を働き続けることは不愉快に感じていた。


「以上の話のまとめとして、イアン様とミリィは結婚して次期伯爵夫妻としてこの伯爵家で暮らすことは絶対にあり得ないのですわ。イアン様のお父様もお母様もご存知かと思いますが、家を継ぐにはその家の血が流れていなければ継ぐことは出来ない。つまり、今回の場合は私とミリィ、イアン様はどちらと結婚してもヴォクレール伯爵家への婿入りではなく、私と結婚した場合のみヴォクレール伯爵家への婿入りになるのです」

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