第5話
「え? それではイアンは…」
イアンの父が震えながら尋ねる。
「イアン様はミリィと結婚したので、ヴォクレール伯爵家の婿ではございません。クレマン子爵家はイアン様のお兄様であるファビアン様が継ぐことになるかと思いますので、イアン様はご実家関係で継げる爵位がない限りは今のところ平民としてミリィと夫婦としてやっていくことになるかと存じますわ。そう思ったので、私は今日の二人の結婚式に使用した婚姻届けは平民用のものを手配致しました」
「我が家には爵位はクレマン子爵しかなくそれはファビアンに継いでもらうことがもう決まっているし、親戚関係でも爵位を継ぐ子がいなくて困っている家はない……」
「あぁ、こんなことなら簡単に相手を変えることを許可しなければ良かったですわ。息子の言い分を鵜呑みにせず確認していれば……。確認していても子がいるから手遅れね……」
イアンは結婚相手がセリーヌからミリィに変わるだけで、結局ヴォクレール伯爵家に婿に行くことには変わらないと楽観的に自分の両親に伝えていた模様だ。
ただ、貴族の結婚は重要な事柄だから、”息子がそう言っていたから大丈夫だろう”ではなく、結婚相手の家族についてきちんと調べることは必須である。
後から不都合な事柄が発覚しても、それは事前に調べておかなかった方が悪いということになる。
今回の場合であれば、セリーヌは前妻の子でヴォクレール伯爵家の相続権を持っているが、ミリィは後妻の子で相続権は持っていないことは調べて把握しておくべきであった。
この情報一つとっても息子の将来が全く異なる。
相手がセリーヌのままならば親として何も言うことはないだろうが、この情報をきちんと掴んだ上ならばミリィでは反対せざるを得ない相手となってしまう。
結婚式を挙げ、婚姻届けを出してしまった今、そんなことを知っても遅いのである。
しかも今回は子までいる為、単なる浮気とは違う。
「イアン様のお父様・お母様には大変申し訳なくは思いますが、イアン様ご自身が私ではなくミリィを選んだ結果ですわ。深く考え、きちんと情報を集めた上でではなく、楽観的・短絡的に行動したからこんな事態になるのです」
イアンとミリィがくっ付いたのはセリーヌが留守にしていたたった三ヶ月の間だ。
勢いだけで行動した結果だろう。
「でもよろしいではありませんか。イアン様はたとえ平民になってもお好きな方と結婚出来たのでしたから。あの日、”お前には婚約解消を拒否する権利はない”、”俺達が結婚したら伯爵家を出て行け”と一方的に、そして威圧的に私にそう仰られたのですもの。”俺達が結婚したら伯爵家を出て行け”は今しがたイアン様の勘違い発言だと判明しましたが、ミリィを虐める私を追い出したくてそう仰ったのですわ。それほどまでにミリィのことがお好きなのでしょうね。平民になってもお二人は仲良くやって下さい。愛があれば大丈夫。私はお二人の幸せをこの伯爵家で祈っていますわ」
セリーヌはにっこり笑って告げた。
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