第3話
「そ、それは……前妻のカトリーヌの実家だな。すっかり忘れておった」
冷や汗をかきながら答える。
「では、お父様はもうおわかりいただけただけましたわね? イアン様はミリィと結婚しても次期伯爵夫妻としてこのヴォクレール伯爵家で暮らすなど絶対にあり得ないと」
「で、でも私はお前じゃなくミリィと一緒に暮らしたいのだ。カトリーヌとは親の命令で結婚しただけで、そこに愛はない。でもミリィは、愛するキャシーとの娘。親なら誰でも愛する相手の子と愛のない関係の子なら愛する相手との子の方が大事に決まっているだろう! そういう訳でミリィがヴォクレール伯爵家に残り、イアン君と共に家を盛り立てていくのが正しいのだ! 私は現ヴォクレール伯爵だ! この家で一番権力があるのだ! お前は黙って言うことを聞いておれば良いのだ」
セリーヌの父はまだ母が生きていた頃も一度としてセリーヌを可愛がってくれたことなどなかった。
それでも、母はセリーヌを可愛がってくれていたので、母が生きている頃はセリーヌは父から可愛がってもらえないことに対しては何も思わなかった。
母が亡くなり、悲しみに暮れていたセリーヌなどお構いなしに、亡くなってすぐ昔からの恋人である義母とミリィを伯爵家に迎え入れ、セリーヌは伯爵家にまるでいない存在として扱われていた。
同じ父の子供なのにミリィには何かにつけては世話を焼き、笑いかけ、欲しいものは何でもプレゼントをしていた。
その扱いの差を見て、セリーヌは父に期待するのはやめた。
義母は肉体的な虐待こそしなかったが、”あの女さえいなければ若い頃に一緒になれたのに!”という長期間日陰の存在にされた憎しみを持っており、ミリィには激甘でミリィにだけは母親らしいことはするが、セリーヌには母親らしいことを一度もしなかった。
ミリィはそんな両親のセリーヌへの態度を見て、セリーヌは格下の存在であり、この家では何でも自分の言うことが通ると増長した。
そしてセリーヌを陥れるようなことばかりしていた。
例えば自分のネックレスを自分付きのメイドに頼んで、セリーヌが留守の隙にセリーヌの部屋の机の引き出しに入れ、ネックレスがなくなったと騒ぎ立てる。
使用人も総出で探し、セリーヌの机から発見される。
その後泣きながら両親に「姉様が私のネックレスを盗んだの。酷いわ……」と報告する。
この場合、セリーヌは父と義母に何を言っても信じてもらえず、叱責を受ける羽目になる。
勿論、セリーヌも馬鹿ではないので、義妹と関わることも必要最低限とし、母から大人になったら使いなさいと譲り受けたアクセサリーの類など本当に大切なものは奪われないように、父は知らない伯爵家の秘密の隠し部屋内の頑丈で開閉の為のダイヤルが極めて複雑な金庫にしまい込んだ。
この増長した結果が今回のイアンとの結婚だ。
セリーヌはこの居心地の悪い家で成長していくにつれ強く決意した。
将来は絶対この父と義母とミリィにこの伯爵家に関していい思いはさせまい、と。
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