第9話 いわゆる現状の説明回です。
主君の業についてはさておいて、まずは整理しなければならない外交上の問題を確認するため、ロジャーは自室の地図を確認する。
我らがモンテギュ伯爵・クリスティアン・ド・オセールは、先年起こった西フランク王国とブルターニュ王国の諍いにおいて、目覚ましい軍功を挙げたために西フランク王国国王・シャルル二世の目に留まり、伯爵へと取り立てられた、いわば新興貴族である。といっても、地元のお行儀の良い愚連隊みたいな連中を扇動して、いつの間にか頭目になっちゃった、人の良さだけが取り柄の男であったが・・・
ここから少し複雑になってくるのだが、厳密に言うとモンテギュ伯爵クリスティアンは、西フランク国王シャルル二世の直臣であり、直接の主従関係はシャルル二世としかない。しかし、モンテギュ伯爵領は、「ポワトゥー公爵領」の一部と考えられている。このため、クリスティアンは正式には、西フランク王国国王・シャルル二世が臣下、ポワトゥー公爵にしてアキテーヌ公爵・ランヌルフ二世の家臣、となるのが自然な形となる。しかし、国王直々の取り立てにより封土を賜った者を、自身の家臣に無理やり組み込むのは反逆ととられかねないため、親愛なるランヌルフ二世公は我がモンテギュ伯爵家へ、手が出せない状況となっている。
要は、我がモンテギュ伯爵家は王家直参で、バリバリの王家忠誠派に属している、と見られている。
そもそもな話、アキテーヌ公はポワトゥー公をこそ名乗っているが、ポワトゥー公領を構成する4つの伯爵領、すなわち「ポワティエ伯爵領」、「トゥアール伯爵領」、「リュジニャン伯爵領」、「モンテギュ伯爵領」のうち、「リュジニャン伯爵領」しか領有していない。さらに公爵領の領都と見なされている「ポワティエ伯爵領」など、遠くバルセロナに本拠を置くバルセロナ公爵、ベルナール二世が領有している状態であるため、現在、ポワトゥー公爵領内は分裂状態にあるのだ。
肩の凝る状況説明は以上にして、先ほどクリスティアンに確認した方針通り、モンテギュ伯爵家の外交方針は、「穏健な王党派」として、アキテーヌ公に膝を屈さず、国王シャルル二世への忠勤に励むこととなったわけだ。ポワトゥー公爵領の統一なんて面倒くさいことは一切関知しない!うん、単純明快だ!!
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