第8話 密談と、裸族と・・・

 クリスティアンが手をかざしてうんうん唸ったら町が生えてきた時から、ロジャーの思考は停止しっぱなしであったが、クリスティアンがもたらす新しい知識の数々を吸収するのに手いっぱいであった。


「わかった。分らんことは十分わかった。ほんで、あんなにバカだったフラヴナですらいつの間にか理解しているのにとても腹が立つ。なんだよ『ギルド』って・・・」

 クリスティアンの隣で新しい施政についての案を聞き流して半日、ロジャーなりに理解をしようとしたが、話の3分の1もわからなかった。しかし、ロジャーが担当するのはあくまで「外交」である。現在はアキテーヌ公ランヌルフ二世の、ド田舎に存在する臣下であるクリスティアンについて、急激な領土の発展をしても、いきなり注目を浴びることはなかろうと、差し迫った問題はなさそうである。ロジャーはひとまず独り言を述べ立てながら、今後の方針について内々にクリスティアンへ確認を取るため、その私室に向かうこととした。


 ドアをノックし、入室すると、その美貌をアンニュイに曇らせ、窓辺に肘をついた全裸のクリスティアン。確かに絵にはなるが、ロジャーにそっちの気はないため、謹んでお召替えを願い、一旦退室。一手間かかったが、これでやっと話をできる。

 伯爵宰相として、これだけの急発展、うまくすればアキテーヌ公からポワトゥー公爵の称号の簒奪を目論んで王国に一波乱起こすこともできるし、隣国・ブルターニュ王国への単独侵攻すら可能な兵力が揃う未来も見えなくもない・・・という可能性を提示した。

 クリスティアンは「私は波乱を望まない。ひたすらに西フランク王家へ忠誠を誓う所存だ」と、簡潔にその決意を述べた。主君が意思を示したのなら、臣下として従うまでだ。これまで通り、儀礼的な外交関係を維持することとした。


 しかし、一つ聞きたいことがある。

「ところで、あの落雷以来、なんでやたら裸になりたがるんだ?」

 さすがに公衆の面前では憚るが、彼は私室では遠慮会釈なく全裸で過ごしている。こうして外交についての相談で頻繁に出入りする自分としては、男の裸なんてできれば御免蒙りたい。

「・・・開放感が・・・たまらないんだ・・・」

 頬染め、俯きながらそう宣うわが友は、奇跡を為す力と同時に、業の深い露出狂という性癖まで得てしまったようだ・・・

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