第2話 あれ?伯爵様の様子が・・・

「いや、確かにね?昨日ギブ!って言った君の口にジョウゴ突っ込んでワイン流し込んだのは僕だよ?でもさ、だからって仮にも上司のアタマに酒瓶叩きつけて起床を促す宰相って・・・」

 このモンテギュ伯領の主、モンテギュ城主にして、アキテーヌ公ランヌルフ二世の封臣、「善良なる」モンテギュ伯爵・クリスティアン・ド・オセールは、ワインと酒瓶の欠片まみれの爽やかな目覚めを迎えていた。忠勤並ぶものなき、そして親友でもあるこの私、オセール家宰相ロジャーの趣向を凝らした新年一発目のお目覚ましに、ご満悦の由である。私は馬鹿笑いしたいのをこらえつつ、慇懃に我が主君へ朝のご挨拶を言上仕った。

「おはようございます、新年あけましておめでとうございます閣下。そんな些事よりも事件です。」

「待ってて些事じゃない。ウチじゃなかったら首が2,3個宙に舞っちゃう年明けになる大事だよコレ!!」

 閣下は新年もお元気である。しかし、忠臣としては件の事件についての報告を優先すべきであろう。

「閣下、率直に申し上げますと、一晩で当家は王国一の金持ち伯爵家となった由にございます。宝物庫から唸りをあげて金貨が噴出しているのです。この事態にどう対処しようかと、臣ども困惑しきりでございますれば、早急にご指示を仰ぎたく。」

「・・・ちょっとなにいってるかわかんない・・・」

 我が主君はお茶目な言動を好まれる方なのだ。


 事件は執務室ではなく、宝物庫で起きているんだ!とばかりに、ワインまみれの主君を宝物庫へ追い立てる。ものぐさな主君は少し抵抗したが、私が新しい酒瓶を掴み上げると、おとなしく現場視察へ向かってくれた。

「うん、酷いな・・・これ、金貨何枚あるんだろ?もう溢れるのは止まったみたいだね?宝物庫9つ分くらいの金貨だよなぁ・・・」

 領地の主要な評議会メンバーはすでに揃って、主君の到着を待っていた。家令のフラヴナ、元帥のシャルル、密偵頭のヴァランス、補佐司教のチエオルノス先生。そして私こと、宰相のロジャーを入れた5人が主要メンバーということになる。昨年、西フランク王・シャルル二世陛下の御前で大きな軍功を立てたクリスティアンが、幸運にも伯爵という大層な身分を頂いたことから、急遽集められた友人同士で評議会を編成している。みんな、モンテギュ村の出身で、チエオルノス先生の教え子だ。この1年は、統治なんてものに縁のなかった5人が一丸となって、のぺ~っとした、でも人を惹きつけるこの伯爵を支えてきたのだった。

「クリスティアン、私も77年生きているが、こんな現象を見るのは初めてじゃわい。雀の涙ほどしか信じとらんかったカミサマってやつの存在なしにゃ、説明できんわいな・・・」

 まず補佐司教先生がギリギリ無神論者ではなさそうな発言をかましつつ、十字を切った。まだボケていないと安心できる、ちっとも安心できない発言だったが、誰も気に留めない。おお、奇跡が!と、みんな思い思いに十字を切ったりハーンニャー=シーンキョーなる呪文を唱えたりしている。

「さっき金貨かじったり比重を確かめたりしたけども、たぶん本物だと思う。ここはウチの領地だし、クリスティアンの持ち物だってことで問題はないべ。」

 財政担当のフラヴナが報告した。北方の訛りが強い彼だが、実は北欧の貴族に連なる男であり、読み書き計算が得意なちゃっかり男でもある。北欧の血がなせる業か、一晩で酒樽いっぱいの酒を3樽空けた伝説を持つ。あとスケベだ。

「領民はだーれも目撃しとらんので、このことは外には漏れとりゃせんはずです。一応、兵隊に動員はすぐかけられるようにはしてます。」

 軍事を司るシャルルは平民で、フラヴナとしょっちゅう絡んでいる。予算策定では軍事費を分捕るために、よくフラヴナに飲み比べを挑むが、そのたびに返り討ちに遭う。学習しない男だが、戦場では鬼のように強い。一人で100騎の騎士相手に10分で殲滅して見せるほどには鬼強い。でもスケベバカだ。

「・・・」

 密偵頭のヴァランスは唯一の紅一点だが、滅多にしゃべらない。こんなド田舎には不自然なほどの絶世の美女であり、クリスティアンが何度もアタックしても、首を縦に振らない鉄壁の女だ。しかしクリスティアンが話しかけている時の彼女は、どう見ても頬は真っ赤っ赤、今もちょっとクリスティアンに見惚れて話を聞いていない。不思議ちゃんだ。一体どうやって他領の情報を仕入れているのか、いまいちわからない。多分むっつりだ。

「まぁ、偽物でなく、所有権の問題が起きないのであれば、我々でありがたく活用させてもらうべきかな・・・?」

 そう言ってクリスティアンは金貨を一枚摘み上げたが、一瞬固まった後、金貨を落として痙攣し始めたではないか!!

 その瞬間!一転俄かに搔き曇り天よ裂けよ!!とばかりに曇天を割る大雷が鳴り響く!!!頭を押さえて逃げ惑う評議員たち!!そしてとうとう、ひと際大きい雷が、クリスティアンの脳天目掛けて落ちたのであった!!!!

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